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巫女ほぼ全滅

 ルッカさんが私を注意した理由は明らか。

 巫女長によって足止めされた魔獣の魔力が低下するどころか爆発的に増えているから。

 その為にアデリーナ様も相手してくれず、私は肩透かしを食らいます。


『ワカ、ッテルフロー、レンスミ、コチョウ。ワタシハカ、クゴノウエデス』


 喋った!! 顎が動かないように強めに踏んでいるのに! こいつが被っている、カーシャ課長に貰ったティアラが歪むくらいの強さなんですよ!



 敵に接近していたルッカさんとアデリーナ様の第2撃が炸裂しますが、私の攻撃が無効化されたように彼女らの攻撃も厚い毛皮に阻まれたようです。この防御力の高さ、本物のアデリーナ様の面の皮がブ厚いことを表しているのかもしれません。

 2人とも巫女長が密着しているのに、攻撃の手を緩めなかったのは凄い。「謝罪を致します。しかし、手元が狂っただけで御座います」なんて言い訳は表面上でしか受け入れてなくて、巫女長は後で仕返しを必ずする人なんですよ。


『キョウリョ、クシ、テクレルノデス、カ。……アリ、ガトウミ、コチョウ』


 まだ呟けるの――えっ!? 協力!?


 ルッカさんとアデリーナ様が本気だったから任せる気持ちもあった私ですが、強い焦りが生じます。


「巫女長を殺して下さい! 裏切った!!」


 私の叫びにアデリーナ様が応える。

 剣を持ち替え――収納魔法で振り下ろし中の長剣を短いものへと入れ替え――獣の腹にへばり着く巫女長の背中から切り上げます!


 しかし、間に合わず。巫女長の体は獣に取り込まれ、アデリーナ様の鋭い一撃は毛皮を裂くには至りませんでした。


「チィッ!!」


 強い危機感に私も接敵し両方の後ろ足を握って、後方へ投げ飛ばしてひっくり返す。両手に無数の毛が刺さりましたが気にしません。


「巫女さん、サンキュ!」


 転移で出現したルッカさんが、得意技の上からの高速突きを仰向けに倒れた魔獣の腹へと見舞う――寸前に吹き飛ぶ……。

 獣が体から怪光線を出し、ルッカさんに直撃を喰らわしたのです。

 巫女長の不可避の精神狂乱魔法。魔力の質的にはそれでした。でも、あれは光が体を透過するだけで物理的な破壊力はない。

 となると、そうか。ルッカさんは緊急回避のために自らの意思で進路変更、しかし、光線はルッカさんを襲い、正気とともに体の制御も失い、吹っ飛んだように見えた、というところか。


「メリナッ! 考えるなッ!!」


 アデリーナ様です。首の骨を折るどころか全身を複雑骨折するくらいの勢いで地面に激突したルッカさんを気に止めず、再び持ち替えた長い片刃の反りのある両手剣で斬り掛かっていました。「メリナッ」で横に一閃、「考えるなッ」で斜めに上から下へ、です。


 物凄い威力で、私も出来なかった獣の皮を破ることに成功します。首を斬られても血が出なかったので、獣は魔力で構築されていて中身は真っ黒なのかと思ったら、鮮やかな桃色。そこだけはるんるん気分なのでしょうか。

 すぐに獣の傷は修復される。


 アデリーナ様の叱咤に応え、私も詰める。

 が、巫女長を吸収して魔力量を大幅に増やした獣は、それを利用して加速力も増していました。

 追い付く前に跳ねた獣はルッカさんを補食する。それは森でよく見る粘菌系の魔物が獲物を食べるが如くでして、毛の生えた体を変化させてルッカさんを覆い、着地するまでに内部に取り込んでしまいました。


「フンッ!!」


 アデリーナ様はその着地点を予測していて、勢いよく下からの斬り上げ。体を真っ二つにするつもりでしょう。

 魔物の逃げ道を塞ぐため、私も氷の槍を獣の両サイドへ放ちます。

 直接狙っても良かったのですが、アデリーナ様に花を持たせようという意図です。


 それが仇になる。


 魔物はアデリーナ様の剣によって見事に裂かれました。しかし、剣が通り過ぎた後に半身同士が合一、土を蹴ってアデリーナ様に被さる。

 フロンの死相読みが間に合わなかったか、読ませなかったのか。分からないけど、アデリーナ様も獣に呑まれてしまいます。


 既に接近していた私の拳が獣の腹に突き刺さる。

 食ったものを吐き出しなさい! お前もお腹を壊したくないでしょ!!

 そんな思いでの会心の一撃でしたが、巫女長に加えルッカさん、アデリーナ様という竜神殿、いえ、王国を代表する強者の魔力を自分の物にした魔獣を破壊することは出来ませんでした。


「メリナ様、そいつ、ヤバイかも!!」


 分かってる!

 私の何度もの攻撃を無視して、魔獣は竜の巫女が退避する中に突っ込み、巫女の大半を喰らいます。神であるフィンレーさんさえ、役に立たない忠告を残しただけで抵抗さえ出来ずに取り込まれてしまいました。


 マリールやシェラが無事なのか定かではありません。


 許さない。

 私の気持ちに気付いたのか、獣がやっとこちらを向く。


 同時に、再び体を変化させる。私の身長の5倍程の大きさ、そして、そんな巨体ではあるものの、不釣り合いな更に大きな頭と凶悪な歯がびっしりの顎。2本のがっしりとした足で立ち、前足は小さな腕になります。腕の先に3本の指と鋭い爪を確認しましたが、短くて私を仕留めるには力不足な印象を与えます。重い頭とのバランスを取るため、尾は太く長い。長い首の竜とは違うけど、これも獰猛な爬虫類系の顔をしています。竜の一種でしょう。


 っ!?

 先程まで毛や、竜鱗の代わりに喰われた巫女達の顔が体に浮かんでいます。それらは一つ一つが生きているみたいに目を動かす。

 カーシャ課長やエルバ部長も認められました。


『1つになったの。皆、大事な友達だから』


 るんるんの声が聞こえた。


「お前の友達は小鳥だけでしょうに」


 私は挑発する。


『フランジェスカもいるもん』


 わざわざ戦利品を私に見せ付ける。

 確かにフランジェスカ先輩の顔が敵の腹の所に浮かんでいました。苦悶の表情とかじゃなくて良かった。でも、私を見詰めていて意識はあるのか。何かを訴えて口を動かしているけど声はしない。


「一方的に友達認定するのは本物と同じでドン引きです」


『メリナお姉さまは仲間外れです。アデリーナを苛めた罰です』


「苛めたことなんてないでしょ」


『アデリーナを封じて、それを忘れて、更にはそれが悲しかったってアデリーナが伝えたことも忘れてしまって……。本当にメリナお姉さまは酷いです!』


 意図せずに挑発に成功。幸運です。


『うふふ、メリナお姉さま。私の体に浮かぶ巫女の顔達が見えますか? 実は生きてます。だから、彼女らを殴り潰せないでしょ。もうお姉さまはアデリーナを攻撃でき――』


 バカか?


「できますよ」


 私は敢えて、脛に発見したばかりのマリールの顔面へ、思っきり横からの回し蹴りを当てる。

 良い音がしたのに、堅くて破壊は出来ませんでした。


『うふふ、強がりです』


「誤解も甚だしいですね。只の模様だと思っています」


 距離を取り直した私は、不気味な竜らしき物に対して静かに拳を構える。



「メリナっ!! 助っ人に来てやったぞっ!!」


 何かが飛んできて、竜の背中を襲う。

 いえ、声で分かっていました。

 アシュリンさんです。


「サッサッと倒せっ! 迷惑だろっ!」


 私の横に着地した彼女は花柄の綺麗なワンピースを着ていました。


「家族サービス中にすみません」


「あぁ! ナウルにまた泣かれるっ!! 今は意識を失っているがな!!」


 この人と共闘するのは久々で、私は少し楽しくなってきました。

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[一言] マリール不憫かわいい
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