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48 久しぶりの実家2






執事は話を続けた。


再婚し、子供を産んだあともセドリックはイマラと肌を合わせることはなかった。

これはユージンもホッとした。


だがユージンが領地へ向かうため公爵邸を後にした後、イマラは少しずつセドリックと向かい合ったらしい。

肌は合わせることはなかったが、それでも子に対し少しでも思うことがあるのならば食事だけでも共に…、とセドリックの良心に訴えたそうだ。


セドリックだけではなく、執事や他の使用人も切実に訴えるイマラの言葉にはなんら不自然はないと考えた。

愛されることは望んでいない。

だけどそれでも、血を分けた子に対しては温情を与えてほしいと思うのは普通のことだったからだ。

そしてイマラが生んだ子、ナルシスが一歳と少しになった頃セドリックはイマラとナルシスの二人と食事を共にするようになった。


たが今考えればおかしかったと執事は語る。


酒を飲まなかったセドリックにイマラは執拗にワインを勧めた。

一杯だけでもと少量のワインを食事の席に出し、甘く飲みやすいと口にしたセドリックの言葉もあってそれが毎日続いた。

イマラが用意した銘柄は常に同じだった為に、最初は怪しみ毒や薬が入っていないか確認していたらしいが、今ではイマラ個人ではなく公爵家として仕入れをするようになった。

そのためイマラに毒や薬を入れるタイミングはないだろうと執事は言う。


だが一杯のワインは二杯、三杯と増えていった。

酒を飲むようになり耐性がついたのだろうと思う増量分だった為に、誰もが疑わなかった。

しかし少しずつセドリックの食事の量が減っていったらしい。


心配した執事が声をかけても仕事を優先するセドリックに、軽食を用意することしか出来なかった。


そして完璧な頭脳をもったセドリックは仕事面ではそこまで衰えることはなくとも、他に関しては全てイマラに判断を委ねるようになり、完璧だった肉体も食事を怠った所為で見るも無残な姿になってしまった。


何故父をあんな姿になるまで放置したのかと詰め寄りたいところだったが、主であるセドリックと公爵夫人であるイマラに診療を断られてしまえば、それ以上口を出すこともできなかっただろう。

仕事以外に関しては全てイマラに委ねているといっているということは、セドリックの診療だって何度も断られていたはずだとユージンは思った。

だからこそ悲しげに涙を流し、そして呼吸を乱しながら嗚咽を漏らす執事を責める言葉は飲み込んだ。


「……そのワインは今もあるのか?」


「はい、御座います。仕入れは奥様ではなく我々の手で行っていますので」


告げる執事にユージンは少しの間考え込む。


「毒物検査は?今も行っているのか?」


「はい。抜き打ちで行っていますが検知できておりません」


はっきりと答える執事の嘘偽りのない瞳を見たユージンはその言葉を信じた。


「では今日から酒を出すな。食事も消化のいいものを出し、あの女との席も別にしろ」


「し、しかしそれでは奥様が、」


「あの女のことは気にしなくていい。祖父母が来るまで僕もこの家に留まる」


ユージンを不安げな眼差しで見ていた執事は“祖父母が来るまで”と口にしたユージンの言葉に表情を明るくさせる。

そして背の低いテーブルに手を着き、身を乗り出すような姿勢のままユージンに問いかけた。


「大旦那様がいらっしゃるのですか!?」


「これから手紙を書くんだ。さすがに僕はまだ未成年で爵位も継いでいない。事実上あの女の立場が上なことは変わらないから、対抗するには祖父母が必要だろう?僕では大した役には立たないからね」


ユージンの言葉に少しだけ嬉しそうな表情が崩れたが、それでもこれから改善されるだろう未来を考えた執事は再び涙を流しながら、「ありがとうございます、坊ちゃま…」と口にする。


感謝されることではない、寧ろ当たり前のことだと考えているユージンは、それでも嬉しそうな表情を浮かべ、最初に見た時よりも表情が明るくなった執事を見ると自然に口元が緩んでいた。






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