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サプライズパーティ

 昼下がりが終わりそろそろ夕刻かなって時分に、とても豪華な馬車が宿に付けられて私とフィンレーさんは乗り込みました。

 ロビーで何かを待っていたので不思議に思っていたのですが、なんとフィンレーさんもお城に誘われていたのです。


「メリナ様、この土地の料理は薄味って言うか、コクが足りないかも」


「知らないですよ。えー、フィンレーさん、会場で声に出して言っちゃダメですよ。礼儀を知らなそうだから心配だなぁ」


「メリナ様だけには言われたくなかったかも。フィンレーは立派な聖女として古今東西の礼式に精通してたんだよ」


「もう忘れてるでしょ?」


「そうそう。もう大昔のことだし、辛い下っ端神時代にきれいさっぱり忘れてるかな」


「ほら、やっぱり心配だなぁ」


 馬車は快適ですが、私が走るのと比べると非常に遅くて、城までの長い道程の退屈さをフィンレーさんと会話することで紛らします。


「でも、メリナ様、アレかも。魔王になった時に無理やり脱出した時にティナ様の呪いも解けたのかな?」


「は? 私、ティナに呪いを掛けられてました?」


「祝福と呪いは同じなんだけど、昨日まではフィンレーはメリナ様の思考を読めなかったんだよね。それって、メリナ様の体にあったティナ様の魔力が邪魔していたんだよね。それが失くなってるかも」


 ……ティナめ……。いつ掛けた?

 あれか、神界に行く際に思考読みされないように細工した時か……。祝福だろうと呪いだろうと気に食わないですね。


「あれ? ってことは、フィンレーさんは今の私の思考が読めるってこと?」


「そうだね。メリナ様の深層心理まで読めちゃうかな。狂気が渦巻いてるかな」


「その減らず口を2度と開かないようにしてやります」


「痛っ! いたた!!」



 さて、伯爵様のお城へとやって来ました。

何本もそびえる尖塔が夕焼けに照らされています。

 こんな時間にここに来るのは始めてかもしれません。とても美しい光景で、聖竜様が守護する土地のお城に相応しい。



 私達はダンスホールの前で馬車から下ろされます。ここも思い出の場所です。結婚式を終えたコリーさんと花火を見たり、2年前には王都への反旗をロクサーナさんが宣言した場所でも有りましたね。


 さて、私はロクサーナさんとの会食だと勘違いしていましたが、どうやら巫女達の多くが呼ばれていたらしく、私と同じ真っ黒な服の女性達が2階のダンスホールへと向かう階段を昇っているのが見えました。


「折角のパーティなのに、皆、地味な服装かも」


「馬鹿者。竜の巫女の正装ですよ」


「フィンレーは見習いだからおしゃれ服に着替えるね」


「見習いは魔法禁止」


「ぶー」


「ふん。見習いのくせにパーティを楽しもうとするんじゃありません。見習いと言うからには、私を見習うのです」


「一番、見習えない人かも。痛っ! 痛い、痛い!」


 ほっぺをギューと掴んでやりました。

 フィンレーさんは腐っても神なので、通常の魔物くらいなら指が頬を貫通するくらいの力でしたが、赤くもなっていません。


「ちょっ! 魔物の皮に穴を開ける程の攻撃に近いじゃれ合いとかおかしくないかな!」


 ちっ。本当に思考を読んでますね。



 ビシッと黒い礼服を着込んだ案内の人が私を一番奥のステージ近く、つまり最前列へと導きます。呼ばれてないのにフィンレーさんも付いて来ています。こいつは純朴そうな顔をしていますが、かなり厚かましいですね。


 席はない。

 細長いグラスにオレンジジュースを入れて貰う。フィンレーさんは泡が出ている黄色い液体でして、私もそれが欲しい。


「メリナさん、禁酒で御座いますよ。禁酒」


 同じく最前列にいたアデリーナ様が話し掛けてきました。


「あ? るんるんのクセに私に命令するな」


「あらあら、私は本物の方で御座いますよ」


 ……最早、分かりませんよ。

 魔力の質まで同じとか(たち)が悪すぎます。

 しかも、あの泡がシュワシュワしているのは、やはりお酒ですか!


「うまっ。このお酒、絶品かも!」


 嬉しそうに言うんじゃありません。飲みたくなるでしょ!

 でも、私は我慢します。すぐ傍に巫女長もいらっしゃるので。



 一段高くなっている舞台にロクサーナさんが立ちます。懐かしい。

 伯爵様への謁見式の夜、私もあそこに立ったものです。騎士ヘルマンさんが喧嘩を売ってきたので、軽く両目を抉ってからボコボコにしてやった記憶があります。

 後から知ったのですが、ヘルマンさんは気の良い人だったので申し訳ないくらいボッコボコにしてしまったと思いましたね。


「お集まりの皆さん、暫くの間、こちらをご覧ください」


 巫女長よりも高齢に見えるロクサーナさんは枯れ木みたいな細さなんですが、しかし、しっかりとした声で私達に呼び掛けます。


「知らない方も多くいらっしゃると思いますが、シャール元伯爵ロクサーナ・サラン・シャールで御座います。竜の巫女シェラ・サラン・シャール及びアシュリン・サラン・パウサニアスの祖母でもあります」


 そうなんですよねぇ。アシュリンさんも伯爵家に列なる人物なのは、血統が良くても品性には影響しないって証拠だと思います。


「さて、昨日は聖竜様の御姿を拝見する機会を賜り、まずは聖竜様に感謝の意を述べます。幼き日より聖竜様の伝承をお聞きして育った我が身としても、聖竜様を守護するサラン家の一員としても、聖竜様が伝説のみの存在でなかったことを多くの者に証明できたことは大変な僥倖でありました」


 これ、まだ続くの?


「私が長年抱いた大願は、1つは王都からのシャールの独立、そして、もう1つは聖竜様をこの目で見たいということでした」


 王都からの独立って、アデリーナ様の前で言って良いのかな。


「若い私は邁進しました。聖竜様をお目にすることは出来なくとも、王都の影響力を排することは可能だろうと。王都に直接歯向かうことは危険でしたので、私が狙ったのは隣国である帝国領でした。そこを奪い勢力を増すことに挑戦し、戦場を駆け、多くの者の血を大地に染み込ませたものです。しかし、やがて私は結婚し第1線から抜け、奪った土地も奪い返され、老いた私は死を待つのみとなっていたのです」


 ……皆、手に持った飲み物を喉に通したくないのかな。


「しかし、そこに現れた私の英雄がメリナさん。病に臥せっていた私を回復させる奇跡を起こしたと聞いていたこともありますが、初めてお会いした時から、長く人を見てきた私は訴えるものを彼女に感じました」


「濁りきっていたのでは御座いませんかね」


「そうかも」


 おい! 小声と謂えど、最前列で茶々を入れるんじゃありません! 私が褒められてるんですよ!

 私はアデリーナ様とフィンレーさんを目で咎める。


「みるみる内に頭角を表した彼女は王都の勢力を粉砕し、ご友人のアデリーナ閣下と手を組み、王国の中心を王都からシャールに移しつつあります」


 そうなのですか?


「更に、昨日の聖竜様の降臨式。本当に白く大きな聖竜様を目にした時には、私は幼児のように胸がときめくのが分かりました。私も、そして昔は悪縁を呪ったものですが、友であるフローレンス巫女長も、メリナさんには命よりも大切な夢を叶えてもらった恩を感じております」


 褒められ過ぎて恥ずかしくなってきた……。


「その後の大混乱は、私どもが聖竜様を利用して政治に利用してきた罰だと思いましょう。酷く咎めになられたけれども、聖竜様は我らを許されたのだと解釈致します」


 聖竜様の声が聞こえない偽者の巫女さん達も怯えてましたものね。伯爵家の人もそうだったのかもしれません。


「さぁ、新しき巫女長の誕生を祝いましょう。メリナさん、壇上へ」


 えっ、私?


「あらあら、メリナさん。御一緒しましょうね」


 隣に立つ巫女長が私の手を取り、舞台脇の階段を登ってロクサーナさんに近付く。

 私はあれよ、あれよと連れていかれたのです。


「竜の巫女の長となるメリナさんに、完全なる知の祝福を」


 巫女長が横から私の頭に銀のティアラを載せる。


「竜の巫女の長となるメリナさんに、完全なる武の祝福を」


 巫女長とは反対側から、ロクサーナさんが微妙に震える両手を差し出して、黒い布を私の肩に掛ける。


「本当は聖竜様の降臨式でやりたかったのだけどね」


 ロクサーナさんは少し笑って言いました。

 そして、両横から老婆2人が私の手を取り軽く上げると、目の前の巫女さん達が歓声を上げて、手に持つ飲み物をグビッとお飲みになられたのです。

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[良い点] おい! 小倉と謂えど、最前列で茶々を入れるんじゃありません! 私が褒められてるんですよ!  私はアデリーナ様とフィンレーさんを目で咎める。 「みるみる内に頭角を表した彼女は追うとの勢力を粉…
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