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聖竜様への想い

 私は照明魔法が使えます。煌々と輝く光の玉を出して、周りを照らせるのです。

 だから、夜の野外であっても本を読めます。虫が寄って来るのが玉に(きず)ですが、それくらいは我慢してやりましょう。



 うつ伏せになって、私はリラックスしながら読書をします。たまに足をバタバタさせて、体を解したりもします。



 さて、今、読んでいるのは聖竜様の絵本です。聖竜様とは私が所属していた竜神殿で崇められている伝説の竜です。

 大昔に大魔王を仲間達と退治した話が未だに語り継がれているのは、本当に凄いことです。


 実はこの聖竜スードワット様、私は幼い頃に夢の中で何回もお会いしております。

 私は毎晩、高熱と咳を繰り返していたのですが、夢の中で聖竜様とお会いすると、その苦しみがスッと収まるのでした。

 聖竜様は小さな私と遊んでもくれました。大きな背中に乗せて滑らせてくれたり、尻尾で私を掴んで空を飛んでるみたいにしてくれたり。

 本当に楽しくて、そして、私は巫女を本気で目指したくなったのです。


 聖竜様は伝説だけど、今もいらっしゃる。そして、私たちを慈愛に溢れた眼で見守っていて下さる。

 そんな聖竜様に心からの恩返しをするために神殿にお勤めしたいと考えたのです。



 それなのに、巫女だった私は尊敬すべき先輩方に『やれやれ神聖な巫女服を下劣な奴らに触らせる訳には行きませんね。あと、薄汚い血とか体液を飛び散らす貴女方の無惨な姿が目に浮かびますね』などと、大変に調子に乗った悪態を吐いていた訳です。


 しかも、他人からは陰で狂犬、野人、破壊神などと蔑まれている始末。巫女としての自覚はなかったのかと自分に問いたいです。


 村で一番優雅で気品のあった、この私に何が有ったと言うのか。


 おやつ代わりの生ドングリをボリボリ食べながら悩みます。

 あっ、虫入り。当たりです、ラッキー。



 聖竜様には何人もの仲間がいました。

 特に有名なのが、カレンとマイア。カレンは拳で戦う戦士で、マイアは魔法使いです。絵本ではどちらも私と同じくらいの歳の少女として描かれることが多いです。

 それから、不遜にも聖竜様の背中に乗る騎士。


 これらの仲間3人と協力して聖竜様は偉業を成し遂げ、大魔王から救われた人々は聖竜様を讃えてシャールの地に神殿を設けたのです。


 いつ読んでも素晴らしい物語。

 私、聖竜様が好きです。可能なら結婚したいくらいです。

 でも、無理だと知っています。何故に私は人間に生まれたのだろうなぁ。竜ならば、聖竜様と暖かい家庭が作れたかもしれないのに。



 きゃっ。何て想像をしてしまったのでしょう。恥ずかし過ぎる。赤面ですよ。


 思わず、ベッドに頭を埋めてバタバタと身悶えていたら、地面に転げ落ちてしまいました……。


 門番さんと視線が合います。そして、逸らされました。



「ど、どうされましたか……? いや、どうした?」


「聖竜様へのお祈りの儀式です」


「それは失礼した」



 さて、私はベッドに戻り、次の書を手に取ります。題名は『日報帳』。これを読んだ門番さんが言うには、私の身元が分かるような記述が有るとのことです。


 目を通せば記憶を思い出す可能性がありました。でも、だからこそ何となく怖くて、この時間まで読むのを先延ばしにしていました。

 しかし、聖竜様を堪能した今ならば、難敵に打ち勝つ勇気を与えられた今ならば、きっと読破できることでしょう。


 私はゆっくりと表紙を(めく)りました。

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