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35 カリウスとアリスの事情









何故こんなことになったんだとカリウスは霧がかった思考で考えていた。


“婚約者”であるアリエスがカリウスと同じ学園に入学してからしばらく経ったある日、ある女性と出会ってからカリウスは思考が鈍くなったような、そんな不思議な感覚にさらされた。

だが拳を作り前に突き出しても思い通り動く体にカリウスは気のせいだろうと考えることを放棄する。

それがいけなかった。


カリウスはピンクブロンドの髪色の女性と顔を合わせる毎に、会う頻度を増していった。

婚約者であるアリエスとは学園で一度も顔を合わせていないのに、なぜか婚約者ではなくアリスを優先しなければいけない感覚に陥るのだ。


そうしてアリスと顔を合わせる回数を重ねていくと、カリウスは幼いころのアリエスの面影をアリスに重ね始めていった。


昔は大きな瞳がくりくりとかわいらしく、後ろに髪を纏めることが多かったが、たまに二つに分けて可愛くおしゃれをすることもあった。

“アリス”という愛称もかわいらしく、カリウスは愛称で呼びたいとお願いしたが“私の名前はアリエスなんだから、他の女性と間違えてしまうような愛称で呼ばないで”と拒否されてしまったことから一度も呼んだことはない。

また薄茶色だった髪の毛はなんとなく、目の前にいるアリスのピンクブロンドと似ているような気がした。


成長したアリエスは護身術を極め、放っておくと他の令嬢だけではなく幼い令息までも守ってしまうのではないかと思うほどに強くなってしまった。

薄茶色だった髪も地味で濃い茶色に代わり、くりくりで大きな瞳は少し冷たいと感じるような切れ長な目と変わってしまった。

美人系になったといえばそれまでだが、あれだけかわいかったアリエスの面影が、成長したアリエスには微塵も感じられなくなってしまったのだ。


だが性格は好きだった。

あっさりとしたアリエスの性格は、女性が喜ぶ言葉を選べないカリウスにとってはとても居心地の良い相手だった。

見た目は可愛くなくなっても、きっと将来は親友のようにうまくいく。

そう信じていたのだ。


だが実際にアリエスを前にすると、なぜか偽者を相手にしているような、そんな錯覚に陥った。

俺のアリエスは違う。これじゃないとぼやける思考で考えると、乱暴な言葉ばかりを繰り返していた。

そして次第にアリスが本物のアリエスなのではないかという錯覚に陥った。

俺の可愛いアリエスは今も可愛い姿でいると、家族にしか呼ばせなかった可愛らしい愛称を口にしても咎めることもない。


カリウスは満たされた気持ちになっていたのだ。


「うぅ、アアアァァアア!!」


だが激しい胸の痛みがカリウスを襲った。

なにかの書面に言われるままにサインをした記憶があったが、カリウスはそれがなんの書面だったかも覚えていなかった。

それどころかアリスはもう一人のアリエスの姿だと思うようになっていた。


何故自分を大事にしない。

何故自分を苦しめる。


そんな疑問が、可愛くない姿になったアリエスを憎らしく思えるとともに、昔のような可愛い姿のアリスを愛らしく感じ、それが真実だと思い込めた。


小さく白い華奢な手が懸命にカリウスの体を引っ張るその姿に、カリウスは胸を高鳴らせる。


「“アリス、俺たちは婚約破棄なんてしていないよな”?」


アリスはカリウスの言葉にすぐ答えることが出来なかった。

何故ならカリウスとアリスは婚約なんてしていないからだ。


本当のアリスはユージンを選び、拒絶された。

一度きりの選択だったそれを無駄にした今、今でもアリスを構い守ってくれるのはカリウスだけだった為に傍にいて利用するつもりでいるだけだった。


アリスは小さな頭をフル回転させるとにこりと口角を上げた。


「“勿論よ、でも私たちの知らない間に婚約解消の手続きが済んでしまった。こんなのってあんまりだわ。それにユージン様が公爵家の権力を使って私を婚約者にしようとしているの。私の婚約者はカリウス、貴方なのに…”」


「アリス……」


「“だからデクロン公爵家にいって事情を説明しましょ?公爵様と公爵夫人なら、きっとユージン様の暴走を食い止めてくれるわ。その後また婚約をし直せばいいの”」


アリスはカリウスにそう提案した。

考える思考なんてもうないカリウスはアリスの言葉に頷いて答える。


「わかった。本来あるべき形に俺たちの手で戻そう」


そうしてカリウスはアリスに微笑む。

操られているようにユラユラ動くカリウスの瞳をみたアリスはぞくりと悪寒がしたが、本来のあるべき形に戻すだけだとカリウスにこたえるように頷いた。


「癒して☆愛されて」のゲーム設定では、王太子を選ばない限りハーレムエンドになることはない。

TUBEでみた隠しキャラのエンドでも、選ばれなかった令息達は悪役令嬢と呼ばれる婚約者と元鞘になるのだ。


今回アリスが選択したのは隠しキャラであるユージンだ。

好感度が低いままの状態で選択したことによって拒否されるという非常事態に陥ってしまったが、カリウスがまだアリエスと婚約者でいると思い込んでいる以上、アリスがカリウスとのエンドはありえない。

つまりこのままユージンの好感度を上げて、再びユージンを選択すれば、カリウスとアリエスは元鞘に収まり、そしてアリスはユージンとくっつくことができると考えたのだ。


隠しキャラの難易度が高いのは、男爵家の令嬢であるアリスが公爵家の嫁としてふさわしくないためである。

またユージンの生い立ちから、ユージンを使って両親に頼むという手段が使えないというのも難易度が高い理由だった。

全てをアリス一人で行う必要があったのだ。


だがアリスは考えた。

ユージンが公爵家を継ぐから難易度が高くなっているのではないかと。

それならば公爵の再婚相手の間で出来た子供を公爵家の跡取りにしてしまえばいい。

男爵家に婿入りする形でユージンと籍をいれれば、すべてが問題なく解決する筈なのだ。

高い難易度をわざわざ乗り越えることもなく、ただユージンの好感度をあげさえすればいいだけだと、アリスは考えた。






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