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自分が誇らしい

 ティナは私が動くより速く間合いを詰め、3連撃の突きを見舞ってきた。喉元、胸、腹。退いても追って来るそれを、最後の突きで横に捌いて前へ出る!


 そして、斜め前のティナの顔面へ肘撃ち。


 残念ながら、空振り。背を屈められて避けられてしまいました。そのまま前進してから振り返り、間合いを取って対峙します。


「やるじゃない」


「魔法勝負にしても良いですよ」


 私の頭の中にあるのはシルフォルを墜とした時のイメージ。


「甘ちゃんね。そんなので勝負が付くとでも?」


「じゃあ、この手で切り裂いてやりますから」


 ジリジリと足を擦って移動しながら相手の隙を探す。魔法攻撃で仕留めるにしろ、虚を突く形に持っていきたい。じゃないと、魔力を吸収されて、逆に相手を優位にしてしまう恐れが高いから。

 対するティナは歩みを止めて、その場で静かに剣先の狙いを私に合わせ続けている。


「サビアシースを仕留めてくれたのかしら」


「さぁ、どうでしょう」


「ふーん。悔しそうにしないってことは負けてはないのね」


 私は返さない。もう2度と会話で翻弄される愚を犯さない為に。


 今度の先手は私。私の向きに合わせていたティナの足が木の枝を折った瞬間に飛び出す。

 左から肩口への上段回し蹴り。過去最高の速さ。ティナは前に出るのを諦めて、私の脚に剣を合わせる。

 そのまま振り切る。

 ティナの細剣は折れ曲がり、火薬が爆発したような音を立ててティナが吹っ飛ぶ。


 脚を捨てる気での攻撃でしたが、私は無傷。かなり強くなっている自分が誇らしい。



「骨のあるヤツだ。どれ、次は俺だな」


 大男が剣を構えようとするのをアンジェが止める。


「おい、話し合いはいつ始まる」


「メリナ様は拳で語る派かな」


「殺気しか感じない」


 なんて会話が後方から聞こえる。


「ヨイショォオ!!」


 私は(うつぶ)せに倒れたティナの片足を持ち、背負う要領で後頭部から地面に叩き付ける。

 普通の攻撃に思えますが、今の私は超加速しているはず。

 更に、脱力したティナの体を投げて太い木の幹に当てる。


 まだ私は満足していません。

 次はお前だ的に、さっきから戦意を見せる大男に狙いを定める。


「ダン、手出し無用」


「あぁ。仕方がない」


 襲っては来ないか。

 しかし、ティナの立場は徹底的に悪くしておきましょう。


「知っていますか。ティナって神様だけど、異世界から来た神様なんですよ。皆さんの味方じゃないみたいです」


「えぇ!? 異世界って異空間と違うのかな!?」

「知ってる」


 予期していなかったフィンレーさんの大声で掻き消されそうになった上に、極めて冷たい返答を頂きました。


「昨晩、聞いた。ティナならば、さもありなんと思ったな。ガハハ」


「あの知見と行動は長く神をしていた証拠。納得感しかない」


 チィィイ!!

 ティナのヤツめ、私がバラすのを事前に読んでいやがったか!?


「えっ、でも、神界をグチャグチャにしてやるとか、この世界を奪ってやるとか、ホザいてましたよ」


「別にいい」

「たまには変化もないとな、ガハハ」


 くっ!

 案外、こいつら結構な仲良しじゃないですか!?


 そうこうしている内に、復活したティナが立ち上がる。


「ふぅ、結構効いたわね。メリナさん、これでおあいこで良いかしら?」


 っ!?

 私は目を大きく開いて怒りを見せる。

 わざと私の攻撃を受けたって訳ですか!?


「……ふざけんなっ!」


「ふざけてないわよ。ほら、思い出して。約束したでしょ。聖竜様は永遠の雄になったよ」


 ……ふむぅ。いや、違う!

 そんな約束は今は関係ないのです!!


「これで聖竜様と安心して結婚できるね。祝福してあげる」


「えっ……うん、はい……」


 ティナの笑顔は眩しくて思わず返事をしてしまいましたが、私は決して騙されない。


「メリナ、頑張れ」


 えっ!? 

 アンジェさんも応援してくれるんですか。

 全然会話したことがないのに、なんて良い人なのでしょう。

 違うっ! ダメっ! 前回もこれで痛い目にあったのです。

 頭をブンブン振ってから、私はティナに詰問する。


「雄化だなんて聖竜様は最初からできますから、永遠の雄化だなんて意味ないし、検証もできないし」


「そう? 貴女がそう思うならそれでも良いと思うよ」


「巫女殿、俺が保証するぞ。ティナは聖竜殿の性別を変えた。大魔法であったぞ。半精霊の古竜を相手であるからな」


 神様達の押しが強い。


「ダンは約束を違えたことはない。信じろ、メリナ。ティナの詠唱句は『万象を具現する我、ティナカレードナータヤが命ずる。惨たらしい矛を構え、そこに立つは波海の畔、雷霆の在り処。叫ぶ鱗屑は悍ましき壺の持ち手にて、虚しく怨まん。忌み、呪われ、果てよ、此岸の理。絶えてはいつか、彼岸の過世(すぐせ)。以上。分かるだろ?』


 分かりません。


「あはは。心配しなくて良いわよ。ほら、矛と壺が入ってるでしょ。それはアソコの隠語だし」


 まぁ、いやらしい!

 聖竜様の何が壺で矛になったって言うんですか!? 


「……忌み、呪われ、果てよ、とか言ってますけど?」


「それは理を潰してるのよ。もぉ、メリナさんは心配性だよね。さぁ、仲直りの握手をしよっか」


 出された右手。

 私は逡巡してから、その手を取りました。

 そして、そのまま握り潰そうと思いましたが、止める。


「では、やっと話し合いだな。フィンレーからは軽くしか聞いていないが、神界は混乱しているのだろうな、わはは」


 ダンって言う男は大笑いしている。筋肉質の体もあって、スラム街に住んでいるガルディスを思い出させます。


「説明するね。メリナ様はサビアシース様を破り、シルフォル様を消滅させたんだよ」


 フィンレーさんを見ていたティナ達3柱の神達が一斉に私を振り返る。


「やるじゃない。期待以上よ」

「人間か疑う。ってか、人間じゃいけない」

「ナベにもこれくらいの心意気が欲しいところだな」


 三者三様の褒め言葉っぽいのを頂きました。何となく褒められたと感じるのです。


「ということで、シルフォル派は他派からの草狩り場になってて、サビアシース様のとこは周りの迷惑を省みずに最強の座を争っていると思うかな」


 フィンレーさんは話を進めた。


「ふむ。では、まずは様子を見に行ってみるか」


「そうだね。神界はだいぶ時間が経っていると思うから、混乱も終わってるかも」


「油断は禁物。転移はダンにしてもらう」


「そうだな。俺に任せた方がいい」


 そう言うと、紫色に光る点が宙に浮き出て、それが規則正しく動いて線を描き、最終的に私達は紫に光る立方体の枠で囲まれました。


「では、行くぞ」


「ろくに話し合いをしなかった」


「アンジェ、ダメよ。メリナさんの知能的に、そんなのを期待できないもの」


 あ?

 さっきの握手は何だったのか。私はまたもやティナに怒りを覚えるのでした。

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