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「ま、待ってよ!私あの三人から選ぶつもりなんて…」


「ないのですか?一週間とはいえ私の目にはアリス様は三人に特別な感情を寄せているように見えていたのですが……」


「そ、それは物語上仕方なく…」


「物語?」


「あ、違くて…だから私は……」


アリスは口ごもり、話を止めた。

おろおろと視線を彷徨わせ、この展開をどう切り抜けようかと考えている様子にも見える。

そんなアリスの様子をみたアリエスは口角をあげていた。

だがアリスの言った“物語”という言葉の意味は分かっていない。あくまでも、アリスの目的の相手はこの三人にはいないという事実と、三人から選ばないということが重要だった。


アリエスはマリアとキャロリンに目配せするとマリアたちは立ち上がり、アリエスと共に今は誰もいない食堂の配膳スペースへと深く頭を下げた。

アリスとカリウス達は不思議そうな面持ちでアリエス達を眺めたままだったが、それもすぐに驚愕に包まれる。

誰もいない暗い空間だったそこから、思いもよらなかった人物が現れたからだ。

将来自分たちの主となる王太子殿下とその婚約者エリザベス・シャンティ公爵令嬢だ。


男たちの中でも一際顔を青ざめさせたのは宰相候補であるカルンだった。

頭のいい彼には今後の展開が痛いほどすぐに思いつくからだ。

反対に王太子殿下の登場に驚きはしたが、それだけだったのはアリエスの元婚約者であるカリウスだ。


「……婚約解消については私の方からも手続きが早く済むように告げておこう」


王太子殿下はエリザベスがアリエスから婚約解消の書類を受け取るのを横目で見つつ、しっかりとサインの書かれたそれに目を通しそう告げた。

そんな殿下の言葉にカルンは息を呑む。

この場に彼らが足を踏み込んでから誰一人入ってくる者はいなかったということは、最初から殿下は食堂の何処かに身を隠していたということ。

食堂は確かに身を隠すのならば最適な場所だが、それでも広さの所為で食堂の中心部分で話していた会話がどこまで殿下に聞こえていたのかまでは推測できなかった為、カルンは内心恐怖を抱きながらも探りながら話を重ねていけば大丈夫だろうと考えていたのだ。

何故なら殿下の側近として、カルン達は婚約者であるエリザベスよりも常に殿下のそばにいた。

そして貴族社会に慣れていないアリスのことを、たまにでいいから気にかけてあげるように頼まれていたから。

だが今殿下のそばにはエリザベスがいる。

アリエス、マリア、そしてキャロリンの友人であるエリザベスが殿下の側にいて、しかもこの婚約破棄を訴えられた場所にいるということは、明らかに自分たちの今までの行動が筒抜けになっていることを表していた。

アリエスがカルン達の行動の結果となる証拠を消すと言っても、将来の主である殿下に伝わっていると思われる今となってはもう遅かった。


(……くそ!サインなんてしなければよかった…!それならばまだ言い訳が出来ていたはずなんだ…!)


カルンは悔しそうに歯を食いしばり顔を俯かせる。

そんなカルンは殿下が次に告げる言葉に、俯かせたばかりの顔をすぐに上げることになった。


「令嬢達には悪いが、彼らにチャンスを与えてもいいだろうか?」


「で、殿、下…」


思ってもいなかった王太子の言葉にカルンは涙を薄く浮かべながら言葉を漏らす。

カルンの言葉は小さすぎて王太子には届くことがなかったが、両隣にいるロジェとカリウスには届いていた。

ロジェはカルンと同様に縋るような眼差しを王太子へ送っていたが、カリウスは隣にいるカルンに小さく呟く。


「結局アリスは誰を選ぶんだ?」


カルンは感極まっていた感情が一気に静まり、カリウスを信じられないという眼差しで見つめた。

それもそのはず。婚約者を、いや、元婚約者を放置し、一人の女性に入れ込んでいたという事実と、先ほどの女性に対する発言をそのまま殿下に聞かれているかもしれないこの状況で、今後側近として殿下の隣に立てるかわからなくなった今、期待という感情が王太子に注がれることはあっても、アリスの選択なんて今の時点では然程重要ではないのだ。

それにもかかわらずカリウスは王太子よりもアリスの選択に胸を躍らせている。






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