23 婚約解消まで
「アリエスッ!!!」
アリエスが食堂に来たことで、一番初めに反応したのは婚約者であるカリウスだった。
だがカリウスはアリエスが現れたことに驚いたわけではなく、アリエスがアリスと共にいたことに驚いている様子だった。
それはカリウスだけではなく、カルンやロジェも同様だった。
そもそもアリスはカリウスたちに同じ女性なのに仲間外れにされているという嘘をついて同情を誘い、それぞれの心を奪っていたのだ。
そしてアリエスと共に行動していたアリスをみた三人が次に考えたのは、まさかアリスを虐げていたのではないかという疑惑と怒り。
そのためカリウスは自身の婚約者の名前を怒鳴るように叫ぶ。
だがアリエスはそんな婚約者の態度にも物怖じすることなく、自身の友人たちが座っている先に目を向けるとふわりと微笑んで見せた。
男性の怒鳴り声を間近で聞いたマリアとキャロリンは萎縮していた体から力を抜き、アリエスに微笑みを返す。
「ッ!」
カリウスは自分を無視するアリエスに更に腹を立てアリエスを睨みつける。
だが手を出すことはせずに、席から立ち上がるだけだ。
ここで手を出してしまえば、騎士としても紳士としても終わってしまうことは、理性を失いつつも理解していたからだ。
とはいえ、自身の婚約者に目くじらを立てて声を荒げた時点で紳士な点は一つもないが。
アリエスはそんな男性たちが座る席と向かい合うように座るマリア達女性の前を通る形で歩き進めると、アリスを座らせる。つまり上座の席だ。
そしてアリスが腰を下ろした姿を確認したアリエスは、アリスとマリア達のちょうど真ん中に立ったあと口を開く。
「カリウス・プロント様、カルン・エドナー様、ロジェ・ルソー様、まずはお忙しい中お越しいただきありがとうございます」
アリエスは制服のスカートを少しだけ摘み、腰を落として頭を下げた。
アリエスに名を呼ばれたカルンとロジェは訝し気にアリエスに視線をやり、カリウスは立った状態でまるで威嚇するかのようにアリエスを睨み続けている。
「さて、早速本題に入らせていただきたいと思います。
まずお三方をお呼びしたのは、今後私達との婚約関係をどう考えているのかをお聞きしたかったからです」
アリエスがそう告げると、マリアとキャロリンは同調するかのように頷いた。
「今後の婚約関係とはどういうことですか」
アリエスの言葉にカリウスが食い掛ろうとしたところを、隣に座っていたカルンが押さえ、冷静に言葉の意味を尋ねる。
アリエスはカルンの問いかけに答えた。
「簡単にお伝えすると、このまま私たちとの婚約を継続するか、それとも破棄なさるか、この二択でございます」
「…ハッ」
カルンは鼻で笑う。
まるでアリエス達が婚約破棄を提示しているように見せかけ、本当はそうではないと考えているかのように“お前たちにその選択ができるわけがないだろう”と、あざ笑うかのように目の前に座っているマリアをみて笑った。
「……まぁ、カルン様が婚約関係を継続したいと仰っても、私は破棄するつもりでいますが」
そんなカルンを目にしたマリアは目を細めて呟くように告げると、カルンは隣に座っているカリウスと同じように厳しい目つきで婚約者、つまりマリアを睨む。
「……アリエス様お願いいたします」
マリアはカルンの態度に少しだけ怖気づきそうになるが、逸らすように目をつぶり、冷静を装ってアリエスに任せた。
「……それで、婚約関係はどのように考えているのでしょうか?」
マリアから任されたアリエスは再び男性三人に意見を聞く。
すると三人は怒りを含めた声色で答えた。
「破棄したいのならしてあげましょう。だが覚悟しておいたほうがいい。貴方たちは殿下の側近である私たちに見限られる形となるのだから、今度良い縁談は望めないでしょう」
「有望な人材と認められた私たちとの婚約を破棄されたとなれば、当然相手探しも困難でしょうね」
「我儘もここまでくれば罪と変わんねぇな」
三人の意見を聞いたアリエスは反論することなく「わかりました」と冷静に答え、マリアの前に置かれている書類を手にし男性三人の前へと筆とともに置いた。
それは婚約破棄に必要な書類で、既に必要な情報は記入されており、あとはカリウス達のサインがあれば全て整うと言う状態だった。




