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新しい巫女見習い

 巫女服を纏って私は街を歩く。

 心底、恐ろしいことに、この服は私が魔力で作り出した物。本物と遜色ないどころか遥かに強度は増していると思われます。

 しかし、重大な欠点があるのです。


「メリナ様、何回も足元を見てるけど、お金は落ちてないかな」


「そんなつもりじゃありません! アンチマジックが無いか確かめているのです」


「こんな平和な街でそんなのないかな」


 いいえ。ショーメ先生やアデリーナ様は私をからかって満足する節があります。あいつらは非道です。魔力で作られた巫女服がアンチマジックで損壊し、魔力を吸われて立ち上がれない私は道の真ん中で全裸の状態で四つん這いになるのです!


「メリナ様ほど強ければアンチマジックなんて恐れなくて良いのに」


「いいえ。警戒することに越したことはありません!」


 くぅ。全裸での四つん這いで思い出してしまった。

 ナベ。ティナに騙し討ちをされて、裸の状態で炭にされた私はヤツにマジマジと眺められたのです。

 雪辱を果たすには殺るしかない。しかし、あの神達とも敵対することになって、もっと酷い目に合わされる可能性も大きい。なんて、ジレンマなんでしょう。

 私は頭をブンブンと振って、嫌な思いを消す。



「ところで、フィンレーさん。どうして私に付いて来てるんですか?」


「神界があれだけの惨状だから、フィンレーも狙われるかもと思ってメリナ様の傍にいるんだよ」


「でも、今から行く竜神殿は部外者立入禁止の場所も多いですよ」


「じゃあ、関係者になろうかな。私も竜の巫女になる」


「そんな簡単に言いますが、竜神殿は魔窟ですよ」


「メリナ様がそう表現するなんてよっぽど。ちょっと怖い」



 本当にフィンレーさんは巫女になるつもりだったのか、神殿にまでやって来てしまいました。


「立派な神殿だね。シルフォル様好みだし」


「は? シルフォルでなく聖竜様の神殿ですよ」


「シルフォル様、拘りがあったんだよね。シルフォル派の神様達は管理する地域の文明に制限があったんだよ」


「興味ないです」


「メリナ様はフィンレー派のナンバー2ってか、実質ボスなんで色々と知っておいて欲しいかも」


 フィンレーさんには悪いですが、ここからの私は仕事モードです。中庭の池もそろそろ半周。私の仕事場である巫女長の執務小屋が近付いているのですから。



「あらあら、メリナさん。そちらの方は?」


 巫女長が現れる。わざわざ私が来るのを察して小屋から出てきたのです。緊張します。粗相のないようにしないと、命が危ない。


「フィンレーさんで、私の友人です。いや、知人です」


「ちょ、メリナ様。友人から知人にランクダウンされたのショックなんだけど」


「まぁ、そうなのね。でも、今から仕事なのにお友達を連れて来られたら困るわね。困ったわ。あぁ、困った」


 っ!? くそ!! そう言って私を怯ませ、無理難題を押し付けるパターンと見た!


 賢い私としたことが何たること! 確かに難癖を付けるには良い状況になっていました!

 くぅ、無理矢理にでもフィンレーさんを引き剥がしておかなかったのは大失態!!


「フィンレーさんは巫女としての素質が高そうなんです。どっかの遠い国では聖女をされていたそうですし、実は年齢も巫女長よりご高齢なんですよ。巫女見習いにどうかなと一緒に来ました」


「まぁ、そうなの?」


「はい!」


「聖竜様のお声も聞こえるってことで、早速、副神殿長のところへ案内したくて」


「メリナさんが太鼓判を押すなら安心ね。フィンレーさん、よろしくお願いします」


「任せてー。邪教徒の殲滅とか洗脳とか得意かも」


 ……元聖女のセリフじゃないでしょ。

 しかし、そんな些事は放置です。


「まぁ、本当なの? 洗脳には興味があるわ。うふふ、冗談」


 ひっ。笑顔が怖い!

 精神魔法のエキスパートが洗脳に興味があるとか、マジモンでヤバいヤツじゃないですか!?

 私は足早に去る。


「メリナ様、急ぎ過ぎかな」


「お前! あのババァ、じゃない、巫女長を舐めてはいけませんからね!」


「もう大袈裟だよ」


 こいつ!!


「ズタボロのボロ雑巾みたいに地面に放置されたフィンレーさんの哀れな姿が見に浮かぶ」


「私も一応は神なんだもん。メリナ様こそ、私を舐めてないかな」


 あぁ……分かってくれない。ならば、1度痛い目に合うがよろしい。


「そっかぁ。さすがフィンレーさん」


「うん。いくら私でも人間には負けないよ」


 そうこう話している内に、私達は白く塗られた建物へと入る。ここは神殿の管理部門が入る本部ってヤツです。

 働いているのは全て巫女さんなのですが、独特の静かな雰囲気が私は苦手です。



 受付は顔パスで通過。ノックして副神殿長の部屋へと入る。


「メリナさん、お久しぶり」


 相変わらずメガネが尖ってますね。


「突然、お邪魔してすみません」


「構わないわ。それで、どうしました?」


「こちらの方を見習いに推薦します。とても優秀なんです」


「分かったわ。貴女、聖竜様の声は聞こえる? ……はい。聞こえますね。合格」


 問い掛けたのに答えを待たずに合格が出た? 何か魔力が動いたようにも見えたが……。


「部署は、そうね。メリナさんと同じで良いわね。総務部秘書課巫女長付き専任。では、これから頑張って、フィンレーさん。見習いは寮に入る決まりなの。えっ、メリナさんも一緒? 仕方ないわね。メリナさんの部屋も用意しま――はいはい、同室ね。分かったわ。うん、これからも宜しく」


 あっさりと話が通り、私は自分の影響力がここまで高まっていたのかと恐ろしくもなったのですが、違う。

 私はまだ副神殿長にフィンレーさんの名を告げていなかった。なのに、その名を副神殿長は知っていた。しかも、話の展開はフィンレーさんに都合の良い方向にしか行っていない。何より妙な魔力の動きも確認された。

 ここから導かれる答えは1つ。

 フィンレーさんは洗脳魔法を使いましたね。これしか有り得ません。



 外に出て、私はフィンレーさんに尋ねたら、素直に認めやがりました。舌なんか出してバレちゃったって顔です。


 鉄拳制裁。

 フィンレーさんの腹をぶん殴ります。吹っ飛んだ彼女は道の脇にあった木に背中をぶつけて止まる。大きく揺れて葉が周りに散らばる。


「メリナ様……?」


「シャールの街では魔法が禁止されています。見習いの間は2度と使わないように」


「口で注意したら良いと思うかも」


「そんな生温い教育を私は受けていません! さぁ、断崖絶壁から落とされた獅子の如く立ち上がりなさい」


「うん。でも、そんなトコから落ちた獅子って、私みたいに死にかけてるんじゃないかな。実際のところ、立てないよね」


「口答えは許さん!」


 ふぅ。2度目の愛の鉄拳。お母さんとアシュリンさんという、元近衛兵仕込みの教育です。

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