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31 解決?2



「“アリス”という名前を聞いて、“アリエスの愛称”を思い出したんだよ。アリエスの家族以外、僕だけが呼べるアリエスの愛称だ。

愛らしくて可愛い、アリエスにぴったりの愛称だから“可愛い名前”だとそういったんだけど、……まさか自分のことだと思っていたの?」


嘲笑うようなユージンの目つき。

アリスは浮かべた涙を零しながら、呆然とユージンを見上げた。


「…じゃ、じゃあ…また会いたいっていったのは?」


「君は事実を捻じ曲げるのが得意だね。僕は“君に会いたい”と言ったことはないよ。

それに、ちゃんと宣言した通り“また”会ったじゃないか」


「この、場のことを、いってたの…?」


「当たり前だよ。君に会う用事なんて個人的にないんだから」


アリスは体から力が抜けたように膝をついた。

今までこんなに胸が苦しかったことはなかったはずなのに、ユージンの一言一言に心がえぐられていく感覚を覚えていくアリスは、無表情のまま涙を流す。


そんな中アリスの前に体を滑り込ませるように割って入ったのは、先ほどまで胸の苦しみを訴えていたカリウスだった。


「彼女は…俺が守るッ!!」


ギラギラとまるで猛獣のような野性味を帯びたカリウスはジワリと汗が浮かんだ体で、アリスを抱きかかえた。

そして逃げるように食堂から立ち去ると、残った者たちはキョトンとした目を真ん丸にし、各々の反応をとった。


「まさか…魅了が解けてもアリス嬢を守るとはな……」


「ええ。私達は自分の意に反した感情を植え付けられたことを知った瞬間、あの女性に好意とは正反対の感情を抱いたというのに…」


王太子の言葉にカルンが答える。

その表情からもカルンの言葉は偽りからではなく真実を告げているのだと推測できた。


「彼女もユンではなくカリウスを選んでいれば、幸せに過ごせたはずなのにね…」


そしてアリエスは逃げるように立ち去った二人を見て口にした。

不幸は望んでいないという言葉は心からのものだった。

とはいっても幸せになって欲しいと願っているのではなく、迷惑をかけられたり、他の人を不幸にすることがなければ気にすることはないといった程度のものである。

それを正確に把握しているのはやはりユージンだけであったが、アリエスの前に二度と現れてほしくないと考えているユージンにとっては貴族籍を奪い、国外に追いやることが一番の最適案だと内心考えていることはアリエスには内緒だ。


「それはやっぱり彼女には選択する権利があったということですか?」


「権利かどうかはわからないけれど、それでも彼女が選んだ瞬間魅了が解けたのならその可能性は十分にあるわ。だって不特性多数の男性を魅了するなんて、そんな話すらも信じられない出来事なんだもの」


「そうですね……。でも無事に終わってよかったわ」


王太子はカルンとロジェに今後も期待しているという言葉と共に、「婚約者を大事にしろ」という言葉を告げた。

魅了され、正気を失っていたとはいえ既にカルンとマリア、ロジェとキャロリンの婚約は解消されている。

いや実際には書面にサインはしたが、まだ届け出がされる前のため正式な婚約破棄とはなっていないが、それでも書類にサインをした記憶は鮮明に残っているからこそ、カルンとロジェは王太子の言葉に不思議そうに首を傾げた。


「誰にも諭されることなく、自ら謝罪をしたのなら許そうと、そう話していたのですよ」


マリアは胸に手を当てながらカルンの謝罪姿を思い出すと、急にどこかに向けて声を張る。

「そうですよね!」と大きな声で告げるマリアにこたえるように現れたのは、マリア、カルン、キャロリン、そしてロジェの両親だった。


カルンの父親は厳し気な見た目のまま「レディに謝罪もできないような愚息なら廃嫡していましたよ」と口にし、ロジェの母親は「たとえ魅了で心を奪われたとしたのだとしても女性に対する態度は非常に最低でしたわ。改めての教育が必要のようですね」と笑っていない目で静かに言われていた。

だがそんな笑みでも笑っているのは四組の親だけであり、続けて現れたカリウスの両親は申し訳なさげにアリエスの両親に頭を下げていた。

無理もない。カリウスは魅了の効果が消えてもアリスに想いを抱いていたということは、魅了を抜きにしてもアリエスと婚約したままでは子を思う親として将来が心配になる結果となっていた筈だからだ。

いくら政略結婚だとしても、ある程度の関係は築いて欲しい。

愛情ではなくとも、将来を共にする以上友情でもなんでもいい関係を築いて欲しいと思っていた。

だからアリエスとカリウスの婚約解消の手続きはこのまま執り行われるだろうが、カルンとロジェはカリウスの婚約事情なんかよりも自分たちの婚約事情を早く知りたがった。

アリスに魅了される前までの婚約関係はこれでもうまくいっていたのだ。

幼いころから結ばれていた相手だったため、出来れば婚約をまた結んでほしい。

寧ろ自分たちを守ってくれたマリアとキャロリンの姿にさらなる好感度を抱いたカルンとロジェは、縋る眼で見つめていた。


「……つ、つまり僕たちの婚約解消は……」


「解消の取り消しですね」


にこりとかわいらしい笑みを添えて答えられた言葉にカルンとロジェは手を挙げて喜んだ。

まるで子供のようだが、これでもまだ成人になっていない正真正銘の子供なのだ。

マリアとキャロリン、そしてそれぞれの両親は婚約解消の取り消しに喜ぶ二人の様子を微笑まし気に見つめていた。




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