27 目が覚めた男と覚めない男
カルンはカリウスを訝しげな眼差しで見ると共に「今に分かる」と呟いて王太子へと視線を向けた。
本当なら“黙っていろ”“今はそれどころじゃない”等の現実を突きつける言葉を告げたかったのだが、カリウスという単細胞な男にはこういった言葉を告げると更に騒ぎ出す可能性があった為、頭のいいカルンは確実にカリウスが口を閉ざす言葉を選んだ。
勿論歳を重ね成長すればある程度の処世術を身につけるだろうから、今は単細胞であろうが然程気にはしていない。
だが今カリウスは十二歳の子供で、そこまで期待していないからこそカルンは確実な手をとった。
カルンとロジェがドキドキとある意味胸を高鳴らせて状況を見守っていると、尋ねられたアリエス達は微笑みを浮かべて頷いた。
「構いません。そもそも私達は婚約破棄さえしていただければそれだけで十分なのです。元婚約者や関係する令嬢の不幸は望んでいません」
「私も同じです。地頭が良いことは長年の付き合いで分かっております。殿下さえ問題なければ挽回のチャンスをお与えください」
「私もアリエス様、マリア様と同じ考えです。彼の不幸は考えておりません」
三人の言葉にカルンとロジェは感動して目が涙で潤んでいた。
そして二人は“久しぶりに”なんの偏見も持たず、純粋な眼差しで女性たちを見る。
(どうして僕は彼女の事を誤った視点で見てしまったのだろうか。彼女は僕の婚約者なのに…)
(心優しい彼女がアリス嬢を虐げるはずなどないのに、何故誤解していたのか。今だって私たちの不幸は望んでいないと殿下に話してくれているのに!)
元となってしまったが、改めて自分たちの婚約者の姿をみると今までアリスに対して感じてきた感情が誤った感情のように思えてきたが、それでも確かに心温かい愛情をアリスに感じていたことは確かであるために、カルンとロジェは正体不明な違和感にもどかしさを感じているからか、自分の感情がわからなくなっていた。
一方カリウスは今の状況が把握できていないのか、眉間に皺を寄せ機嫌の悪そうな表情を浮かべている。
(……偽善者が。そもそも何故俺が悪いかのように言われなければいけないんだ。アリスを虐げていたアイツが元凶だろう)
微笑みを浮かべ、まるで良い行いをしているかのような態度をとっているが、そもそもの元凶はアリエスなのだとカリウスは本気で思っていた。
だからこそ腹が立つ。
例えこれからカルンの言う通り、アリスが誰を選ぶか、それがわかるのだとしても、元婚約者がのうのうと笑っている姿をただ見ているだけで終わりたくなかった。
一発食らわせてやりたいと、ムカムカと腹の奥から湧き上がる感情がカリウスを支配していた。
カリウスはツカツカとアリエスのもとまで向かう。
「……どいてください。殿下」
カリウスはアリエスを庇うように前に出たエリザベスと、エリザベスを守るように間に入った王太子殿下を睨みつける。
いや、二人を盾にして守られているアリエスを睨んでいるのだろう。
カリウスは王太子の目をみるというよりも、一点を見つめているように視線をずらさない。
「退いてお前はどうするつもりなんだ」
「どうもなにも、その女にわからせてやるんですよ」
「わからせる?お前がウォータ嬢に教えてやることなんてないだろう?」
「ありますよ」
ハッキリと告げるカリウスに王太子ははぁと息を吐き出した。
「…お前らも同じ意見か?」
席から立つことなく呆然としながらカリウスの行動を見ていたカルンとロジェは、王太子が自分たちに話しかけたことに気付くと必死に首を振った。
「いいえ!僕たちは違います!寧ろ教えていただきました!」
「そうです!友愛を愛情と勘違いした愚かな私達に教えてくださった彼女らになにを言うことがあるでしょう!?彼女らに言葉を告げるとすれば謝罪のみです!」




