仇敵同士の和解
舗装されていない細い砂利道を通って町に入った。
大通りを歩いていると、ずっと人の列が出来ていて、私はそれを不思議に思う。並んでいるのは若い女の人だけなんですよね。
「これはダンの嫁連中よ」
「は? この人達、全部?」
相当な人数ですよ。竜の巫女全員を集合させてもこんな大行列ができるかどうか。
「そう、全部。順番にダンに会っていくのよ。驚いたでしょ?」
「ふん、この程度。私の知り合いには剣王という名の男が居ます。数ではダンに負けるかもしれないけど、質では勝ります。何せ2歳くらいの見た目の幼女を妻にして子供まで作ってますからね」
「勝っちゃダメなとこじゃない。ってか、そんな変態、駆除しなさいよ」
「メリナ、ティナの言うことは真っ当。そいつはゴミ」
いや、分かってます……。その通りです。
ティナが自慢気に言うから、対抗しただけなんです。
「いや、まぁ。見た目だけだから……」
何故か私が剣王を庇う始末ですよ。
広場を歩く。
子供の遊ぶ声が聞こえてきて、荒れ果てた神界とは全く違う雰囲気です。
「骨の人ー、肩車ー」
「骨の人はニュエルリーシアと遊ぶの」
「骨ー、こっち来てー」
子供達が賑やかに呼ぶ通り、鎧を着た黄金色の骨を持つスケルトンがいて、彼か彼女かは分からないけど、それはせっせっと子供達の要望に応えます。子供十人ほどに囲まれていますね。
骸骨も慣れた様子で子供を持ち上げたり、腰を曲げて話し掛けたりしています。
「あいつ、大魔王ですよね……」
以前にマイアさんと見たルッカさん提供の映像で、見たことがある。ダンが子守りをするように頼んでいたのだったかな。
「メリナに教えてもらった場所で拾った」
マイアさんやヤナンカが本気で恐れていた存在を本当に子守りで雇っているんだ。それだけで彼らの桁違いの強さが分かります。
視野を動かすと、青白い古風なローブに身を包んだ若者が目に入る。広場の端から骨を見ている様子。
「あっちはスーサよ」
私が観察している者を察してティナが説明した。
スーサとはフォビのこと。呼び方が異なるのは鬱陶しいし、ティナが私に馴れ馴れしいのも鬱陶しい。
姿が以前と違うのは魔法でしょうね。魔力感知で、確かにフォビだと私も分かります。
「バカだから気を付けろ。バカが移る」
アンジェは辛辣だなぁ。
「メリナさんもバカだから平気だよね。あっ、ごめん」
チッ。その気もないのに謝りやがって。
「お姉ちゃん達、新しい家族?」
子供がやって来た。
「残念だけど違うわよ。でも、友達にはなろっか」
「うん」
膝を屈めて視線を子供に合わせた上で優しく言うティナ。子供には優しいのですね。
「見事な猫かぶり」
「失礼ね。素よ」
そんな訳ないでしょ。あの顔だけの状態は明らかに邪悪な感じだもの。純朴な子供と友達になれるとか有り得ない。
さてと、私はフォビに目を遣る。
「メリナ、スーサを許すべき」
「そうね」
「許すも許さないも、まずはあいつの謝罪です。永遠に聖竜様と接触しないなら考えてやらないこともない」
そう。聖竜様は人間の女性の姿で色気付いた様子を見せていました。相手はフォビだった可能性が高い。ならば……聖竜様には悪いですが、私の愛のためにフォビには遠くに旅立ってもらいたい。
注目していたフォビが歩き始める。向かう先は子供に囲まれた大魔王です。
2000年来の因縁を抱える者達ですから、死闘が開始されるのかもしれない。
「よぉ」
まずはフォビが話し掛ける。
「……憎き聖竜とともに居た者か?」
聖竜様を憎いと表現したので、骨は後でお仕置き決定。肋骨を全部剥ぎ取って畑に撒いてやる。
「だな。さっきは助けてもらったな。感謝する」
「ふん。助けてはいない。お前もすぐにあの竜に喰われたであろう?」
サビアシースとの戦いで共闘したのか。
「それは仕方ないさ。相手が悪かった。しかし、お前と会話をする日が来るとはな」
「こちらのセリフだ。お前達に長く封印され、恨みと屈辱に取り込まれたにも関わらず、今はこんな場所で子守りであるしな」
「救われて良かったな」
「喧嘩を売っているのか?」
「ヤナンカが心配していたからな」
「あの裏切り者め。まだ生きておったか」
「まずは人間だった俺が生きていることに驚けよ」
「ふん。お前は当時から桁違いにおかしかった。不思議ではない。……思い出した。お前の仲間を殺しておったな。すまぬ」
肩車をしていた子供を両手で地面に立たせてから、骨が頭を下げる。
「良いってことよ。戦争なら当然だ」
仇敵だったはずなのに、2人は仲良く喋っている。完全なる和解ですね。
「メリナ、あれだ。お前もあんな感じで、ティナと付き合え」
「は?」
「あはは、随分と私は嫌われてるから、まだ無理かしらね」
さて、私は靴のフィット具合を確かめる。
「何?」
「フォビをぶん殴りますよ。前にあいつが言ったんです。『100%の俺に勝ったら聖竜様をやる』って。あいつ、今は100%なのかな」
「ティナ、止める」
「好きにさせてあげた方が良いわよ」
「分かった」
勢い良く突進した私は、側面からフォビの顔面に拳を叩き付けました。でも、ひどく脆いように感じて、まだ100%ではなかったのかなと残念に思いました。




