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終戦へ

 私は神殿に戻って参りました。

 フィンレーさんの転移魔法です。彼女は転げ回るガランガドーさんの頭を鷲掴みにして、その記憶を読み、シャールの位置を把握したようです。

 私ども人間が住んでいる地の界というところは非常に広大で神様でも全域を把握している者はいないんじゃないかな、とか言っていました。

 どうでも良いことなので聞き流します。


 しかし、フィンレーさんも神様なんだと実感する出来事です。ガランガドーさんの額よりも小さな掌だったのに、片手で彼の動きを完全に止めるんですから。怪力ですね。


 さて、頭上には夕方が近付いて赤みを帯びつつありますが、晴れ晴れとした空。目の前は清浄な水を湛える池で、足下は刈り込まれた青々とした芝生。

 私はシャールの竜神殿に戻ってきたのです。

 


『ぐおぉ、主よ。早く回復魔法を……』


 苦悶に喘ぐガランガドーさん。こいつは初めて会った時よりも退化してるんじゃないかな。

 とは言え、お疲れ様です。感謝の念を込めて、彼の黒い尾を復活させます。


『ふぅ。死ぬかと思った』


 精霊は死なないとか(うそぶ)いていたくせに。


『では、主よ。我は経営企画部の連中に挨拶をして参るぞ』


「はいはい、ご自由に」


 ガランガドーさんに乗って池を一周するアトラクションがお金持ちの子供に人気で、それを所轄する部署の巫女さんとも仲良しだったのを覚えています。

 どんな者にも活躍の場というものはあるのですね。



「めりゅにゃ、どぉしちぇこっちにしたにょ?」


 今はミミちゃん姿の邪神が訊いてくる。


「こっち?」


「きゃみしゃまとたたきゃわにゃい?」


 あー、ティナに再戦を申し込むために聖竜様の巣に転移した方が良かったのではと言っているのですね。


「聖竜様は最強ですから、ティナ如き、けちゃんけちょんですよ。ボロ切れになって死滅するでしょう。侵入者の排除に失敗し、聖竜様のお手をお借りすることになったことは大変反省しています」


「しょっかぁ」


「はい」


 私は笑顔で答える。


「しょっかぁ。じゃあ、わちゃしもきゃえりゅー」


「お疲れ様でした」


「おちゅかりぇ」


 邪神はすぐに体を魔力の粒子に変えて消えてしまいました。剣王の下へと急いだのでしょう。邪神が残した魔力を回収しつつ、自分の肉体を崩壊させる術まで覚えたのかと邪神の成長に感心しました。

 そもそも、あいつは四天王とかいう武闘派の神の1匹とも互角にやり合っていたようです。かなりの実力者なのでしょう。

 私と会う前のガランガドーさんは邪神と長く争っていたと聞いたことがありますが、今はもう凄く差を付けられていて、何だか不憫だなぁ。



「あらあら、メリナさん。お忙しいのかしら」


 クッ、精霊どもなんかに気を遣ってやったから接近に気付いていませんでした。


「巫女長、どうされましたか?」


 意表を突かれても慣れたものです。私は平然と丁寧なご挨拶を返します。


「いえね、ほら、魔物駆除殲滅部の方々が誰も居なくて、どうしたのかしらと思ったのよ。お忙しかったの?」


 優しい笑顔で質問してくる巫女長なのですが、その裏に隠された思いは全く読めません。

 ここは正直ベースの返答が正解と見ました。


「はい。聖竜様を襲おうとした不埒者達が居まして、その迎撃に出ておりました。残念ながら私では止めることは出来なかったのですが……」


「まぁ! メリナさんでも?」


 あれ? 巫女長が本気で驚いた?


「はい」


「そんな強い相手なら、アデリーナさんやルッカさん、フロンさんはズタズタに殺されたのかしら」


「いえ、彼女らは無事……あっ、でも、分からないですね。私、負けた後に別の所へ転送されまして、今、戻ってきたばかりなんです」


「そうなの? メリナさんが何だか神々しく見えたりするのだけど、でも、それは大変ね。聖竜様はメリナさんが死んでると思ってるかもしれないわ。うん、こうしちゃいられないわ」


 巫女長は踵を返します。私は酷い目に合う前に解放されそうです。嬉しいです。


「どこに行かれるのですか?」


「薬師処よ。フランジェスカさんに頼んでメリナさんの無事を聖竜様にお伝えしなくちゃ。フランジェスカさんに頼むのはとっても悔しいけど。メリナさんも来られる?」


「いえ、大丈夫です。こちらの新しい友人を案内しないといけませんので」


 私は横に立つ神を示します。


「初めまして、フィンレーだよー。よろしく」


「まぁ、変わった感じの方ね。私も案内したいところだわ。ほら、メリナさんが知らない神殿の秘密の場所とか、色々と知ってるもの」


 チッ! 巫女長が戻ってくる!? 私は余計なことを口走ってしまったか!?


「でも、急がなくちゃ。メリナさんは聖竜様のお気に入りだから、きっと心配してると思うの。今日はごめんなさい」


 おぉ!? 今のは2重に嬉しい話です!!

 巫女長は去るし、第3者から私が聖竜様のお気に入りだなんて評されていることが分かったのですから!!


 去っていく巫女長の特別な服の金刺繍が夕日に煌めくのを見ながら、感慨に耽ります。



「メリナ様、私はどうしたら良いのかな?」


「神様だから自分で考えましょう。神界に帰るのが一番では?」


「メリナ様と一緒じゃないとフィンレーは大変なことになる予感」


「じゃあ、今日だけでも私の宿に来ます?」


「行く、行く! 地の界に居ても、いつ奇襲を受けるか分からないもんね。竜王メリナ様から離れませんよ」


 という訳で、私は宿に帰りました。



「メリナ様、お帰りなさいませ」


 ショーメ先生が頭を下げて迎えてくれました。


「両親の墓参りとか言ってませんでした?」


 忘れてませんよ。こいつはティナ達を迎え撃たずに、逃亡してやがったのです。


「よくよく考えたら、私の両親の墓なんて残っていませんから戻ってきました」


 ……こいつ……。

 しかし、ショーメ先生が戻ってきているのは吉報かもしれない。フロンが死相が見える能力を持っているように、ショーメ先生も危機察知能力が高い気がする。

 ティナ達が聖竜様に駆逐された可能性が高いですね。


 ホッとした私は湯浴みをしてから自室へ戻るのでした。

◯メリナ新日記18日目

 ベッドの中でくつろいでいたのに、フロンが訪問して来やがりました。

 聖竜様が負けただなんてジョークを吐いたので、こちらも冗談で軽く殴ったら、フロンの体が宿の壁を突き抜けてしまいました。

 魔族らしいブラックジョークだと分かっていたけど、私の心の中では許せなかったんだと思います。

 ショーメ先生、修繕をよろしくお願いします。代金はフロン持ちです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 天上界編お疲れさまでした! 大魔王の生誕が蘇生魔法絡みのシルフォルの後始末だったとはねぇ。 [気になる点] 神は世界と繋がっているから不朽普遍という定義であれば、シルフォルの寿命を断ち切っ…
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