49 恋人への相談
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「ユン!?」
休日最終日、アリエスは明日学園に登校する際に必要になる荷物の確認をしていた。
授業が終わった後令嬢たちは自由な時間を過ごしていたが、アリエスが礼儀作法を学びなおしている姿を見た他のクラスメイト達は、この機会に「私にも教えてほしい」と手を挙げた。
流石に王妃教育も始まろうとしていたエリザベスは時間をとることは出来なかったが、侯爵令嬢のマリアとキャロリンは「いいですよ」と受け入れた。
その為アリエスが所属するクラスの令嬢たちは、授業時間が終わった後、マリアとキャロリンの指導のもと皆で礼儀作法の学びなおしを行っていたのだ。
勿論礼儀作法だけで終わることはなく、最後には大人数での茶会も短時間ではあるが開かれる。
要は反省会だ。
その際の茶菓子として、アリエスは用意していたところだった。
アリエスはメイドに来客があったことを教えられると急いで応接室へと向かった。
応接室には来客の相手をしていたアリエスの兄シリウスと、まだ婚約には至っていないが恋人のユージンが向かい合う形で座っていた。
互いに自己紹介が済んだ後なのか、シリウスがティーカップに口をつけているところだ。
「どうしたの?こんな時間に」
アリエスは会えるとは思っていなかった恋人の姿を視界にとらえると、嬉しそうにしながら尋ねた。
何故ならすでに太陽は完全に沈み、暗くなった空には月といくつもの星が輝きを発揮できる時間だったのだ。
用事があるのなら明日学園でもいい筈なのに、こうして会いに来たユージンのことを考えると、とても重要なことを伝えに来たのだろうと考えられる。
だけどなによりもユージンと会えることが嬉しかった。
アリエスは隣に座るように諭すシリウスに気付くと、ささっと兄の隣に腰を下ろした。
流石に兄の前で恋人の隣に座る選択肢は選ばなかったようだ。
「アリスには心配かけたくなくてね。前もって言いに来たんだ」
「心配?」
アリエスはユージンの言葉に首を傾げると、ユージンは少しだけ口角を挙げると答えた。
「うん。僕、明日から暫くの間学園を休むことになったんだ」
「え……休むって、どうしたの?どこか悪いの?」
眉尻を下げて心配するアリエスにユージンは首を振る。
そして「ちょっと諸事情があってね…」と曖昧に濁したユージンをじっと見つめた。
「……ユン、なにかあった?」
アリエスはユージンに尋ねた。
曖昧に言葉を濁すということは、ユージンが言いたくないことなんだろうと悟ったアリエスは、敢えて“聞かない”選択を選ぼうとした。
だが、じっとユージンの表情を見つめたアリエスはその考えを取り消した。
だいぶ疲れたのか、いつもよりも数ミリ下がる眉に、うっすらだが目の下が黒くみえ、そして唇の色も少しだけ薄くなっているように感じた。
なにがユージンを疲れさせているのか、ユージンの美貌は損なわれているわけではなかったが、それでもユージンからいつもの笑みを奪っているなにかがアリエスは気になった。
そして自分もユージンを支えることが出来ればと強く思ったのだ。
いつも通りを装っていたユージンはアリエスの言葉に沈黙する。
早く答えなければと考えた時には遅かった。
アリエスはソファから腰を上げると、ユージンの隣まで素早く移動し、立った状態で腰を曲げるとユージンの顔を包み込むように手を添えた。
「迷惑かけたくないだなんて思わないで。私はユンのことならなんだってしてあげたい。ユンが困っているなら助けになりたいし、ユンが疲れているならその元凶を取り除いてあげたいと思っているの」
「まぁ私はユンやお兄様ほど頭はよくないから、役に立てることも少ないけど…」と視線を逸らし小さく付け足すアリエスをユージンは目を見開いて見つめた。
そして衝動にかられたように、アリエスの腰を抱き寄せぎゅうと抱きつく。
立っていたアリエスを座っているユージンが抱き寄せたので、ユージンの顔はアリエスの腹部に埋まっていた。
「お、おい」と戸惑うシリウスに気付いていないのか、ユージンはアリエスを抱きしめ続ける。




