剣王の優れたコミュニケーション能力
「おい、あんたら、竜が出たんだ。サッサッと入りな」
街へ入る門の前で親切な門番さんがそう言ってくれたので、私達はすんなりと街の中に入ることができました。
あまり大きな街ではなく、街を守る壁もシャールと比べると、積み方も粗野だし、高さも足りないって感じでした。
剣王がここらを辺境と呼んでいたのも無理のないことだと思いました。
さて、今は馬車を降りて、賑やかな食堂にて休憩をしています。
極めて邪悪そうで狂暴そうな竜が出現したということで、街の外へ出ることを禁じられた冒険者の方々が暇潰しをしていまして、店は満員状態です。
そんな中、私達は固いパンと薄いスープという質素な食事を頂きました。帝国で流通している貨幣を私は持っていなくて、剣王が出したお金ではこんなものしか注文できなかったのです。
でも、雑草を食べるよりは遥かに美味しくて嬉しいです。
「周りの奴らから情報を入手してやったぞ」
剣王が偉そうな顔で偉そうに言ってきました。
「聞いてやりましょう」
「偉そーだな」
「ゾル、メリナは偉い。私を強くしてくれた」
「わーたよ。しかし、ソニア、尊敬する相手を間違えると酷い目に逢うから気を付けるんだぜ」
冷たい水の入ったジョッキを口にしてから、剣王は喋ります。彼もお酒が良かったでしょうに、なんと侘しいことでしょう。
こういう薄汚れた食堂には、血と埃にまみれた冒険者の喧騒と漂う酒の臭いがセットだと思うんです。
「まず、1つ目。帝国の兵の動きについてだ」
グチャグチャに混乱しているそうです。
私たちが来る前から、各地のエース級の武人が大怪我をしたり、下手したら殺されてしまう事件が頻発しているそうです。
生き残った者の証言によると、白髪の若い女にやられたとのこと。また、広い帝国の国土の東西南北で起きるものですから、魔族の仕業だと噂されています。白髪の魔族となるとヤナンカが思い出されますが、これは違うでしょう。
きっと、これは喧嘩屋フローレンス。分裂する前の巫女長も転移魔法みたいな高速移動が出来ましたし。
「メリナも襲われる?」
「その可能性はありますね」
「喧嘩屋フローレンス、何者? メリナは知ってる?」
「うーん、知り合いと呼んでいいのかな。分裂する前は竜神殿の巫女長だったんですよ」
「巫女長……。メリナよりも偉い。勝てる?」
「その為に来たのです」
私はパンを千切ってスープに浸す。
「それから、別の魔族も確認されているみたいだ」
先の生存者の証言によると、白髪の魔族の凄まじい攻撃を受けている中、庇ってくれた者がいたと言うのです。青い髪をして豊満な体をした、その女性は異常な回復力で白髪の魔族の攻撃を受けきったとのこと。そして、頃合いを見て姿を消すと、白髪の魔族はそれを追うように去っていったと言います。
青髪の魔族はルッカさんですね。分裂したとはいえ、巫女長が罪を重ねないように尽力しているのでしょう。
しかし、ルッカは私から記憶を、いえ、それでは言葉が足りませんね、愛する聖竜様への想いを私から奪った極悪人です。
理由次第ではぶっ殺してやらないとなりません。理由を聞いても一度首を落としてやります。
帝国はこの魔族が何か事情を知っていると見て、様々なルートで調査をしているみたいです。冒険者とかにも依頼しているので、こうした話を剣王が簡単に入手することができました。
「魔族がもう一匹……」
「知り合いです」
「メリナ、凄い」
「しかも、同じ竜の巫女で部署も同じです」
「友達?」
「いいえ。そう思っている時期もありましが、今は不倶戴天の敵です」
「勝てる?」
「その為に来たのです」
私は十分にふやけたパンを口に入れてモグモグします。
「3番目だ。終焉の森って場所に空飛ぶ大蛇がいるらしい。3部隊くらいの軍隊が展開して討伐作戦中だってさ」
オロ部長ですね。必要があれば人を喰らうことも厭わないですが、あの人は常識人ですから、流石に無駄な戦いは避けますよね。
「白髪の魔族と3日3晩やり合って引き分けたらしいぞ」
さすが!
「終焉の森、私の街の近く」
「そうなんですか?」
「うん。メリナ、その蛇を退治できる?」
「知り合いなんです。竜の巫女で、私の上司です」
「竜の巫女、異常過ぎ問題」
「あはは、一部だけだよ、ソニアちゃん」
私はスープを掬って大根っぽいのを口に放り込む。
「次な。ベリンダの独立宣言に対して帝国は鎮圧軍を編成中。先遣隊が今日出立したが、目標変更で黒竜を追い掛けたとさ」
おぉ、ガランガドーさんがベリンダさんを救った感じになってますね。
「あの黒い竜は何者?」
「ガランガドーさんです。私の精霊で、自称は『死を運ぶ者』と『冥界の支配者』なんですよ。ヤバいよね、それを自称するセンスが」
「そんなのを従えてるメリナの方がヤバい」
「えー、やっぱり? そうなんですよ。あいつが変な自称するから私も誤解を受けるんですよ。邪神もまた復活してたし」
「は? おい。邪神が復活ってヤベーだろ。あっさりと深刻な状況を報告すんなよ」
「邪神?」
「こいつの中に巣食う邪悪な存在だ。あんなもん、こいつ以外勝てねーぞ」
「メリナの中?」
「私の守護精霊って言うのかな。ガランガドーさんもそうだけど」
「やっぱりメリナ、ヤバい」
「そんなことないよ。あはは」
私は木杯を持って、水で喉を潤す。
「最後な。先帝の落胤ソニアの存在は少しずつ広がっているぜ。何人かはベリンダの所に向かったそうだ。マールテンって街がベリンダに呼応しそうだって噂も出ている」
「マールテンは私の育った街。家族を殺された場所」
ソニアちゃんは基本的に無表情なのですが、彼女の顔に一瞬だけ暗い影が差し込んだように見えました。
「メリナ、私はマールテンに行きたい」
「良いよ。どの辺り?」
「メリナが壊した山の近く」
「わっ、奇遇。目印ができて良かったね」
「お前な、そんな感想がよく出てくるな。前向きすぎるだろ。あの時のベリンダ、マジ切れしてたぞ」
「えー、そうだったかなぁ」
本日は安宿を取りまして、十分な休息を取ってからソニアちゃんの育った街マールテンに向かうことになりました。
◎メリナ観察日記18
メリナの精霊は冥界の支配者ガランガドーと邪神って知った。
ヤバい。メリナ、ヤバい。メリナも邪悪な存在としか思えない。
そんなメリナと仲良くする竜の巫女達とゾルもヤバい。
王国の民はタフ。私も見習う。




