やさぐれメリナ、励まされる
いつの間にか私は自分の部屋に戻って来ていました。
何だか心のどこかに隙間が出来て、それが大変に寂しい気分にさせます。いっそのこと、独りでひっそりと静かに悲しみを耐えたくなります。
なのに、こいつらが何故か部屋に生息してやがるのです。
「今日こそ恋ばなだよ!」
「イエス! 恋ばな!」
フィンレーのおバカな提案に、黒い白薔薇が妙にノリノリで答えてやがります。フィンレーの部屋でやりやがれってんです。
「さてさて、メリナの想い人は誰かな?」
「殺すぞ」
「はいはい! 存じておりますよ、それは聖竜スードワット様!」
「イェーイ!!」
アデリーナ様とフィンレーが異様なテンションでハイタッチしてやがる。
「……お前ら、マジで殺すぞ……」
私の願いが叶ったのか、部屋が沈黙で満たされました。
「……ア、アデリーナ様の想い人は誰かな?」
「残念ながら、未だ私と釣り合う者とはお会いできておりません」
お前みたいな非人道的人間に見合った人間なんて存在しません。
「なるほど。アデリーナ様、ハイスペック!」
「イェーイ!」
「イェーイ!」
クソどもが。お前らは何なのですか。
「じゃあさ、想われ人はいるのかな?」
「照れ臭いで御座いますね」
「わっ、居るんだ!?」
「おほほほ」
あ? 今の私の前でする話題なのか。
「某国の王子なんですよね。ただ、まだまだ彼は未熟」
「アデリーナ様は凄いもんね」
「えぇ。その通りで御座います」
なんで堂々と同意できんだよ。アデリーナは自信過剰で恥知らず。
「ふん。こいつは獣みたいなヤツに好かれるんです。ガランガドーにも恋慕されてたくらいですからね」
皮肉の1つも言いたくなります。
「おっと。もう別の方からも慕われている?」
「おほほほ。モテる者は辛いで御座いますね」
「ヒューヒュー!!」
「死ね、死ね」
「ところで、フィンレーさんの恋バナはどの様な感じなので御座いましょ?」
「私? ないんだよねぇ、恋愛経験。皆が羨ましいよ。でも、私の青春はこれからだよ」
「そうで御座いましたか。何にしろ、メリナさんの様な一途な愛が見付かると良いで御座いますね」
っ!?
アデリーナ様!!
私の愛をその様に思って下さっていたのですか!? この純愛を偏執的な愛だとか、そんなそうに貶されていたのだと私は勘違いしておりました……。
「だねぇ。メリナ様みたいなの憧れるなぁ」
えっ? 私みたいな?
「え……。そ、そうかなぁ……」
「「ヒューヒュー」」
「えへへ」
何だか心が温かくなってきました。
でも、やっぱり空しい。
「……聖竜様、他に好きな人がいるのかなぁ」
「いない、いない。いないよね、アデリーナ様?」
「居ないでしょう。恋愛の達人の私が言うのですから間違い御座いません」
「でも、アデリーナ様は別に恋愛の達人じゃないもん。むしろ、私の知人の中では恋愛レベル最低ですけど」
「あ?」
いつもの鋭い眼光が復活して、私はビクッとしました。
「ね、ねぇ、アデリーナ様。どうやったら聖竜様はメリナ様に惚れるのかな?」
「バカバカしくなって参りました」
「ダメだよ。メリナ様を励まさないと世界が危ないかな」
「チッ」
し、舌打ち!?
「仕方御座いませんね。メリナさん、自分を磨きなさい。私のように気品を身に付ければ自然と好かれることでしょう」
「はぁ……」
お前が身に纏っているのは威圧感だろ。
「フィンレーは強さを見せることだと思うかな。ドラゴンってのは力が強い者に惹かれる生き物だから」
「しかし、メリナさんは常に見せ付けておりますよ」
「竜王を継いだことを利用したら良いと思うかな。王の権力には逆らえないのが庶民の哀しさだよ。夫になれと命じたら良いかな」
……ふむ……。禁じ手な気がする。
「ちょっと乱暴じゃないかな……?」
「時には強引なのも恋のスパイスとして必要かも。フィンレーはそう思うかな」
「……どうですか、アデリーナ様?」
「恋のスパイス。言い得て妙で御座いますね。確かにその気がなくても、メンディス殿下に求愛された時は気持ちが晴れ晴れとして心地よかったものです」
あぁ、昨年のことですね。その後、調子に乗った発言をしまくってたのを覚えてます。
「メリナ様、フィンレーの案で行ってみよっか」
「はい……」
明るい笑顔のフィンレーさんは自信満々で、私もそれが名案だと思えてきました。
「アデリーナ様」
「どうしました? 礼は不要で御座いますよ」
「いえ。本当に眠いです。帰って欲しいです」
○メリナ新日記 21日目
メリナ様はすやすや寝ているので代筆。
落ち込んでいるメリナ様を2人で励ました。友情って美しい。恋バナもできてフィンレーは大満足。




