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息ぴったり

 アシュリンさんと出会って今年で3年目。私が数ヶ月留学していた期間はありますが、それ以外はほぼ一緒に仕事をした仲です。

 魔物駆除殲滅部の仕事なので、9割9部9厘が戦闘系で、ほぼ組手での訓練。

 だから、どう動くのか、どう動いて欲しいのか手を取るように分かります。


「メリナっ! 右だっ!!」


「合点!!」


 これはフェイクです。

 私は敵の右に回るフェイントを見せてから、アシュリンさんの前を斜めに横切って後ろ脚の膝へ回し蹴り。

 アシュリンさんはその間に敵の正面に移動。やはりそこを狙いに行きましたね。


 敵は頭と尾が水平に近い前傾姿勢を巨大な2本の足で支えています。だから、胴体の下に入れば隙だらけ。しかも、敵の両眼は大きな顔の上方に付いています。だから、顎の下が死角で間違いない。


 勿論、魔力感知で補えるし、体に浮かぶ無数の巫女達の目を通じて状況を把握できる可能性もある。

 アシュリンさんは言動と違い意外にクレバーなので、戦いの初っ端である今、それを確かめて敵の弱点を探ろうとすると分かっていました。

 だから、アシュリンさんは私に指示を出して敵の注意を惹き、私は更に惹き付ける為に、敢えて口で出された指示とは逆の行動をしたのです。絶対にアシュリンさんの意図通りだったはず。


 アシュリンさんは視界の範囲外で、しかも、敵の短い腕が届かない顎下に入っていました。


 行けっ!! 砕けっ!!

 って、えぇ!?


 アシュリンさんの上突きは全く力が入ってない! そりゃ、素人じゃないから並みの魔物なら一撃必殺だったでしょうが、挨拶代わりの飛び蹴りで相手の堅さは分かっていただろうに……。


「訓練が足りませんね。巫女に戻ったらどうですか?」


 私は戻ってきた先輩に声を掛ける。


()かせっ!」


 追って来た顎を素早く避けながら答える。

 脚捌きが前よりも悪くて、もう少しで戻しが甘かった腕をパクリと食べられそうになっていました。



『ごめんなさい。メリナお姉様のもアシュリンのも痛くないです』


「あ? アデリーナか?」


「よく気付きましたね」


 あいつの声質は完全に変化しているのに。


「今の姿の私に気付くのだからなっ!」


 服装が軍服じゃないし、髪も伸ばしている最中で前みたいな短髪じゃないから、アシュリンだと普通の人は気付かないってこと?


「しかし、気付いたとしても、何が起きてるのか分からんなっ!」


「私も分かりませんよ!」


 数えきれない程の光線が連続で放出される。恐らくは巫女長と同じ精神魔法。でも、速度は本物の程ではなくて、ギリギリでしたが何とか被弾せずに全てを躱す。


「アシュリンさん!」


「無事だっ!」


 バランスを崩してるじゃない。不甲斐ない。もっと脚を拡げて大地を踏み締めないと。


 アシュリンさんは果敢に正面から突撃。以前より瞬発力が落ちているから、ほら、敵に迎撃の余裕を与えたじゃないの。

 竜は少し体を退いて力を溜め、そこから、一気に体当たりの気配。


「メリナっ!」


 ん? 今の感じは魔法の要求か。

 あっ、なるほど!


 私は火球魔法を使い、次いで先を平らにした氷の槍って言うか氷の角棒を唱える。


 2本脚の竜はアシュリンさんの後ろから迫る私の火球を素早く察して横にワンステップ跳び、射線から外れる。あの力を溜めていた体勢からよく動けたものです。


 しかし、高速で放った私の火球魔法はアシュリンさんを襲う。そして、狙い通りに燃やし尽くす!


「メリナっ!!」


 はいはい、そんなに褒めないでください。

 更に、火の玉に飲まれたアシュリンさんを氷の角棒が背中から直撃。

 軍服にお着替えになられたアシュリンさんが煌々と燃える炎の中から押し出され、瞬間移動みたいに敵の真横に付きまして、即座に足元へ激しい蹴り。

 倒れはしなかったけど、その強烈な衝撃で竜の全身が震動するのが見えました。


「よく分かったなっ!」


「気持ち強火にしておきました」


「後でお仕置きだな!!」


 アシュリンさんは私服のワンピース姿で戦っていました。勿論、非戦闘用ですので激しく動くと破れてしまい、だから、意外に女の恥じらいを持ち合わすアシュリンさんは遠慮気味になっていたのです。

 だから、彼女も私も火炎で服を焼き、その炎の中で新たに私の魔力操作で作った服を被せたのです。火力もアシュリンさんが火傷しない程度に調整しましたが、私の中のアシュリンさんは男みたいな短髪でなければならないので、焼き切って髪型を整えてあげています。


『今のはちょっと痛かったです』


「メリナっ!」


 るんるんアデリーナを無視しての指示。


「了解!!」


 目配せも要らない。

 アシュリンさん、さっきの攻防で私も理解してますよ。この竜は空を飛ぶ能力がない。



 私が先に動く。振るわれた尾を掻い潜って竜の側面へ。そして、足を止めて連打。

 すみません、マリール。とても撃ち易いところに貴女の顔があるんです。狙っている訳ではないので許してください。だから、怒り顔をするな。


 竜が私へ向き直る。そのまま頭を下げて私へ牙を向ける。

 単調な攻撃です。確かに巫女を取り込んで魔力量はアップしていますが、それだけ。毛むくじゃらの時の方が俊敏だったし弱くなってるんじゃないかな。癖だらけの竜の巫女なんかを体内に入れるからですよ。本領を発揮できてないと思いますよ。


 私の方へ体を向けたと言うことはアシュリンさんに側面を見せたことになります。2本脚の竜よ、あなたに追えているかしら。


「アデリーナっ!! 目を覚ませっ!!」


 アシュリンは高く跳んでいました。そして、強烈な蹴りを竜に向けます。が、また寸前にサイドステップで避けられる。

 さっきもそうでしたが、避けるならもっと距離が必要と思わなかったのかな。

 アシュリンの蹴りは勢いそのまま地面を抉る。物凄い土煙が立ち上りますが、私はアシュリンさんの行動を理解しています。逃げようと跳ねた竜が着地する前に、氷の槍で背中を狙う。貫通はしない。でも、アシュリンさんの蹴りで地面に出来た大穴に足を取られて竜が転ぶ。


 脱出する時間を与えずに私は穴に向けて氷結魔法。竜は下側の半身が氷に埋もれ固定される形となりました。


『う、動けない……』


「ですね。魔法も無駄だから反抗しないように」


 防御力は第一級でした。だから、傷付けることは出来ないと判断し、私達は捕獲することに専念したのです。


「ご苦労だったメリナ」


 アシュリンさんも戦闘モードを解除したようですね。


『アデリーナは負けたの? 皆と一緒になって魔力がこんなにいっぱいだったのに……』


「負けを認めなければ、このまま土を被せて埋めますね」


『そ、そんなっ!? またメリナお姉さまは、アデリーナを封印するのですか!?』


 私の氷魔法の効果は2、3日なので、それはできません。でも、脅しにはなったか。


「皆を解放しろ! 話はそこからだっ!」


 アシュリンさんが交渉に入る。


『アデリーナは負けないもん!! メリナお姉さまばっかり友達ができてずるいもん!!』


 これが永遠の10歳ってヤツですかね。本当に子供だなぁ。


「アデリーナはメリナお姉さまになる!」


 竜が光に包まれます。

 眩しい。少し目を閉じてしまいました。

 目が慣れた頃には、もう竜の姿はありませんでした。


「チッ。アデリーナは友達が欲しいのか?」


 アシュリンさんが私に尋ねます。


「本人は否定していますが、そうでしょうね」


「なんて寂しいヤツなんだ」


「笑えますよね。アデリーナ様が正気に戻ったら、アシュリンさんからも心の闇をほじくる感じで厳しく問い質してください。さて、それよりもヤツ――あっ!!」


 なんと、ヤツは離れて休んでいた聖竜様の顔の前にいて、掌を聖竜様に突き付けていたのです!

 何をしようとしているんですか!! 狙うなら背中のナベにしろっ!!

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