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お料理の完成

 火の勢いも安定しまして、釜の中はグツグツと煮え続けています。味見をしました。うーん、薄味です。私の好みとしてはもっとガツンとしたインパクトのあるお味です。


「アデリーナ様もどうですか?」


「いえ、結構で御座います。幾つかの食材は、食べ慣れていない私には口に出来そうに御座いませんでしたから」


 この人はいつも上から目線ですよねぇ。大概にして欲しいです。

 ずっと観衆として見守ってくれている、そこの女の子に失礼だとか思わないのでしょうか。


「贅沢な口ですよ」


 率直な意見です。


「そうは申されますが、民が靴下などを食べるなんて存じ上げませんでした。確かに綿糸から出来ていますので可食とギリギリ思わなくもないですが、鍋は隠し味なのかしら。フェリスが世の中の厳しさを教えてくれるって申しておりましたが、しかと伝わりましたよ。私には食べることは能いません」


 ふむ。


「アデリーナ様、実は私も疑問に思っておりました。食材のおまけで貰った鞄とか靴とかも、革製だから食べ物だったのかなと思って投げていたのです。おかしければ、アデリーナ様が適切に私に突っ込んでくれて、修正されるだろうと」


「ん? メリナさんが食材として買ってきてくれたのでは御座いませんか?」


 なるほど。ちゃんと理解できました。予想通りです。

 お互いに互いを信頼し合ったせいでの誤解が生じていたのですね。アデリーナ様ともあろう方が情けない。


 私は小声で伝えます。


「靴とか靴下とか食べる訳ないじゃないですか。カブトムシだって、他の肉があるなら要らないです。失礼ながら、常識が欠落していますよ」


「……メリナさん、状況は把握しました。素知らぬ顔でいなさい。あれだけの高速の作業でしたから、黙っていればバレません」


「はい!」


 私と同じ結論を短時間で出して頂き助かります。



「では、気を取り直して。アデリーナ様、塩と香辛料は揃えております。味付けはどうしましょうか?」


「庶民が普段から食べている感じが良いでしょう。つまり、メリナさんの好きなようにしなさい」


「分かりました。でも、緊張しますね。どれくらい入れたら良いのでしょう」


 私は岩塩を手で砕きながら、釜へと入れていきます。それから、数種類の香辛料も適当に混ぜます。

 木の棒でかき混ぜて、はい、出来上がり。



「アデリーナ様、味の確認をお願いします」


「先程、私の口には合わないと伝えておりますよ?」


「はい。知ってます。でも、私の口にも合わないだろうと思います」


 沈黙が流れました。

 釜の水面は油が張っていますし、茶色く濁った感じです。取り除いた灰汁もまた浮かんでいます。

 何より、色んな食材が混じり合って食べ物なのかと疑問を抱く臭気となっています。


「メリナさん、筆記試験からあなたを応援してくれている子供に失礼でしょ。お飲みなさい」


 ……グッ。弱いところを突いてきたなぁ。


 私は勇気を振り絞って、小皿に移した汁を口に含みます。


「……まだ薄味です」


 それを聞いたアデリーナ様は塩を釜に入れます。食材を切る以外で初めて役に立ちました。彼女なりに味見ができない罪悪感が有ったのかもしれません。



 私が新たな汁を飲もうとしましたら、後ろから声が掛かります。


「もう少し火力を落とした方がよろしいですよ」


 ショーメ先生でした。そして、そのまま、釜の下の薪を2本ほど抜きます。


「それ、妨害行為ではありませんか?」


「いえいえ、好意ですから」


「フェリス、立ち去りなさい。無駄に喋るならば遅延行為として訴えることも可能で御座います」


 アデリーナ様の冷たい指摘にショーメ先生は微笑みだけで返します。そして、大人しくデンジャラスさんの方へと戻りました。



「デンジャラス様。火を拾って来ました」


「良くやりました、フェリス。あとは焼くだけですね」


 ……してやられた。私が苦労して火種から作った炎だと言うのに。



「ご安心なさい、メリナさん。あの2人の肉では我々の数量には勝てません」


 アデリーナ様が戦況を口にしてくれました。私の動揺を抑えようとしてくれたのでしょう。


「そ、そうですよね」


 しかし、その都合の良い予想は破られます。


 なんとベセリン爺が馬車で追加の肉を運んできたのです。

 私は受け渡しを邪魔するために、すぐに近寄ります。



「何ですか、メリナ様。妨害行為は勘弁ください」


 チッ。


「いえ、ベセリンを労いたいと思ったのです。爺、お疲れ様です」


「お嬢様がこのように恵まれない人々に炊き出しを行っておられるとは、爺は存じ上げず失礼致しました。フェリス様よりお聞きして馳せ参じた次第で御座います。皆様で是非、このドラゴンの肉をお使いください」


「まぁ、なんて素晴らしい! この肉は皆で、そう、皆で使わせて頂きます。あっ、ショーメ先生、ダメですよ。独り占めしたら、ぼ、う、が、い、行為ですよ?」


「チッ」


 ショーメ、お前、キャラに似合わず舌打ちしたでしょ? クソぉ、意図的な挑発だと思うけど、腹が立ちますね。



 さて、爺が持ってきたお肉は3組で分けます。しかし、我々の鍋料理はほぼ完成状態。ここに生肉を入れると半煮えになってしまう可能性があります。

 なので、私達の分はガルディス、ソニアちゃんチームに差し上げました。彼らは生ゴミを並べるという失笑ものの状態ですからね。

 おばさん料理人も流石にあの食材では手足が出なかったのでしょう。



 さて、いよいよ、お料理対決の開始です。


 スラム街の人達がいっぱい集まって来ていました。その中には、ここに来るまでに私に喧嘩を売ってきた黒蜥蜴ファミリーの方々も見えまして、「あいつら、ソニアちゃんのお母さん探しはどうしたんだよ」と秘かに怒りを覚えたものです。彼らはデンジャラスさんの勝ちに賭けたようで、サボっていたのだと思います。



 さて、一番人気は、見た目にインパクトのあるドラゴンステーキでした。しかし、肉に限りがあります。行列はできていますが、配布量は少なそうです。当初の予測の通りに、あれでは皆に配布するのは厳しいでしょう。


 私とアデリーナ様はそれを尻目に釜から汁を取り続けます。汁を掬うためのレードルはベセリン爺が貸してくれました。また、お椀も持ち込み推奨ですが、それすら持ってない人も多くて、これもベセリン爺が急遽、馬車で買いに行ってくれました。もちろん、お金は私が払います。今の私は大金持ちですから。



 さて、問題はガルディス、ソニアちゃん組です。この2人は眼中にありませんが、料理人のおばさんはセッセッと何やら動いています。


 私が差し上げたお肉をスライスしているようです。

 そして、ガルディスとソニアちゃんは皿にそれを乗せている?

 えっ。生肉のままですよ、それ……。ヤバ。

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