竜達の戦い
黄金竜のブレスによる大量虐殺は、聖竜様により阻止されました。元の竜の姿に戻られて、その巨体で同じくらいに大きい黄金竜に体当たりをぶちかまして、魔法の咆哮を途中で止めさせたのです。素晴らしい。さすが聖竜様。ちょー強い。素敵。
『ナベ殿、無事であるか!?』
……そいつを心配しての行動ですか? いえ、そんなことはない。だって、黄金竜の攻撃はそいつじゃなくて街の人達にむけられていましたもの。
くっ!? しかし、そうか、聖竜様はあの男を背中に乗せているのですね……。確かにそこは最強の聖竜様によって守られて世界で最も安全な場所です。
「下ろして! ツルツル滑るから下ろして!」
そのまま滑って落下死して良いですよ。
さて、一般の人々はパニックを起こして散り散りに退避中です。倒れた人々が踏み潰されていないか心配です。
動ける竜の巫女も倒れた方々を各々で引き摺りながら後退中です。一目散に逃げるような混乱はしていないみたいで良かった。
色んな部署を体験した私が言うので間違いないですが、彼女らは部署で鍛えられているので理不尽で不可解かな事にも耐性があるのだと思います。
「ルッカさん、あれが魔王ですか?」
私は黄金竜を見ながら尋ねる。
「イエス。その証拠に魔力の吸収現象が発現しているもの」
「メリナ様、早く退治しないと、かも」
そうですね。
いまも勢いよく魔力が竜に集まっています。時間が経てば経つだけヤツは強くなる。
「メリナさん、あぁ、無事だったのね。良かったわ。正気に戻っているわよね?」
隣に巫女長がやって来る。
「はい。基より正気です。なので精神魔法は不要です。一切、不要です」
今は味方だと思いますが、油断ならないのではっきりと伝える。
「そうよね。分かるわ」
本当に分かっているのだろうか。
って!!
えぇ、ノーアクションで例の精神攻撃魔法を発動。狙いは黄金竜でした。下手したら密着している聖竜様を誤射してしまうと言うのに。
しかし、やったのか……。
巫女長の魔法は黄金竜の頭部を正確に直撃。異空間にいたシルフォルさえも驚かせた魔法ですので、効果がないなんて事はないと思う。
「ダメかも。魔法は無効かな。吸収されてる」
チィッ!
フィンレーさんに云われて気付く。回復魔法を掛けたはずのアデリーナ様も元気がない!
立ち上がっているのに、私への罵詈雑言みたいな叱咤激励を発していない!!
「もうこの歳だから、接近戦は苦手だわ。メリナさん、頼んで良いかしら」
「えぇ。勿論です」
黄金竜の足下の地面が灰色に変わっている。そして、徐々にそれが広がり始めています。恐らく大地の魔力を吸収しているのでしょう。魔力の流れを読むに、最も接近している聖竜様がご自分の魔力を吸わせることで、その速度を遅くしているに違いない。さすが聖竜様。思慮深くて素敵。
『メリナちゃん、早く!』
聖竜様のご指示も頂く。
土を蹴り迎撃を掻い潜って殴打の届く距離まで迅速に肉薄。そして、間を置かずに全力で強打。死になさい。
大きな音を立てて砕ける。私の右拳が……。なんて硬さ……。サビアシースよりも硬い。つまり強い。
回復魔法も無効。激痛が体を走り、私は動きを止めてしまう。
そこへ竜の鋭利で大きな爪が襲ってきます。
「巫女さん!」
ギリギリで私を助けたのはルッカさん。空を飛ぶ能力を持つ彼女は私の巫女服の後ろ襟を引っ張る形で、危機に陥っていた私を宙に避難させたのす。
「ぐ! うー、うぐぅー!」
首を吊る形になっていて、大変に苦しい。足をバタバタさせながら、無事な左腕で前襟を引っ張って喉に空間を作る。
「殺す気ですか!?」
「エマージェンシーだもの。巫女さんのアタックが通じないなんて」
「でも、逃げませんよ!」
「オフコースよ。私に任せて」
……こいつを信じて良いのか。
いえ、今は戦闘中。躊躇いはダメです。
私は黙ることで肯定する。
「ウィークポイントを突くわ。巫女長さんの魔法は無駄じゃなかった」
と言うことは、頭?
魔力感知に集中すると、確かに竜の頭部だけ魔力の色が違っていて、それらが激しく動き回っている。
「巫女さん、分かる?」
「はい!」
「オッケーよ!」
空飛ぶルッカさんを叩き潰そうと竜は腕を振るい上げる。すかさず聖竜様がお噛みになれられましたが、なんたる怪力、竜は聖竜様ごと振り切ったのです。
聖竜様の牙が刺さったままの太い腕が迫る。
それを寸前で宙返りで躱し、一瞬だけ見えた聖竜様の背中にナベがまだ留まっていて残念でしたが、それはさておき、私達は竜の顔の真横に位置取る。
不気味な黒い眼が私達を捉えている。
「今よ!」
いくら硬くても眼が柔らかいのは世の常。しかも、今は巫女長の魔法の効果も期待できる。
即座に魔力操作で足場を作成。ルッカさんも察して私を離す。
右腕は痛むので下げたまま、胸を開いて肩の上に構えた左腕を真っ直ぐに放つ!!
「死ねぃ!!!」
気合い十分な私が殴ると同時に竜は顔の向きを変え、私をパクリと食べたのでした。




