33 冒頭の続き
婚約解消の手続きも滞りなく進み、晴れてアリエスとカリウスの婚約解消がされた後のことだった。
「アリエス!お前はアリス嬢のことを虐めたそうだな!?」
お昼休みの時間、アリエスは仲のいい友人たちと食堂へとやってきていた。
一般クラス、騎士クラス、淑女クラスと分かれていることで、別々のクラスの生徒達は授業も被ることはなく接点は全くないように見えるが、このお昼休みの時間帯だけは同じである為、学園に通う以前からの交流がある者や、婚約者同士はこの時間帯を共に過ごす時間としている者も多い。
アリエスは再び婚約者として絆を深め直しているマリアとキャロリンではなく、別の友人と共に食堂へと来ていた。
ちなみにエリザベスは王太子殿下と一緒であるためこの場にはいない。
日替わりランチを受け取り、皆で席に着いた時だった。
ドンッと力いっぱいテーブルに拳を叩きつけたカリウスは、普通の女性ならば怯えるほどの剣幕で“元”婚約者であるアリエスを睨みつけた。
アリエスは怯えることなく冷静な態度でカリウスを横目で見る。
「カリウス・プロント伯爵令息、私と貴方との婚約は完全に解消されました。もうこれ以上私に関わらないでください」
アリエスは怖気つくことなく凛とした態度でカリウスに告げる。
カリウスの体に隠れるように身を潜めているアリスに気付いたアリエスは思わず目を細めた。
そんなアリエスに気付いたカリウスはアリエスの言葉を理解する前に目くじらを立て怒り出す。
「そうやって睨みつけるな!怯えているだろ!?」
お前の怒声に怯える令嬢の方が多いだろ、とこの時食堂に来ていた誰もが思った。
その証拠にアリエスの隣に座っている令嬢はガタガタと震え、顔を青ざめながら怯えている。
むしろカリウスの後ろにいるアリスは平常心を保っているように見えるため、一般的な令嬢よりもタフと言えるだろう。
だがカリウスはアリエスの隣にいる令嬢に、いや隣で震えている令嬢だけではなく、アリス以外の存在すべてを気に掛けることもなく話を進めていく。
カリウスは自身の後ろにいるアリスに目をやると、釣りあげていた目尻を下げ、優し気な表情で「大丈夫か?」と気遣う言葉をかけた。
いったい何が大丈夫なのかと逆に質問したくなる言葉だったが、「怖かったですぅ」と語尾を伸ばし泣きまねをするアリスを見て人々は固まった。
礼儀やマナーを重んじる貴族社内の中で、ただただ男に媚びるような芯のないアリスの発言にドン引きしたからだ。
魅了の力がなくなったアリスは見た目だけは可愛い為、第一印象はばっちりだが中身が残念だったのだ。
そのため多くの生徒が食堂を利用しているお昼休み時間ということもあり、今までアリスと関わることがなかった生徒たちにもアリスという令嬢はやばい奴だと植え付けられた。
ちなみに今までのアリスは、カリウスとカルン、そしてロジェを攻略するために手作り―とはいっても貴族お抱えのシェフが作る―お弁当を持参していたために、あまり食堂は利用することがなかったのだ。
しかも魅了の効果もあり、いくら頭の悪そうな言葉を口にしても令息たちの評判を落とすことはない。
ただ可愛いと、守ってあげたいと思われるだけで、ドン引きされることはなかったのだ。
そんな二人だけの世界をアリエスのそばで繰り広げられている中、場所を変えようか本気で考えるアリエスのもとに一人の男性が近づいた。
ユージン・デクロンである。
アリエスはユージンの姿を視界に捉えると片手をあげて合図を送った。
まだアリエスとユージンは、婚約成立がなされていないことから二人きりで行動することは控えていたのだ。
しかもアリエスはつい先日カリウスと婚約解消の手続きが終わったばかりである。
変な誤解や噂話が起きないようしっかりと自制していたが、集団行動なら問題ないだろうとお昼休みという恋心を宿している二人には短い時間を過ごすようにしていた。




