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見習いさん達との交流

 いかにして手土産を巫女見習い達から貰うか、作戦を立てる為に、私とフィンレーさんは自室に戻って参りました。


「メリナ様、行ったり来たりで時間ばかり使ってるかな」


「何か、ご不満でも?」


「不満って程ではないけど、こんな無駄な時間があるなら、私も見習いになったばかりだから教義とか歴史を教えて欲しいかな」


「フィンレーさん、竜神殿を舐めてますね」


「ごめんだよ。何も知らずに入信したのは失礼だったかも。でも、メリナ様から離れるのは身の安全的に不安だったから許して欲しいかな」


「いや、そうじゃなくて。そんな事を先輩から学べると竜神殿に期待してるんですか?」


「教導士さんが別にいるパターンかな」


「……フィンレーさんが人間の頃に聖女をやっていた宗教では居たんですか……?」


 見習いになったばかりの私なら、そんな人が居たら大歓喜だったことでしょう。


「勿論だよ。教義を頭に叩き込んで、実践して、見習いから昇格。その後も、古今東西の解釈を取り揃えて自分なりに整理して、試験を受けて、教会内で昇格していくかな。1回でも試験に落ちたら出世コースから外れるから、皆、寝る間を惜しんで勉強してたかも」


 ……うわ、試験とか言いやがりました。近くに存在していたら、その宗教を絶対に邪教認定して、全力で破滅させてやります。



「さてと、それじゃ、プロジェクト手土産を組み立てますよ」


「わっ。私の話が打ち切られた」


「話の広がりようがないですもん。私の見習い時代の毎日の殴り合いの話でも聞きます?」


「想像できるから要らないかな」


 そう言われると、複雑な気分です。



「やっぱり後輩に部屋へ来て貰って、土産まで要求するのは良くないと、フィンレーは思うかな」


 ふむ。一理ある。

 私がアデリーナ様やエルバ部長にそんな命令されたら、間違いなく腹立たしい。踏み潰したての体液も乾いていない蛙や虫の死骸100体とかを箱詰めで渡したくなるかもです。


「こっちから出向いて、先に渡すんだよ。そうすれば、礼儀としてお返しを頂けると思うかな」


「天才!」


「えへへ」


「で、我々のお土産として金貨とかどうですかね?」


「真面目な話、その金貨で外食に行った方が早いよね。人をお金で釣るのもよろしくないし、他に何かないかな?」


 そこで私はまだ捨てずにいた炭化したパンを差し出す。使い道はここしかない!


「ゴミを貰って嬉しい人はいないかな。いくらメリナ様でも分かるよね?」


 フィンレーさんの眼差しは決して温かくありませんでした。


「じゃあ、食堂のおばさんはどうして私にくれたんだろう……。フィンレーさん、私だけでなく、敬愛する食堂のおばさんを侮辱する気ですか!?」


「にゃ~」


 ハッ! ふーみゃんが欠伸!!

 退屈しているのですか!? 『メリにゃ、フィンレーと相談していても話が進まないにゃ』って仰っているのですか!


「フィンレーさん、行きましょう」


「そうだね。返礼は期待せずに、挨拶したら外食しよっか」


 ぬっ、なんて弱気な。



 私は隣の部屋の扉をノックします。魔力感知的には2人ですね。どちらもベッドに寝転がっていて無気力のクズと思われます。


 少し待っても中の連中が動く気配がしない。私は鍵穴に指先を持っていき、静かに氷魔法を使う。そう、今となっては完全にマスターしている氷製のスペアキー作り魔法です。

 カチャリと開け、冷たく透明な鍵をフィンレーさんに預ける。


「これ、犯罪行為を私に擦り付ける為に預けたのかな?」


「あはは、まさか」


 私の真意がバレるなんて。フィンレーさん、勘が鋭いから油断ならない。



「あ……誰ですか……?」


 カーテンを締め切った部屋に、開いた扉から光が射し込んだ為か、それで(ようや)く中の住人が私達の訪問に気付いたのでした。

 ベッドからゆっくりと立ち上がるのが見える。


「今日も体が重くて……すみません、カーテンを今から開けます……」


「でも……新しい寮に入れて貰って、私達も少しずつ回復はしていますので……何とぞ……」


 奥の人がガラス戸を向き、手前の人が裸足でこちらへと近付きます。2人ともヨロヨロしていて病人なんでしょうかね。



「ヒャッ!!」


 部屋が明るくなった瞬間、私達を出迎えようとした見習いの女の子が腰を抜かしました。

 奥の少女も、開けたカーテンを握り締めたまま、こっちに顔を向けて震えています。


「メリナ様の知り合いかな? 恐怖で引き攣ってるし」


「脅えている様子から『私と知り合いなのでは?』に繋げるフィンレーさんの性悪な発想力、逆に脱帽です」


「ヒ、ヒ、ヒィ……」


 巫女見習い達は額に脂汗を浮かべ、歯をガチガチと鳴らすという謎のパニック状態でして、私は隣に引っ越してきた挨拶ができそうになくて、困ります。



 って、あっ。


「フィンレーさん、知ってる人達でした」


「でしょ、でしょ。メリナ様が何か仕出かして、その被害者だよね」


 嬉しそうに言うんじゃありません。


「ご両人とも薬師処の見習いさんです」


 手前は確かウェイニーさん。フランジェスカ先輩を私が魔物駆除殲滅部に引き抜いたっていう根拠のない噂を作ってばら蒔いた人です。奥の人は、フランジェスカ先輩にウスノロって暴言を吐いていたかな。

 両方ともルッカさんの魔力の影響を受けていたと推測されていたはず。


「メリナ様に楯突いた?」


「うーん……少しだけかな」


「で、半殺しにしたのかな」


「ちょっとだけだよ、やだなぁ」


 奥の人は殴った結果、腕が肩から外れて、会議室の床に転がったのは覚えてる。


「その時にメリナ様の戦闘魔力に精神が冒されたのかな。残念だけど、肉体と違って元に戻らないと思う」


 涙を流しながらガタガタ震える彼女らの前で、フィンレーさんはなんて酷いことを言うのでしょうか。


「それが真実かどうか分からないけど、他人の前で喋ったら殺すぞ。要らぬ誤解が増えます」


「ひゃー。フィンレーも震え上がりそうかも」



 その時、四つん這いだったふーみゃんがすくっと立ち上がり、見習いさん2人の間に入ります。そして、何やらふーみゃんから魔力が発させられたのです。


「魅了魔法かな。へぇ、恐慌状態をそれで上書きするつもりなのかも」


 頑張れ、ふーみゃん。

 生意気な見習いさんであっても、彼女らの未来を私が潰したなんて汚名を払拭するのです!

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