41 幼少期の真実?2
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ユージンは幼い頃、父セドリックの考えていることがわからなかった。
恋愛結婚ではなく政略結婚で縁を結んだ両親だったが、ユージンの目から見ても決して愛情がない関係ではなかった。
それどころか互いを尊重しあっている姿は理想の夫婦ともいえる。
名前で呼び合いつつも互いに敬語は崩さない。
距離をとっているのかと思いきや、ふと目が合うと頬を染めながら微笑み合う。
政略結婚なのにも関わらず素敵だと思える関係を築いていた。
ユージンはそんな両親の元に生まれ幸せだった。
ある日突然妻を失ったデクロン公爵は荒れた。
ユージンは公爵が荒れている時、意識を取り戻してはいなかった為その姿をみることはなかったが、それでもやつれた姿は知っている。
これ以上出ることがない枯れた涙は、流れていないはずなのに頬を伝い続けているようだった。
再婚したときも、喜びの感情なんて一切ない、ただただどうでもいいと言わんばかりの父の表情をみたユージンは、じっと父親の顔を眺めているだけだった。
そして再婚相手の女性に感情を持っていない父の姿を見て、父の愛は母上にあると、ユージンはどこかホッとするような安心した感情を覚えていた。
だがなにもいわないユージンに、流石に気まずい気持ちになったのかセドリックは逸らすように顔を背けた。
セドリックにそんな態度をとられたユージンは、それでも父が願ったわけではないことだからと、複雑な心境の父の感情を幼いながらに汲んでそっとしていた。
しかし、ユージンには何故望んでもない相手と再婚したのかが分からなかった。
母への愛が忘れられず、そして別の女性に想いを抱いていないのならば、再婚なんてしなければいいのにと思っていた。
ユージンがセドリックを更にわからなくなったのは再婚相手の女が子供を産んでからだった。
セドリックと同じくらいキラキラと輝く金の髪色。
もう優しく微笑みかけてくれることもなくなった、ユージンの母であるデメトリアと同じ髪色でもある子供の髪色を見た父は、その瞳に光が差し込んだかのように久しぶりに感情を持ったように見えた。
ユージンはそんな父の様子を見て胸が痛むとともに、父の事がわからなくなった。
自分の血が本当に混じっているのかすら怪しい赤子を見て、初めて感情を見せたのだ。
期待と懐かしさ、そして喜び。
公爵夫人として顔をデカくさせる再婚相手に、父がなにもいわなくなったのもこの頃だった。
そしてユージンは再婚相手の女に命を狙われ、祖父母がいる領地へと追いやられた。
初めは何故再婚相手の女ではなく自分なのかと考えたユージンだったが、厳しい鍛錬を強いる祖父母とアリエスの手紙のお陰で父のことを考える余裕はなくなった。
そんな生活を送っていたユージンはある日、祖父母の話を聞いてしまったことがあった。
『全く、あの子も無茶を言って……まだユージンは幼いというのに』
『だが力をつけさせるためだ。それも安全な場所でな』
『だけどあの子が本格的に学び始めたのだって今のユージンよりも大きくなった頃だったのよ。今のユージンは遊びたい年頃だというのに…』
祖母は大きく息を吐きだし、大袈裟なほどの大きなため息をついてみせた。
そんな祖母に祖父は苦笑し、『孫が可愛いのはわかるが、セドリックの気持ちも汲んでやれ』と告げる。
ユージンは祖母がいう“あの子”が自分の父親のことだと理解した。
『…そうね。ユージンがいたとしても発症すらしていない“事故の後遺症”を無意味に心配し、他に跡継ぎを求める者が多い。……あの子が再婚したのも、責任を取るだけではなく、騒ぐ親族の声を鎮めるため、だったのかしらね』
『それはあいつしかわからんが、それでも幼いユージンを儂らに預けたのは、早く力をつけさせるためだろう』
『……言われなくてもあの子がユージンをここに送った理由なんて、わかっているわ』
初めて祖父母の話を聞いたユージンは戸惑った。
父がなぜ自分を手放したのか。
ユージンは深く考えてはいなくとも、赤子を見たときの父の反応から“親と同じ髪色ではない自分よりも再婚相手の女が産んだ子供のほうが大切な存在である”と考えていたのだ。
でも違った。
後継ぎは自分だけで、後継者として育てるのも自分だけだということを知った今、ユージンが父にとって不要になったのではないということが予想以上に衝撃だったのだ。
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