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59 父の容態


※作者は病気、薬などに詳しくありません。

不適切な表現がある可能性もありますが、ご容赦ください。




ユージンはしがみつくナルシスをそばで様子を伺っていた使用人たちに引き渡そうとするも、まったく離れないナルシスに苦笑した。


「僕はこれから父上のところにいくんだが、ナルシスも来るか?」


出来るだけ優しい声色でユージンが尋ねるも、ナルシスは嗚咽を漏らすだけでなにも答えなかった。

まだ小さい子供なはずなのに、まるで大人のように声を押し殺して泣く姿は痛々しいものだった。

ユージンはナルシスの返事を待たず、更に言葉を続ける。


「父上は体調が悪くて寝ている状態なんだ。原因がわからないから、先生にどこが悪いのか、話を聞きに行くんだよ。

ナルシスにはつまらない話かもしれないし、一人でいた方が心も落ち着くかもしれない」


ユージンがそう話した瞬間小さくナルシスの頭が左右に揺れる。


「………一緒に来るか?」


ユージンは短く尋ねた。

ナルシスはこくりと小さく頷くと、ユージンに張り付いた状態のまま運ばれる。


ナルシスは思った。

母であるイマラに怒られることは今までもあった。

だけど今の今まで手をあげられたことは初めてだった。

怖くて悲しくて、目の前にいる自分の母親が恐ろしいものに見えて、ナルシスは誰でもいいから助けてほしいと願っていた。

だが同時に母のお願いをやり遂げることが出来なかった自分が、不出来な存在に思えてならなかった。


自分なんかがいるからお母さんを怒らせたんだ。

自分なんて、お兄ちゃんに助けてもらえる資格なかったんじゃないか。


そう思ってはいたが、ナルシスは温かく優しい手つきで手を伸ばし、抱き上げ背中を撫でてくれたユージンから離れたくないとも願った。


助けてもらえてうれしいのに、助けてもらえる資格なんてなかった、助けないでもよかったと思う矛盾した気持ちがナルシスの中に生まれたが、セドリックが寝ている寝室にたどり着くまでの間、ずっと撫でてくれたユージンの優しさがナルシスの心を溶かしていった。


恐怖から流れていた涙は次第に安堵した気持ちから溢れ出し、いつの間にかナルシスは目をつぶり眠ってしまっていた。





少しばかり重くなったナルシスの重さを感じたユージンは、あやす様に撫でていた手を止め、ナルシスが落ちないよう腕を添えた。


成形された物品の使用材料や含有されている物質を調査する専門業者への連絡を終えたのか、執事がユージンのもとに駆け付ける。


「……ナルシス様は、眠っておられるのですか?」


「ああ、あの女に叩かれていた。泣いて疲れたんだろう、さっき眠ったばかりだ」


「奥様が?……正直暴力をふるっている姿を見たことはありませんでしたが……、腫らすほどに泣いた様子から見ると相当怖かったようですね」


「そうだな。あれを子供が見たらトラウマだ。将来女性に対する偏見が生まれないことを祈るよ」


ユージンと執事はナルシスを起さないよう小声で言葉を交わす。

そして眠っていてもユージンから離れないナルシスを抱えたまま、セドリックがいる部屋に到着した。




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