42 幼少期の真実?3
この世界には遥か昔魔法と呼ばれる不思議な能力が存在した。
そして魔物と呼ばれる化物も存在していたといわれている。
魔法がなくなった現代は魔物という存在も絶滅したといわれているが、それでも人間の命を脅かす生物の存在はいて、また人間同士でも善悪があるように他者を陥れる者による犯罪や、領地拡大を狙っている他国からの侵攻も起こっていた。
公爵家という高位貴族として、国と民を守るためにも力をつけなくてはならなかった。
これが後継者教育の一環というものだと知らされていなかったユージンは、ただただ鍛えられるままに受け入れていただけだったのだ。
(父上は、僕だけを、後継者と考えていたのか…)
それからユージンは祖父母にもっと厳しい鍛錬を求めた。
実の息子であり、現在のデクロン公爵当主であるセドリックに施した鍛錬よりももっときついものを求めたのだ。
ずっと強い存在になるために。
そうして戻ってきたユージンは強くなった。
肉体だけではなく頭脳も同時に鍛えた。
子供ながらに事業を起業し、成果はうなぎ上りに伸ばしていた。
ちなみに従者として仕えているデインはデクロン公爵家に代々仕えるような家系ではなく、ユージンが領地にいた頃に個人的に拾った才能あふれる平民の一人だ。
「…もう一度言うけど、父上は早く継げる者を後継者だと考えていると僕は思っている。
素早く後を継がせるためには荒波を立たせる原因をなくすこと。そして効率よく鍛えさせ教育する。婚約者も同じだ。反感を抱かせない家格の令嬢を選べばそれだけスムーズにいくと考えているんだろう。だから僕とアリスとの繋がりを絶った」
幼かったユージンは純粋に喜んだ。
後継者は自分だけ。
早くに教育するのだって息子として、そして唯一の後継者として認められているのだと。
思えば父は不器用だったとユージンは思い出していた。
相手が望む言葉を言えるのは亡くなってしまった母で、父は少し空回りをするタイプだということを思い出していると、ユージンに何の説明もなく領地へと送り出したのは後継者として信頼しているということではないかと考えたのだ。
学園に通う為、一度公爵家に立ち寄ったユージンは今までの成果を直接デクロン公爵、つまりは父親に報告しようとした。
結局会うことは叶わなかったが、それでも執事から褒めの言葉を伝えられた時に、きっと口角を上げ喜んでくれただろうと父の姿を想像し達成感らしきものを感じていた。
だがアリエスに出会い、アリエス宛に出した自分の手紙を偽造されたことを知ったユージンはこの瞬間、父親に対する気持ちを変えることになる。
偽装する者としてもっとも疑わしい容疑者がデクロン公爵だったからだ。
疑い始めたユージンは従者として仕えてくれているデインに過去、ユージンとアリエスの間でやり取りしていた手紙に関わった人物を特定するように指示をした。
デインが真実を持ってくるまでユージンは不安な気持ちに押しつぶされそうになっていたが、同時に諦めも抱いていた。
公爵家の跡取りに相応しいから自分に教育を施したと考えたが、ただ公爵家を一番早く継ぐことが出来る存在がユージンだけだったからではないか。
アリエス宛のユージンの手紙だけに手を加えていたのは、ただ乳母が介入できない、いや乳母に気付かれたくない一心だったのではないか。
一つの疑惑が連鎖的に他の部分を怪しく感じさせる。
一度父のことを理解したと思えたユージンは、再びわからなくなった。
自分の父親がなにを考えているのか。
考えれば考えるだけ、子であるユージンのことなどどうでもいいと思っているのではないかとすら思えてくる。
そんな中喜ばしいことがあった。
アリエスの婚約破棄だ。
ユージンはアリエスと婚約する為に考えた末祖父母へと手紙を書いた。
実の父であるセドリック宛ではない理由は、まだ推測の段階だといえ疑わしい人物にお願いする気にならなかったからだ。
だからこそアリエスとの婚約話を進めるために必要な手続きを行ってほしいと、ユージンは祖父母に手紙を送った。




