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39 お昼休み2




「僕が祖父母にお願いしたのは、僕にとっての家族や親は祖父母だと思ったからだ。僕という人間を成長させてくれた人たちだからこそ、僕の将来と僕の心を優先してくれるだろうと…、だから僕はアリスのことをどれだけ大切に思っているのかそれを説いた。

祖父母も僕の気持ちを理解してくれたから協力してくれたんだ。つまりアリスとの関係を応援してくれるってことだね」


アリエスはユージンの言葉を聞いて頬を赤らめた。

アリエスへの気持ちをユージンが祖父母に話したこともそうだが、応援してくれる気持ちにさせるとはユージンは何をどう話したのかと、アリエスは話の内容を知らないが、知らないからこそ恥ずかしくなった。


「それに父上はね、社交活動をやめているんだよ。母上が亡くなってからずっと」


「知らなかった…、そうなの?」


「うん。学園に入る前、領地から戻った際に執事に聞いたんだ。嘘じゃない証拠に経済状況を調べてみたけど良くも悪くも現状維持だったよ」


高位貴族となれば莫大な資産を生かすために投資することが一般的だ。

才能を見抜き将来的に利益を生み出したり、所持している資産を何かの問題で損失するリスクを軽減する為など、投資が基本の貴族にとって社会活動は必須となる。

それなのにその活動を行っていないということは当主としてかなり致命的なことであった。

だが資産を減らすことなく現状維持を守っているということは、それだけデクロン公爵の見定める力や運営している事業がうまくいっているのだろう。

再婚相手の贅沢以前に、領地だけではなく王都にも屋敷を持つだけでかなりの出費が必要になるからだ。


「だからね、父上はウォータ伯爵家の今の経済状況を把握できていないと思うんだ。アリエスから教えてもらってから僕も僕なりに調べてみたけど、ウォータ伯爵領からとれた宝石は大きさもあり、透明度も高く人気だと聞いたよ。

デザインだって素晴らしいもので、貴族女性の心を掴んでいるそうじゃないか。

だからね、これだけでも父が考えている“釣り合わない関係”には当てはまらない、よね」


こてっと首を傾げならアリエスを見つめたユージンに、アリエスはギュンと心臓が飛び出そうになった。

心の中のカメラでユージンを撮影してはいたが、何故自分はこの瞬間を記録できるカメラを常に持っていなかったのかと悔やむ。


「……でもそれは、……経済状況だけを見た話よ?家格だけを見たら釣り合うとはとても…」


「そうかな?伯爵だって決して低い爵位ではないよね?男爵ならいざ知らず伯爵だよ?」


「それは………確かにそうね」


納得するアリエスにユージンは「でしょ?」と笑った。

鉱脈を探し出す前のウォータ伯爵家は確かに貧乏貴族といえるくらいの経済状況であったため、伯爵家とは言いつつも平民と遊んだりしてきたアリエスは低位貴族と呼ばれても不自然とは感じなかったのだ。

だからこそ“身分が釣り合う相手を”と言われた時には、納得はしても反論しようとする気持ちは出てこなかった。

だが鉱脈も発見し、領民も増え、年齢的にも成長した今では平民と共に遊ぶことはなくなった。

上に立つものとして関わることはあっても、気軽に話をすることは今ではもうない。

その為公爵家と伯爵家の婚約が、身分だけで拒否されるほどに悪いとは決して思えなかった。

今のウォータ伯爵家は経済的にも潤っているからこそ余計に。


「わかったわ。私もっとウォータ家でアピール出来ることをまとめる。それと私自身で拒否されることがないように、マリア様にも頼んで礼儀作法も見直すわ!」


マリアはアリエスよりも上の侯爵家の令嬢だ。

アリエスよりも礼儀作法に厳しく育てられただろうと考えたからこそ、アリエスはユージンに話す。

ユージンはそんなアリエスに“そのままでいいんだけど”と考えながらも「頑張ってね」と応援した。

意気込むアリエスも可愛く、茶々を入れたくないからだ。


「僕は誰が父に話をしたのかを調べてみるよ。もし個人的に僕かアリスに恨みを持つ者の仕業だとしたら放っておけないからね。

それと、取り下げについても話をしてみる」


「ありがとう、ユン」


アリエスは、話しにくいだろうにそれでもデクロン公爵と話をしてくれるといったユージンに礼を告げる。


「あ、そうだ。デクロン公爵領では女性にも戦う能力が求められる。失礼だけどアリスは……」


「それなら問題ないわ。ユンから教えてもらってから私、一日だって休むことなく……は出来なかったけど、それでもちゃんと体を動かしてきたから!」


天候が悪ければ室内で、アリエスは出来る限り鍛錬、とまではいえないと思いながら答えた。

それでも毎日と答えなかったのは、体調が悪いときは心配する家族の声から安静にすることを優先した為。

自分でもそういう日があったことを覚えていたから、毎日と誇張して伝えることは躊躇われた。


「それなら安心だ。男が家を空けている間、家を守るのが妻の役割だという考えが根強くてね」


「安心して。相手次第だけど結構私戦える方よ?……まぁ真剣に戦ったら自信はないけど」


「進んで戦うことを選ばないでほしいな。アリスは僕がいない時、自分の身の安全だけを考えていればいいんだ。他の令嬢より戦えるといっても僕はアリスには無理してほしくないからね」


アリエスは「うん」と細めた目をユージンに向けながら表情をやわらげた。


シリウスの言う通り話してよかったとアリエスは思った。

兄がいなければ婚約が取り消されたという事実だけがアリエスを襲い、ずっと後ろ向きに考えてしまう状態だったかもしれなかったからだ。

こうしてユージンと話せたことで事実がわかっただけでなく、これからのことも前向きに考えられるようになった。


アリエスは残ったスイーツを見て、ユージンの皿にも取り分けながら気分よく完食した。





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