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景気付け

 お昼となりました。

 喧嘩屋を倒しましたし、ソニアちゃんも故郷に届けましたし、私の記憶を奪った犯人も見つけましたので、帝国には何の用事も有りません。


 昼食を頂いたら、そろそろお暇でしょうかね。

 帰りはガランガドーさんに乗せてもらって、ひとっ飛びが良いでしょう。



「メリナ、ありがとう」


 墓参りから帰ってきたソニアちゃんは唐突に私へ感謝をして来ました。


「家族に弔いの言葉を言えた。私は戦う。メリナに教わった格闘技で帝国を倒す」


 幼いのに凄い気合いです。


「負けたら?」


「逃げるのは惨め。次は死ぬまで戦う。私は戦える」


 覚悟としては素晴らしい。


「前回はシャールに逃げたから、私に出会えたんですよね。逃げは惨めかもしれないけど悪くない」


「……何? 今さら、戦うな?」


「ううん。負けたらまたシャールに逃げて来なよ。四肢や両目が失くなっていても、メリナお姉さんが治してあげる。だから、生きなさい。それが死んだ家族の皆の願いでしょ」


 そう伝えたら、ソニアちゃんは私には飛び付いてお腹に頭を埋めました。

 たぶん声を殺して泣いてますね。



「大丈夫だ、メリナ。俺が残る。ソニアは俺が守ってやるさ」


 剣王です。


「有り難いことですが、それ、イルゼさんやベリンダさんの神聖メリナ王国に与するってことですよ。お前、去年までは帝国所属だったのに良いんですか?」


「んな細かいことなんざ気にすんなよ。俺は戦うだけだ。帝国所属ってんなら、こいつら全員そーだろ」


 戦力として心許ないってことはない。

 剣王はルッカさんの腕を斬るだけの実力は有って弱くはない。私の知り合いだとコリーさんくらいには強い。加えて、街の食堂にいた冒険者達からの情報だと、帝国側の強者達は喧嘩屋に襲われて不在。


「それにな、今の帝国中枢部には知り合いが何人か居る。交渉事は苦手だが、少しは恩情が貰えるかもしれんだろ」


「負ける? ゾルはそう思う?」


 私から離れたソニアちゃんが静かに尋ねる。


「ん? いや、俺が味方するんだぜ。最後には勝つさ。俺が交渉するのはお前達。復讐心に(はや)って調子に乗るのを諌めてーのさ」


「分かった。ゾルは優しい」


「んなことねーよ。優しい奴は戦争しねーぜ。帝都との間には広大な岩砂漠があるからよ、帝都の正規軍が突っ切っても1ヶ月だ。それまでにここらを押さえるぞ」



 オロ部長も地上に出てきました。今、気付きましたが、背中に生えていた2枚の羽が失くなっています。私の回復魔法は後天的に得た部位は復活させられないのかもしれませんね。


 その部長が一片の紙を渡してきました。


“私も残りましょう。修行の一環です。大丈夫。少なくとも、それまでは巫女を辞めませんから。でも、部長職はアシュリンに譲りたいって神殿に伝えて”


 悪くない。

 アシュリンは退職するので、部長は私で確定です。計画の遂行に何ら問題なし。しかもソニアちゃんの安全が増して好都合。


「すみません、オロ部長。お願いして宜しいですか?」


 オロ部長、両腕を使って大きく丸を作りました。



「ルッカさんはシャールに戻るんですよ」


「そうね。可愛いノヴロクのケアもそろそろ必要だし」


 ノヴロクとは500年前に生まれたルッカさんの息子です。色々あってシャールの牢屋に入ったルッカさんとは生き別れたのですが、2年程前に王都のお城の地下で見つかりました。王国を影で操ってきた奴らに延命魔法で生き長らえされていたのです。

 今はマイアさんの所でお世話になっていて、たまにルッカさんも見に行ってるみたいですね。


「若返りの魔法とか無いんですか? 枯れ木みたいな爺ィじゃ可愛くないでしょ」


「失礼ね、巫女さん。他人の息子を枯れ木って、言って良いことじゃないでしょ」


「エルバ部長の精霊を憑依させましょうよ。あれ、憑かれた人は逆行成長とかするみたいですよ」


「何それ? クレイジーね。でも、考えておくわ」



 何はともあれ、粗末な昼ご飯を頂きまして、私達はシャールに戻ることになりました。


「それじゃ、ソニアちゃん。元気でね」


 呼び掛けられた彼女は黙って頷きます。


「まずは国名を変えてね。恥ずかしいから」


「分かった。考えとく」


 ガランガドーさんの背中に乗ろうと手を掛けた時です。


「待て。今日の観察日記は俺に書かせろ」


 剣王が私を止めます。

 日記を書いて頂けるなら誰でも良く、むしろ、私から依頼しなくて良いのであれば幸いです。

 快く鞄から日記帳とペンを渡します。



「では、皆さん、お元気で」


 ガランガドーさんの背から私はオロ部長やソニアちゃん、それからマールテンの人々に手を振ります。その最中に剣王から筆記用具が投げられまして、ガシッと受け止めました。


「ガランガドーさん、浮上!」


『承知した』


 翼を大きく一振りして宙に浮き、続けてバタバタと細かく羽ばたき、あっという間に地上が遠くなりました。横には自力で翔べるルッカさんも居ます。


 皆、まだ手を振ってくれていました。



「ガランガドーさん、景気付けと帝国への宣戦布告目的で1つ盛大にブレスを吐いて貰えますか?」


『うむ。方角は人の多い都市に向けようぞ』


「直撃はダメですよ」


『グハハ。主よ、分かっておる』


 ガランガドーさんの首に魔力が集まるのが分かります。


「足りないですね。もっと凄いのでお願いします」


『主よ、勿論である』


 どんどん魔力が高まります。


「お前、私に恥を掻かせる気ですか? 一撃で戦意を失うくらいのヤツじゃないとソニアちゃんに示しが付きません」


『ふむ、我の本気を出す時が来たのであるな』


「巫女さん、やり過ぎ。クレイジーよ」


「いいえ。ガランガドーさん、もっと」


『これくらいであろうか?』


「もっと」


『もっと? う、うむ。グォォーー!』


「足りない。もっと」


『グオォォオオオオオーーーーー!!!!』


「良し! 射ちなさい!」


『グガァァアアアアアアーーーーー!!!!!!!』


 ガランガドーさんの口から眩しい光が放たれます。

 極太で高速のそれは、雷光みたいなギザギザを放出しながら、真っ直ぐに地平線を目指して飛んでいきます。


 そして、着弾。


 とっても大きな半円の光が遠くに見えました。恐らく大爆発によって形成されたものでしょう。そして、見たこともないキノコみたいな奇妙な雲が空高くまで昇ります。



「ガランガドーさん?」


『ハァ、ハァ、ハァ……』


「ねぇ、ガランガドーさん、これさ、帝国の人を大虐殺してない? 大丈夫かな? 人の多い都市を狙ったとか言ってましたよね?」


『ハァ、ハァ、ハァ……狙い外れた……』


「……ルッカさん、見てきてくれます? 私、先にシャールに戻ってますので」


「テリブルよ、テリブル!! もぉ! 巫女さんは加減を知らないんだから!」


 でも、そう非難しながらもルッカさんは見に行ってくれるみたいで、悲劇が起きているかもしれない方角へと姿を消しました。

 良かった。ルッカさんが犯人だと誤解されることでしょう。

◯メリナ観察日記20

 諸国連邦とブラナン王国の決戦は死者が出ないという奇跡の結果に終わった。

 真の強者は殺さずとも他者を圧倒的できる。


 その高みに至れていない俺は今後も人を殺し屍を踏みつけて進むだろう。


 だが、いずれ俺はメリナ、お前を越える。

 帝国との戦いが終われば、また稽古を願うからな。

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― 新着の感想 ―
[一言] そういやメリナは魔物駆除殲滅担当専務になるんだっけw
[良い点] 「ううん。負けたらまたシャールに逃げて来なよ。四肢や両目が失くなっていても、メリナお姉さんが治してあげる。だから、生きなさい。それが死んだ家族の皆の願いでしょ」 「ねぇ、ガランガドーさん、…
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