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神々との会話

 ベセリンは私を隣の机へと案内しました。先に来ていた者共との同席にしなかったのは、私が彼らに友好的な態度を示していないと察した為でしょう。有能な男です。


「あー、メリナ様! お帰りなさい」


「あー、はい」


 フィンレーさんが良い笑顔で出迎えてくれまして、とりあえず返します。


 状況を見極める必要がある。何故にフィンレーさんはティナ達と一緒に居るのか。



「あっ、お姉さん、また会ったね」


 カレンちゃん! 大男のダンの体に隠れて見えてなかったけど、幼い彼女が普通にお食事してる!!

 挑発のために聖竜様が獣化させたとか言っていたけど、無事だったのですか。

 ふむ……。聖竜様はティナ達を懲らしめるという目的を達成し、カレンちゃんを秘術で元の人間の姿に戻してあげたのでしょう。


「きれいな服を買ってもらったんだね。可愛いよ」


 カレンちゃんの服が若草色の軽装に変わっていたので褒めます。


「ティナがくれたんだよ」


「そうなんだね。じゃあ、大丈夫かな? 心が闇に支配されそうな感じしない? お姉さんは心配だなぁ」


「えっ。そんなことないよ。羽根もないのに空を飛べたり出来るんだよ」


「まぁ、怖い。命を削って飛ぶ呪いの服かも。破り捨てた方が良いかな」


「何言ってくれてるのよ。冗談が過ぎるわ。カレンもビックリしているじゃない」


 チッ。お前が馴れ馴れしく私に話し掛けるんじゃない。


「どれ、巫女殿、こっちで一緒に食べないか? 喋れば誤解も解けよう」


 大男が誘ってきたが、そもそも誤解も何も、私はティナの騙し討ちで真っ黒焦げにされたのです。恨みで私の心は一杯です。


「フィンレーさん、ちょっとお外に来て貰えます?」


「うん、分かったよ」


 私は呑気な神をロビーへと連れ出す。ベセリン爺がお茶を持ってきてくれたのに立ち上がったのは、ちょっと反省です。



「……お前、どういうつもりであいつらに接近した!?」


 声を圧し殺しながら、私はフィンレーを威圧します。


「暇だったから街を散歩してたんだよね。で、道を訊かれたんだけど、それがあの方達」


「それ絶対にフィンレーさんが神だって分かって声を掛けて来てるでしょ!」


「そうなのかな。じゃあ、あの方達がアンジェディーナ様とダンシュリード様とティナ様? うまく力を隠しているんだねぇ。私には分からないかも」


「惚けるんじゃありません!」


 フィンレーさんがかなりの実力者だと私は薄々気付いています。こいつは絶対に分かって行動している!


「だって、味方は増やしておかないと大変かもって思ったんだよね。何なら、アンジェディーナ様派に入れてもらいたいくらいかも」


「……お、お前!?」


「お料理が冷めるといけないから、メリナ様、行こっか」


 グッ! フィンレーのヤツめ、私と3柱の神を秤に掛けて、あっちを選ぼうとしてやがるな! なんて屈辱!

 あっ、屈辱!? 思い出した! ナベ!

 ナベのクソ野郎が焦げて動けなかった私に嬲る言葉を発したんです! さっき、カレンちゃんに注目した時に隣に座っていやがりました!


 フィンレーさんが食堂に戻ろうと扉を開けた瞬間、その隙間から私は高速移動で中へと向かう。ナベを瞬殺する為に。


 しかし、既にヤツは消えておりました。



「食事を終えたからナベとカレンは宿に帰した」


 いくら見ても異質な服の少女アンジェが告げる。カレンちゃんの席だった所に食べ掛けのお肉が皿の上に残されていると言うのに。

 チッ。逃がしたのか。


「メリナ様、まずは話し合いかな、話し合い」


 フィンレーめ、自分勝手なことばかり言いやがって……。


「そうだな。席も空いた。こっちに来ないか」


「結構です」


 私は湯気を上げるカップを口にやり、ズズッと啜る。うん、頭がすっきりする。美味しい。


「聖竜様のお赦しを頂けたのですか?」


 私は切り替えて優しく尋ねる。


「赦し? 赦しを与えたのはこっち」


 は? 見た目が子供でも容赦なく喉を両手で締め上げるぞ。その低い背だと私が持ち上げれば足が付くこともあるまい。


「まぁ、アンジェ、ここは俺に任せろ。巫女殿が信仰する聖竜殿を軽んじてはいけないだろう」


「ふむ。一理ある」


 えっらそう!


「でも、元気そうで良かったわ」


 貴様っ!! ティナの声は私を逆撫でる。


「あんな不意打ちで勝ったつもりでいやがるんですか!?」


 思わず出た大声でしたが、皿を持って向かってくるベセリン爺が驚いてなくて良かった。


「よく聞いて。メリナさんが元気であることを祝福したのよ。私達の勝敗なんて聞いてないでしょ」


 くぅ、減らず口を!!

 私は爺が置いた鳥肉を手に持って食い千切り、モグモグしながらティナを睨む。

 もう睨み続けて血走っているかもしれない。


「フィンレーとやら、で、話はいつ始まるのだろうか」


「メリナ様が思っていた以上に落ち着いてくれているんで、今から移動しよっかな。うん、私が皆を転移魔法で案内するよ」


 これで落ち着いてるとか、お前はどんな私を想像したんですか……。

 フィンレーさんの転移魔法は、マイアさんのものよりも洗練されていて、気付かないままに私は別の空間へと移動させられていました。

 なんと私が座っていた椅子や机、その上のお料理まで一緒です。


「どこだ、ここ?」


 焼けた小屋と畑には見覚えがある。


「アンジェディーナ様、私の領域空間だよ」


「ひどく燃え落ちているな」


「メリナ様にやられたんだよね。寝惚けてたとかホントかな」


「あはは、メリナさん、滅茶苦茶ね。寝惚け――ガッ!!」


 私の拳が隙だらけのティナの側頭部を直撃する。残念ながら頭が爆散しなかったが、ヤツは地面に沈みます。

 ふん。ここなら本気を出せる。シャールで大暴れしたら、アデリーナ様に大目玉ですからね。


「寝惚けてんのはティナさんじゃありませんかね? うふふ、私があのまま許すとでも思ってたのなら、おめでた過ぎです」


 喋り終えてすぐに、大男の剣が私の頬を(かす)る。移動していなければ、私の頭部が破壊されていた軌道です。


「おぉ、これを躱すとは! メリナと言ったな、お前は才能があるぞ」


 うっさい。


「ダン、手出しはダメよ。それは私のなんだから」


 顔に付いた土を払いながらティナがゆっくりと立ち上がり、私に細い剣を向けるのでした。


「おい、これが落ち着いているのか?」


「メリナ様的には、かなりマイルドかな」


 フィンレーさんとアンジェの会話は無視して、私も戦闘モードに入ります。

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