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夢の中

 夜中にふと目覚める。

 真っ暗。

 大半の人が神殿方面へ戻ることもあって、私も寮に泊まることにしたはずです。

 おかしい。新築の木の香りもしない。

 それどころか私は寝ていたはずなのに、今は靴を履いた両足で立っています。

 もしや夢遊病ってヤツでしょうか。そうであれば、そこはかとなくカッコ良さを感じる病名ですので、溜め息を吐きながらアデリーナ様に自虐風自慢をしたい。


 さて、バカな事はここまでにして、とりあえず視界を確保。照明魔法を打ち上げる。


 廃墟でした。

 瓦礫の中には大きな石柱や何かの像だったものがありました。夜にしても星の光もなく、動く物は私だけの静かで不気味な場所。


 色んな可能性が考えられますが、私の直感はティナが何かを仕掛けてきたと警戒させました。


『ご名答ね』


 チッ。ヤツの声が頭に響く。

 続いて、満月のような大きさで天に現れる顔だけの化け物。それはティナの正体なのか、それとも戦闘モードなのか。私の心の底から恐怖の感情がゾワゾワと湧き出す。

 負けません。


 歯を食い縛り、その顔の化け物を睨む。


『あはは。頑張るわね』


 ガランガドーさん、火炎魔法、特大の。


 即座に放たれた灼熱の業火は残念ながらティナに届く前に消失する。


『挨拶代わりにしては手荒ね。私とメリナさんの絆を思い出して』


 続いて射出した氷の槍10数本も途中で粉々に破壊されて霧散する。


 ダメか……。


「フィンレーさんが言っていました。お前が私に呪いを掛けていたって」


『もぉ。折角の絆なんだから解除しちゃダメよ』


 私が取れる手段は竜化くらいか。

 しかし、それでも勝てる見込みは立たないが……やらないで敗北よりは遥かにマシ。

 問題はティナが時間をくれるかどうかか。竜化するには、魔力を体内で動かし、体を膨らませ、形を整えるというプロセスが必要です。並みの敵なら隙にはならないけど、ティナ相手では……。


『そう。楽勝よ』


 チッ。やはり思考が読まれるのは圧倒的に不利。

 シルフォルの四天王とやらとも互角以上だった邪神を召喚するか。


『それはかなりの悪手よ』


 ん? 断言した?

 今のはブラフで、本当は邪神を警戒しているのか。


『あはは。私はメリナさんより強いんだから騙さないわよ』


「散々、私を騙し尽くしたくせに、そのセリフをまだ吐ける根性が凄いです」


『嘘も方便ってことよ』


 あいつの言葉に惑わされるな。



 顔だけの化け物は私へと近付いてくる。


『日記の感想を言うのが慣わしだったかしら。えーと……巫女長に就任したっぽい。しかし、何をして良いのか分からない。冷静に考えると非常にマズい。聖竜様に迷惑を掛けちゃうよ……か』


 お前、勝手に読み上げるな!! 声に出されたら恥ずかしいだろ!!


『私からのアドバイスは、そうであれば辞退した方が良いってことね。他人に付け入る隙を与えると、メリナさんの格が下がるし、コントロールされ兼ねないもの。ってか、これ罠じゃない?』


 ……罠?


『分からなければ誰かに頼らないといけないでしょ。頼らせたいのよ』


 こいつの言葉を信じるべきではない。でも、今の話は一理ある。覚えておこう。


 で、お前は何をしに現れた?


『シルフォル殺しの報酬がまだだったから、メリナさんを呼び出したのよ』


 ってことは、やはりここはシャールでなく、他の場所へ転移させられていたって事か。


『何でもメリナさんの願いを叶えてあげる』


 そんな甘言に今さら乗る訳がない。


『ツレないわね。ほら、あの白い竜の心を支配してあげようか?』


「聖竜様に手を出したら許しません!」


『毎日、交尾し放題だけど?』


「お前は悪神です。はっきりと分かりました」


『あはは。嫌われてるわね。どうも人の感情ってのが理解できなくて、ごめんね』


「それも嘘! お前は人の心を理解した上で逆撫でする言葉を選んでやがる!」


『ご名答ね』


 ふざけてやがって!!

 怒りで私の魔力が体の外にまで迸るのが分かる。


『まぁ、報酬ってのは本当なのよ』


「あ?」


『ほら、メリナさん、強くなり過ぎて人間の世界では本気を出せなくなってるでしょ? セーブしないと周辺を死滅させてしまうから』


 ……。


『そもそも本気を出せる相手も居なくなっているのではないかしら?』


 うっさい! そもそもは私は戦う必要のない竜の巫女で、麗しき淑女です!!


『はいはい、目標は手が届かないくらい高い方が良いと私も思うわ』


「は? お前、早く降りてきなさい。殴ってやります」


『そうそう。私は欲望に素直なのがもっと良いと思うのよ。それこそが生きる者の特権よ』


 化け物は空を移動しながら、確かにこちらへ近付いている。

 でも、それは魔力感知の中ではで、目に見える化け物の大きさは変わらない。錯覚なのか、それとも、魔法的な幻影なのか。


「お前の世界は犯罪者しか居なさそうですね」


『あはは。そうかも。まぁ、私はよく怒られるんだけどさ』


 ティナを怒る? まだ上が居るのか?


『上じゃない。仲間よ。メリナさんに置き換えたら、アデリーナさんだとか、他の竜の巫女さんのようなものよ』


「好き勝手するお前がよく我慢できたものですね」


 よし、会話をしてくれたお陰で、だいぶ魔力が整ってきた。

 臨戦態勢です。ティナには(さと)られているでしょうが。


『まぁ、仲間だからよ。随分と帰ってないけどね』


「遠慮せず帰って良いですよ」


『私も仕事だから。この世界を救ってあげないと』


 悪神のくせに。


『悪くないと救えないこともあるのよ。メリナさんもその内に分かるわ』


 化け物の位置を確認する。足を軽く動かして、靴のフィット具合を確認する。……行けるな。


『私からの報酬は、メリナさんが本気で戦える場と相手を用意することよ』


「言ってろ」


 私は土煙を上げての助走後にハイジャンプ。


『あはは。良いわね。是非メリナさんにはこちら側に来て欲しいわ』


 ティナよりも高い位置を取り、そこから放物線を描きながら落下。

 どんな仕組みなのか分からないけど、上から見ても化け物の顔はこちらを正面に収めていた。

 敵から目を離していなかったので顔の向きを変えた訳でも無し。

 まぁ、考えても無駄か。


「死んどけッ!!」

『先制は頂くわ』


 顔面だけの逆撫で化け物の目から放射された光線を空中でくるりと身を翻して躱し、拳を顔面のど真ん中へ、鼻っ柱を折るように叩き付けました。


 地上に到着後、すぐに反転。また顔面はこちらを向いている。


『準備運動は終わったかしら?』


「もう100発くらい殴らせて頂ければ体が温まるかもです」


『あまりおいたが過ぎたら殺すから』


 ふん、殺す気ならもう殺してるでしょうに。

 まだ私では力不足。一撃のやり取りで分かりました。でも、負けない!



『メリナさん、これからもよろしくね』


「あ? いつかお前にぎゃふんと言わせてやる!」


『ぎゃふん。良かったわね。もう叶ったわ』


 くそ!! でも、これはティナの仕掛け。私を逆上させて制御し易くしているのです。だから、冷静に対処。無です。何も考えるな。



『メリナさん、本当に私は貴女を高く評価しているのよ』


「そうであるか」


『ん? 私に喧嘩を売る人間なんて久々。絶対的な力量差を恐れないのは貴重な存在よ』


 ティナは化け物の姿を解き、人間となって地上に立つ。


『あらためて。よろしくね』


「うむ」


 ティナがこちらへ細い手を差し出す。


『そんなに恐れなくても良いわ』


 恐る恐る出した私の手は途中で軌道を変え、これまで最速と思われる勢いでティナの顎を下から捉え、彼女を吹き飛ばせる。何なら頭も粉砕したかも。

 って言うか、私の攻撃速度が速すぎて、周りを巻き込んでいまして、目に見える範囲の全てものが失くなりました。地面さえ深く抉れて底が見えない。



『やってくれるじゃない』


 チィッ!!

 さすがに神! しぶとい!! 空中に浮かんでやがった!!


『元気なのも良いことよ。今日は帰るわね』


 首を痛めた素振りをしながらティナは消える。転移魔法ですね。

 平静を装っていますが、明らかに悔しそうで抱腹絶倒したい。



 ガランガドーさん、よくやりました!

 

『う、うむ。しかし、主よ、ここからどうやって帰るのであるか?』


 ティナに思考が読まれているのが分かっていたので、ガランガドーさんに体を渡していたのです。


「それは今から考えれば良いんですよ」


『主はいつも行き当たりばったりである』


 手段はいっぱいあります。乙女の純血占いとか、邪神を通じて助けを求めるとか。だから私は安心しています。


「アデリーナ様も結構適当ですよ」


『そうであるかなぁ』


「帰ったら、聖竜様に会いに行きましょうか」


『あやつも大変であるなぁ』


「そうですね。私との将来の話を真剣に沢山しないといけないですものね」


『うわっ、本当に大変』


 聖竜様、メリナは貴方の隣に居ても良いくらいに強くなれたでしょうか。

 認めて頂ける日まで私はお待ちしております。

 あっ、聖竜様がちょっとだけ尊敬していたぽいフォビとか、聖竜様のお母様も私と聖竜様の清き交際を認めていたかも。だから何だって訳はないんですけど、お二人とも私の力を認めていたなぁ。うん、はっきりと認めていましたよ。聖竜様はどうかなぁ? メリナで良いんじゃないかなぁ? それが世界の為かもですよ?

 

 うし! こんな感じで行きましょうかね。

 完璧です! 胸が高鳴りますね!

 これからも頑張るぞ。

これまでありがとうございました。

メリナさんの第三部完結です。(物語の終わらせ方って難しい……)


前作終わりと同様に、10万字までくらいのお話をリクエスト頂いたキャラクターで書きたいと思っています。私の作品(竜の巫女以外でも)のキャラクターで「これを主人公に書いて欲しいなぁ」ってのが有りましたら、感想欄でお知らせ下さい。キャラクター名だけで感想無しでも構いません。

もしも複数のご希望を頂きましたら厳正な抽選にします。今日から4日間くらいで(9/5まで)募集して、それから1~2週間後くらいに投稿開始できたらと思っています。キャラでなく物でも何でも書けると思いますので、ご希望が御座いましたら、宜しくお願いします。

抽選方法と結果は締め切り後に活動報告に書きます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 遅ればせながら完結おめでとうございます。どうせならということで一部から通しで読んだのですが笑いが止まりませんでした。 個人的なこの部のハイライトは 「るんるん! るんるん! るんるんアデリ…
[一言] 第3部完結おめでとうございます。 第3部も面白かったので今から第4部が楽しみです。
[一言] (第三部)完結おめでとうございます! 第三部も面白かったです!! あと これを主人公に書いて欲しいなぁ というキャラねぇー そりゃ、ケイトさんw 
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