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提案の承諾

 様々な騒動で荒れ果てた元の土地を眺める。シャールの街は無事そうで、倒れた人々も回復魔法で何とかなるかな。

 聖竜様に目を遣ると、いつもの威風堂々とした様相ではなく、首をキリッと上げていらっしゃいました。


「スードワットよ、大変だったな」


『滅相も御座いません』


 フォビに敬語なんて不要ですよ。


「俺も大変だった……」


『……またまたご冗談を』


「メリナをよろしく。末長くよろしく」


 へっ!?


『へ?』


「約束したんだ。俺に勝ったらお前をやるって。んで、完敗したから。もうね、メリナは信じられないくらい強いから」


『ナベ殿よりもですか……?』


「当たり前だろ……。メリナは首を貫かれても生きてるんだぞ……」


 未だフォビに抱えられているナベが不遜な発言をしましたが、自分の鼓動の速さに驚く私はそれどころではありませんでした。


『しかし、主よ。まるで我を物のように扱うのはどうかと思うのだが……』


「すまんな。あと、長く地下に縛って済まなかった。自由に生きてくれ」


『……主よ』


「まぁ、なんだ。仲良くやってくれたら嬉しい。それじゃな、また会おう」


 フォビはナベを連れて転移魔法で消える。

 るんるんアデリーナは仰向けに倒れたまま、巫女長は離れた場所で消えていた巫女達をどこかから出しています。


『えーと……メリナちゃん、私も帰るね』


 聖竜様もそそくさと去ろうとしました。

 私は感じます。聖竜様は照れていらっしゃると。


 聖竜様の羽ばたきが砂埃を巻き上げます。

 私は軽く頭を下げ、黙ってお見送りしました。

 末長く色々とよろしくする内容は後日に相談すれば良いことです。



「メリナさん、終わったようで御座いますね」


 アデリーナ様です。巫女長により救出されたようですね。

 るんるんアデリーナの顔が強張ります。


「あら、哀れな偽者は惨めに打ち倒されているので御座いますね」


「アデリーナは偽者じゃない!」


「偽者で御座いますよ。メリナさん如きに後れを取っていらっしゃるので御座いますから」


 私も含めて煽って来るとは、正しく本家本元のアデリーナ様です。


「これ、殺しておきますね」


「うぅ、メリナお姉さまは羽虫を握り潰すくらいの感覚でアデリーナを消すのですね……しくしく」


「待ちなさい」


 は?


「利用価値が御座いますし、それにとっても悪い話では御座いません」


「いや、アデリーナ様が2体とか害悪以外の何物でもないでしょ」


「どんなご認識なのか、メリナさんには後でゆっくり聞きたいところで御座いますね」


 アデリーナ様がるんるんに近付きます。


「で、貴女の回答は?」


 冷たい眼で見下ろす。

 そっくりな者同士なので、お互いに剣の間合いなんですが、大丈夫でしょうか。

 また斬り合いとか、私の居ないところでやって欲しい。


「利用価値とか、アデリーナだったら絶対に言わない言葉だもん」


「分かりやすいで御座いましょ?」


「……言わないもん。協力しよって言うもん」


「ガキのような事をおっしゃいますね」


「アデリーナは10歳だもん!」


 いや、どう見ても外見は立派な成人女性ですよ。下手に美人だから発言が凄く異様な印象を与える程です。


「しかし、偽者といえど私の偽者。私の意図は分かっていらっしゃるでしょ?」


「王都にアデリーナを置いて、そっちの面倒事を任すつもりなんです。でも、アデリーナは子供だから経験不足で力不足です! うふふ、おばさん、残念でしたね」


 アデリーナ様をおばはんと表現する面白さ、こいつに利用価値があったと私も思い出し始めていました。


 しかし、アデリーナ様の考えは分かりました。王都とシャールは遠く離れていて、今まではイルゼさんの転移で向こうでの執務をこなしたりしていましたが、本格的に病が悪化したイルゼさんが不安なので、代わりの者を置きたいのでしょう。そして、瓜二つなこいつに白羽の矢を立てたのです。


「化け物となった際に、家族への執着を現した貴女に取って置きの報酬を前払いで与えましょう。保護しているヤギ頭を傍に付けましょう」


 ヤギ頭か。るんるんと彼が熱い抱擁をしていた記憶が新しい。


「……お父様だって、経験不足だもん……」


「存じております。しかし、飾りは無能な方が好ましい。優秀な能吏をお付け致します」


「……私がるんるんって言っても笑わない?」


「笑わないでしょう。皮肉は言いますが」


 あっ、アントンか。

 あいつ、本当に有能なのか。全てコリーさんのお陰ではないでしょうか。


「でも、私は偽者じゃない」


「そこは認めなさい。それしか貴女が生きる道は御座いません」


「……」


 るんるんが私を見る。


「良いんじゃないですか。偽者かどうかだなんて自分がどう思ってるかですよ」

 

「……」


 るんるんは目を瞑る。

 

「私はメリナお姉さまに認めてもらうのが、一番嬉しかった」


 なら、無理だ。私の中のアデリーナ様は鬼でしかない。

 私の無言はるんるんに伝わる。


「承諾します……」


「よろしい」


 アデリーナ様は満足そうな声色で返しました。るんるんの顔を涙が伝う。それは2人の上下関係が明確に分かる様子でした。

◯メリナ新日記 24日目

 聖竜様が地上に降り立った記念すべき日は歴史に残ると思うけど、祝福感が全くなかった。

 聖竜様の名誉の為に歴史を改竄しないといけないので、アデリーナ様と相談しよう。

 アデリーナ様も改竄する必要があるだろうから。

 あと、マリールに会うのが怖い。

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