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仲良しこよし

 落ち着く見習い達。今ではふーみゃんを挟んで2人並んでベッドに座り、ふーみゃんを撫で愛でるくらいになっています。

 ふーみゃん、凄い。


「メリナ様の呪いを凌ぐ呪い、ちょっと驚愕かも。竜神殿は魔窟って言葉を、フィンレーは改めて噛み締めないと」


「呪いってフィンレーさんは本当に口が悪い」


「メリナ様も黒猫にぞっこんなの、おかしいと思わないのかな?」


「思わない。強いて言えば、ふーみゃんはどうしてこんなに愛らしいのかしらと不思議に思ってます」


「わぁ、宗教の狂信者と一緒かも」


「うふふ、私もアデリーナ様もふーみゃん教があれば入信してしまいますね」


 さて、戯れ言はここまでです。



「皆様、竜の巫女メリナと見習いのフィンレーさんです。隣の部屋に住みますので、これから宜しくお願いします」


 私はにこりと笑いながら、優しくお辞儀します。遅れてフィンレーさんも。


「……はい。メリナ様、よろしくお願いします……。でも……」


「……あの……その……許して頂けるのですか?」


 2人は目を伏せて、恐る恐ると訊いて来ました。薬師処での無礼な振る舞いを後悔されていることがはっきりと分かります。


「許すも何も怒ってませんよ」


 私の言葉に対して静かに涙を流す2人。まだ歳は15くらいでしょうか、そんな小さな彼女らは私の心を傷付けたかもしれないと、長く悩んでいたに違いありません。

 しかし、彼女らのふーみゃんを撫でる手が止まらなかったので、ふーみゃんを没収します。それを防ごうとちょっと手で庇う抵抗があったのを見逃しませんが、ふーみゃんの魅力にやられた者同士ということで、それは致し方ありませんね。


「あ、ありがとうございますっ!」


 ふーみゃんが側から離れて始めて、私は手を握って感謝されました。

 聞けば、フランジェスカ先輩と私への所業に激怒したマリールに薬師処を追い出され、次の部署へ転出する予定だったのですが、体調不良が続いて、それも延期。両人とも帰る宛も家族もいないのに、そろそろ神殿から退職勧告が来るかもと怯えていたのです。


「うんうん、慈悲は良いものかも。私も若い頃を思い出したよ」


「はい。では、続きですよ。隣に引っ越して来た記念の品です」


「挨拶の手土産だよね、って、えぇ、メリナ様、それをやっぱり出すの?」


 黙れと私は眼力でフィンレーさんを制する。

 そして、両手でパン形の炭を真っ二つに分けて、ベッドに座る彼女らへと渡す。黒い粉が床にパラパラと落ちました。


「な、何ですか……?」


「やっぱり許して貰ってない……」


 震える手で炭を持ったまま動かなくなる2人。


「手土産ですよ。さあさあ、遠慮せずに懐に納めて」


 突然の贈り物で動揺している彼女らを私は笑顔で待ちます。

 1人は炭を口に持っていこうとしました。なのに、フィンレーさんが横槍を入れてくるのです。


「メリナ様、もう戻ろっか」


「えぇ!?」


「これ以上は弱い者苛めかな。良くないよ」


「じゃあ、強い者を苛めるのは良いんですか!?」


「逆襲される覚悟があるなら良いと思うかな」


 チィッ! 生意気を言いますね!

 じゃあ、どうなっても知らないから!

 メリナの覚悟を見せてやります!



 私は廊下へと出ます。自室に戻るんじゃない。その対面の部屋へと向かったのです。

 ノックする。


「仕事中で御座いますから、去りなさい」


 偉そうな。強い者苛めもできることを私は証明するんです!


「向かいの部屋に引っ越して来た者です。ご挨拶に参りました」


「全く不要で御座いますから、去りなさい」


「手土産ありますよ?」


「ゴミはゴミ箱へで御座いますよ。良い考えが浮かびました。メリナさんも終の棲み家としてゴミ箱へ移住されたら宜しいのでは?」


 減らず口を!

 私は鍵でロックされたノブを無理矢理にゴリゴリと回して侵入する。


「アデリーナ様、折角来たんだから、ちゃんと出迎えてください!」


「仕事中で御座います」


 冷たい。書類から目を離さずの応答って、酷すぎる。


「手土産を――あっ! ちょっと待ってください」


 私は見習い達の部屋へと駆け戻り、2人が持つ炭を奪ってアデリーナ様の机の上に置く。

 勢いよく置いたので、粉々になったのはご愛敬。


「手土産です! これからもよろしくお願いします!」


 アデリーナ様はさっきの見習い達と同様に無言でした。無礼なアデリーナ様ですので、引っ越しの挨拶なんていう礼儀正しい風習を御存じないのでしょうか。可哀想。

 女王は首の後ろをポリポリと掻き始めました。巫女長との地下水路探索で虫に噛まれたのでしょうか。


「仕事が溜まっているので御座いますよ。なのに、この仕打ちは困りますよね。ねぇ?」


 あっ。久々だ……。

 笑い怒りするアデリーナ様はご無沙汰しておりました。


「メリナっ!! そこに座りなさい!!」


「ひゃい……」


 怒気に当てられ、私は素直に座る。隣をポンポンと叩いてフィンレーさんにも連座して貰いました。すると、ふーみゃんまでお尻を付けて並んでくれるのでした。感動です。ふーみゃんは賢いなぁ。

 アデリーナ様の大声での説教を聖竜様との妄想デートで聞き流し、タイミングを見計らって私は発言します。


「アデリーナ様、許してください。反省してます」


「嘘、おっしゃい!!」


「本当に反省しています。実は見習いさん達と仲良くなろうとしたのですが、元気がなくてアデリーナ様に快活さの見本を見せて貰おうかと」


「メリナ様、お言葉だけど、怒ってるだけだったから、見本にならないかな」


 フィンレーさんは黙ってなさい。


「見習い? あぁ、そこの斜め前の?」


 アデリーナ様も彼女らを把握していたようです。ならば、話が早い。


「ルッカさんに操られていただけで、かわいい後輩なんですよ」


「ルッカに操られたのは間違いないとして、彼女らは元々帝国からのスパイで御座います。マリールの技術と知識を奪いに来ていました。先日、体制が変わりつつある帝国側から詫びの使者が来て確定しております」


「え?」


「そんな輩だから、ルッカも捨て駒に使い易かったのではないかと推測致します。メリナさんの隣室に住まわせて、より苦しんで貰う計画でしたが、程ほどにしてやりなさいね」


「あの子達、泣いてましたよ……?」


「戻る故郷も組織もなくなり、この神殿にも居場所はなくなりつつある。不安で御座いましょうね」


「絶対に私が笑顔を取り戻してやります!」


「よくぞ言いました。メリナさんに絡まれ、これ以上にない後悔の日々を彼女らは過ごすことになるでしょう」


「エグい話かも……」


 アデリーナ様がふーみゃんを抱き上げる。

 それを眺めていたら、フィンレーさんが言います。


「メリナ様、弱い者苛めと過剰な罰は良くないから。アデリーナ様にちゃんと伝えて欲しいかな」


 この至近距離ですし、今のもアデリーナ様に聞こえているから自分で言えと思いましたが、私は口を開きます。


「見習い達は私が改心させます」


「好きになさい」


 おぉ、あっさりと許可が出た!


「ありがとうございます。あと、アデリーナ様」


「何でしょうか。遂に、私の机の上を真っ黒に汚した件について、謝罪を口にする気になりましたか?」


「いいえ。何で私の部屋の前がアデリーナ様の部屋なんですか? 最悪なんですけど」


「こちらのセリフで御座いますよ。総務部長からの願いを断りきれず、メリナさんを見張る役目を引き受けております。最悪で御座います。ゴミ箱を差し上げますから移住なさいな」


 私とアデリーナ様は笑顔で睨み合う。


「うんうん。2人は本当に仲良しかも。私も仲間に入れて欲しいかな」


 フィンレーさんだけは満足そうでした。

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