封印されたサビアシース
光が消え、辺りはまた溶岩による明かりだけになる。サビアシースが存在していた所は地面が融けてなくて暗いのですが、ダンが歩いて何かを回収していました。彼が肩に担いだ物が人の足だと分かり、サビアシースに食べられていたというフォビなのかもしれない。
「サビアシースは何処に封印されたんですか?」
私は戦いを終えたアンジェに尋ねる。
「後で」
期待してなかったけど端的な答えが返ってきて、そこまで興味がないことで帰宅が遅れることに後悔しました。
「とりあえず撤収だな。シュルヴィチーアもお疲れだった」
「あら、解散でありませんの? 貴方はお忙しいのだから、あとは他の方にお任せすれば宜しいのに」
「ガハハ、そうもいかぬぞ。シルフォルとサビアシースが居なくなった今、混乱に乗じて無茶をする奴らがいるからな! シュルヴィチーア、当分は忙しいぞ」
「殿方は無事を祈る者のことを考えないのかしら」
「話は後。急ぐ」
アンジェが喋り終えてすぐに、至近距離で閃光と爆発。ダンを襲ったもので、それが雷撃だと知る。
『その者を渡せ』
『シルフォル様の仇である』
『もはや後れは取らぬ』
『考えられる限りの苦痛の全てを与えた後に死を与えよう』
色んな方向から聞こえる声に聞き覚えがあって、シルフォルの四天王とかいう奴らだと私は理解する。
「今の今まで竜の腹に収まっていたのに元気ね」
「ティナ、今は退く」
「そう? 残念だわ。苦痛が罰になるなんて思ってるあまちゃんに色々と教えてあげたかったのに」
ティナは言い終えて、私を見てから悪戯っぽく笑った。
次にダンが声を出す。
「アンジェ、待て。こいつらに言っておかねばならぬ」
「少しだけなら」
「貴方、お好きにして良いのよ」
ダンの嫁は一貫して夫の肩を持つんですね。
「お前達、よく聞け。メリナはシルフォルに力で勝った。その点を認めないのであらば、この混乱は果てしなく続くであろう。それはシルフォルの理念であった停滞による調和に反するのではないかと、俺は思うぞ」
『……我らに屈せよ、と言うのか?』
「あぁ。お前達は負けたのだから、敗者としてフィンレーとメリナを主として崇めるべきであろうな」
『認めぬ』
「なら、俺もお前達を認めぬだけだ。ガハハ。よくよく考えるが良い。また来る」
ダンが紫色の箱に囲まれる。これは知っている。彼特有の転移魔法だ。
「ダンに続く」
アンジェは指を鳴らす。そうすると、絵本で読む地獄のような地が裂けた光景が消え、目の前には、空で太陽が燦々と輝く長閑な田園地帯が広がるのでした。
近くにはちょっとした町も見える。魔物避けの街壁どころか柵さえもなくて無用心な場所だと感じました。
「メリナ、ここはダンの領域。時間の流れが速い。だから、時間は気にしなくて良い」
浄火の間みたいなものですね。ここで半年過ごしても、元の世界では一瞬みたいな。
「アンジェ、どうして逃げたのよ? 私は戦っても良かったのよ」
「やり過ぎ。禍根しか残らない」
「あはは。それさえも踏みにじって、誰が強いのか十分に分からせてあげたかったわ。ねぇ、メリナさん?」
あん? またティナが私に話し掛けて来やがった。
「まだ勝てないけど、いつかお前を葬ってやりますから」
「あら? 謙遜にしないでよ。今でもメリナさんの方が強いかもなのに」
こいつ……。心にもないことを口にしやがって。
「それでは、皆さん、お元気で。私は主人の下へ参ります故に」
そそくさと別れの挨拶をして、ダンの嫁は去っていく。
残されたのは私とアンジェとティナです。
特に話すことがないので帰らせて欲しい。
「サビアシースの封印場所」
ん? アンジェが突然私へ喋りだした。
「竜王であるメリナの側にした」
「どういうことですか? そんなモン、近くに要りませんよ」
「万が一、何かあれば頼む。ヤツでも竜王には従う」
ん?
「もう、アンジェは説明しないのね。メリナさん、教えてあげるわ」
「いや、要らない」
「神は魔力固定によりその姿を失ってもいずれ復活する。つまり、死なない。メリナさんも知ってるでしょ」
断ったのに話が続くのか!?
「でもね、石像にしたりして動けなくはできるの。で、アンジェはサビアシースを石像にした上で、それを粉々にした。それをメリナさんの国の近くの海に沈めたの。新しい島が出来ていたら、それよ。サビアシースの残骸」
「海?」
「海を知らないの?」
「……知らなくても生きていけます」
「湖よりも大きな水溜まりよ」
と言うことは、シャールの湖じゃないのか。聞いたことがないなぁ。
「サビアシースの魔力は膨大。島どころか大陸になった」
よく分からないけど、危ないものには近付かないようにしておこっと。私が面倒を見る必要は一切なさそうだもん。
「そんな規模だと沿海は津波で大変なことになったかもね」
「そんなへまはしない」
「だよね。さすがアンジェ。メリナさん、知ってる? 貴女達の住んでいる陸地は全部、元々は神様なのよ」
ん?
「封印された数々の神様ってこと。何兆年、何京年の間に積み重なって、あんな感じになってるのよ」
本当に言っている意味が分からないなぁ。
「地上に顕現した精霊は地中に向かうでしょ? ほら、メリナさんの聖竜様とかも土の中よね。あれ、封印された神を無意識に喰らっているのよ。神の封印を長くするために、大昔の神様が定めた精霊の本能みたいよ」
「はぁ」
「メリナは見所がある。覚えておけ」
「なんで?」
「神はね、魔力が固定化されていて、魔力的には変動しないの。つまり、それ以上強くなれない。アンジェだってね。でも、メリナさんはまだ神じゃない。まだまだ可能性があるの。だから、アンジェは自分よりもメリナさんが強くなるのを期待しているのよ」
「そう。よろしく」
アンジェが手を前に出して、私に握手を求めてきた。
「あは、ダメよ、アンジェ。メリナさんは私のお気に入りなんだから、私の許可がいるわよ」
「いや、お前の許可は要らんでしょ」
ティナに反発する形で、私はアンジェの手を取った。彼女の手は普通の人間みたいに柔らかくて温かかった。




