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恒例の日記チェック

「えっ? アデリーナ様、どうして私の部屋に?」


 ビックリしました。欠伸をして眠たいですアピールをしたのに、唯我独尊な女王は平気な顔で付いて来たのです。


「用件があるからに決まっているに御座いましょう」


「えー。それはもう明日にして下さいよ」


「明日では遅いと存じますよ」


 くぅ、こんなことなら、睡眠よりも食事を選択すれば良かった。そうすれば、アデリーナ様のお話を聞き流しながら、ベセリン爺が運んでくる美味しい料理が食べられたのに。


「まずは日記の確認を致しましょう」


「は? 貸すから帰れ」


「本当に私をこのまま帰らせたら、メリナさんは後悔することでしょうよ」


 えぇ……何それ……。

 今更な脅しだけど、妙に自信満々。怖い……。


「……こちら、私の日記になります」


 アデリーナ様に恭しく帳面を差し出しました。

 なお、フィンレーさんの家を焼いた件は、「新築の寮も焼かないか心配で御座いますわ。本当に火事だけは冗談で済まないので御座いますよ」とか、マジ口調で小言を言われそうだったので、その次の日からのページを開いて渡しております。



◯メリナ新日記 18日目

 ベッドの中でくつろいでいたのに、フロンが訪問して来やがりました。

 聖竜様が負けただなんてジョークを吐いたので、こちらも冗談で軽く殴ったら、フロンの体が宿の壁を突き抜けてしまいました。

 魔族らしいブラックジョークだと分かっていたけど、私の心の中では許せなかったんだと思います。

 ショーメ先生、修繕をよろしくお願いします。代金はフロン持ちです。



「宿を破壊するとか、迷惑千万で御座いますね」


「すみません」


「メリナさん、良い機会です。伝えておきましょう。真面目な話、放火は洒落になりませんからね。普通なら死罪の大罪で御座いますよ。言っても聞かないかもしれませんので付け加えますが、大勢の者が過ごしている寮や宿屋なんて出口に人々が殺到して本当に危険で御座いますから、特に気を付けなさい」


「はい……。くそ、無駄だったじゃん……」


「無駄? どういう意味で御座いますか?」


「いえ! 独り言です!」


「……。ん? メリナさん、フィンレーの家も焼いたので御座いますか?」


「あー。前の頁を見ちゃった!」


「ガランガドーに火の系統の魔法を使うなと命じるしかありませんね」


「えー。火炎魔法は私の特技なのに」


「さて、話を変えましょう。メリナさん、聖竜様が負けた件についてはどう思われますか?」


「……それは残念ながら不運なことだったのかもしれません。無論、聖竜様の強さを僅かにも疑っている訳ではありません。私はティナや他の2人の戦闘力が尋常でないことを知りました。あのレベルなら、聖竜様であっても少しの天秤の傾きで勝敗が左右されるでしょう」


「…………」


「あれ? アデリーナ様、どうしました?」


「いえ。戦闘の話題になったら、急に真面目に喋られたので、『あぁ、こいつ、ヤベーなぁ』と心の中で思っただけで御座います」



○メリナ新日記 19日目

 神って言うのも大したことはなくて、ただ単に打たれ強いだけだと夕刻までは思っていました。

 違いました。あの3匹は別格。私はまだ遥かに及ばない。だから強くなる必要がある。

 あと、フィンレーさんが部屋から出て行ってくれなくて迷惑しています。日記を書いてるのを後ろから覗いて来るのも大変に迷惑です。



「メリナさんがそこまで言うのですから、彼らは本当に強いのでしょうね」


「はい。凄かったです」


「神か……。まぁ、良しとしましょう。私の計画通りに進んでいるので御座いますから」


「えっ、計画? 嫌な予感しかしない。聞きたくないけど知らないよりマシなんで、聞かせて頂けますか?」


「よろしいでしょう。プラン名は、そうですね、『竜の魔王が神となり、その魔王が寂しくなって優秀な親友を神に引き上げる、麗しき友情物語プラン』としましょうか」


「聞きたくなかった。なんて酷い妄想」


「神となれば永遠の命を持つので御座います。その孤独に恐怖したメリナさんは絶対に私を頼りますよ」


「仮に私が神になってアデリーナ様も仲間にと思う時があれば、頼るってかお前も道連れにしてやる的な可能性の方が高いですけど……」


「まぁ、口の悪い。照れ隠しは必要御座いませんよ」


「先のプラン名だって、親友とか友情とかどういうつもりですか……? 恐怖を感じています」



○メリナ新日記 20日目

 巫女見習いのフィンレーさんが私を誘ってくれたので、私はまた寮での生活に戻れそうです。嬉しい。

 でも、あそこは巫女さん業務領域内にあるので、巫女さんしか入れません。よって、ベセリン爺とお別れになるのは寂しいなぁ。

 あっ、ベセリンに女体化魔法を使用し、竜の巫女兼寮の管理人となってもらうアイデアはどうでしょうか。うん、グッドアイデア。

 今の管理人は退職して貰いましょう。



「ベセリンまで汚す気で御座いますか? 彼はメリナさんの周囲で唯一まともな方で御座いますよ」


「唯一って……。他にも……えっ、居ない……。いえ! フランジェスカ先輩が居ますもん!」


「フランジェスカで御座いますか? 確かに一見そうでしょう」


「何故にそんな含みを持たせた言い方を……。フランジェスカ先輩は神殿の良心ですよ!」


「ノノン村襲撃事件の際のフランジェスカを覚えておりませんか? 強くなるために何度も瀕死とメリナさんの回復魔法による復活を繰り返しておりました。薬師処でも何度も爆風で怪我をしております。彼女は恐怖心が希薄な一種の狂人で御座いますよ」


「おまっ、アデリーナ! なんて事を言うんですか!?」


「何よりの客観的証拠は、初見からメリナさんを恐れていない」


「私を熊や蛇みたいに言わないでもらいたい!」


「そんな生易しい存在な訳ないでしょうに」


「チッ。いや、でも、フランジェスカ先輩以外にもまともな人は居ます! えーと、えー……神殿にはもう居ないか……。この宿屋は……あっ、ベセリンが連れてきた女中さん達!」


「お名前は?」


「えっ、あ、聞いたけど忘れました……」


「他には?」


「コリーさん! 忘れてた! コリーさんはまともです!!」


「コリーで御座いますか……。蝶とか蛾とかを熱く語ることがあって困るので御座いますけど。それ、口に出すのも悍ましいで御座いますが、メリナさんのパンツからはみ出たアレの――」


「あー!!! コリーは違いましたね! ってか、死ねよ! えーと、あー! オズワルドさん!! 彼はまともですよ!」


「あれをまともな人間とか、普通の者なら思わないでしょうに」


「クッソォ!!」


「では、メリナさん、日記に『今の管理人に辞めてほしい』と書いた件を謝罪なさい」


「そいつも頭がおかしいヤツなのに!!」


「謝罪なさいね。今のも」



○メリナ新日記 21日目

 メリナ様はすやすや寝ているので代筆。

 落ち込んでいるメリナ様を2人で励ました。友情って美しい。恋バナもできてフィンレーは大満足。



「友情とか感じていない方に言われると、ちょっと怖いで御座いますね」


「どの口でそんな発言ができるのか」


「それで、メリナさん、失恋の悲しみは乗り越えたので御座いますか?」


「してない! 失恋してない!」


「いっそのこと、力でねじ伏せて言うことを聞かせば良いのでは?」


「為政者の言葉とは思えない」


「危険なドラゴンを駆除する法は有っても、守るものは御座いませんからね」


「あの、アデリーナ様、我々は聖竜様を崇拝する巫女なのですが……」


「その前に王国民で御座いますよ」


「では、竜を守る法を作りましょう!」


「そうで御座いますね。今の法は人のみを想定して作られています。それがブラナンもヤナンカの方針だったので御座いましょう。人化する存在が結構な数で居ると知った今は変える必要があると私は思っております」


「おぉ。あのアデリーナ様なのにまともな発言をした」


「最初からまともで御座いますよ。さぁ、メリナさん、謝罪がまだで御座いますね」



◯メリナ新日記 22日目

 今日は寮に引っ越しをした。部屋の前にアデリーナ様の部屋があって邪魔なので、アデリーナ様には王都に早く帰って欲しい。


「…………」

「…………」


「かつてない程に直接的で御座いますね」


「えぇ……。思っきり暴言の部類ですね……」


「まず迷惑だと思っているのはメリナさんだけでなく、私もで御座います」


「ひどっ!」


「いや、メリナさんも書いているでしょうに。実際に仕事を邪魔したことをもう忘れているので御座いますか?」


「表現がきつくて、すみませんでした」


「よろしい。しかし、これは貸しで御座いますよ」


「ひゃっ! 横暴な要求をされる予感がします!」


「簡単な話で御座います。私達、友達でしょ?」


「平然と『これは貸し』とか言う友達なんか要らないのに……」


「分かり次第、神になる条件や方法を教えなさい。よろしいですね」


「はい……」


 返事だけ。フィンレーさんに訊けば、すぐに判明するけど、アデリーナ様が神だとか反対です。



「これで日記は終わりです。疲れました。でも、アデリーナ様、ロビーまでお見送りを致しますよ。褒めてください」


「ふむ。それでは本題を申してから帰りましょう」


 えぇ、まだ、こいつ、帰らないの? ってか、早く王都に帰れよ。



「明日、聖竜様が地上に現れるとのことです」


「えぇ!?」


「巫女長がお聞きになったようです」


「本当に!? えぇ!?」


「2000年ぶりの地上になるとのことで御座います」


「こうしちゃ居られない! アデリーナ様、お金を貸してください!」


「唐突で御座いますね。何に使うので御座いますか?」


「ドレスとか装飾品とか! あっ、お祝いのお膳とかどうしたら!?」


「服はご自分の魔力で作ればよろしいでしょう。接待に関しては、神殿で用意を急いでいるところで御座います。あの性格だから格式張ったものは、嫌がるでしょうにね」


「私も手伝ってきます!! あっ、今日の分の日記はもう書いておきますから」

◯メリナ新日記 23日目

 明日は聖竜様が降臨される歴史的な日となります。私、頑張る。


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