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最強の証明

 シルフォルはいる。そんな気配を魔力じゃないけど感じる。でも、見えない。

 姿を消すのはショーメ先生も可能。特別なことじゃない。

 再出現する際の魔力ブレを感知して、そこを狙うか。


 私の目に写っているのは満天の星空。敵が居なければ、いつまでも見ていたいくらいの光景でした。

 私はサビアシースを背にして立っている。あいつはもう私への戦意を失っているから。その巨体は壁として利用させてもらう。



『あたしに勝ったんだから、シルフォルもぶちのめせよ、メリナ』


 うるさいですね。



『主よ! 我に乗るが良い!』


 ガランガドーさんが珍しくヤル気満々です。声に焦りがあるから何かを察知したか。


『従った方が良いわよぉ。シルフォルは上空から遠距離攻撃を選んだみたいぃ』


 消えたんじゃないのか。夜空の中に自分の姿を消しただけか。

 魔力感知に優れた精霊たちのアドバイスは有難い。


 私はガランガドーさんの背に飛び乗る。


『主よ、間に合わぬかもしれぬ……』


 私が跨るのを待たずに、そう呟いたガランガドーさんは飛び立とうとしました。

 何が?と訊く前に私もやっと異変を察した。周りが急激に明るくなったのです。目が焼けそう。


 天空から大きな魔力の塊が降ってくる。

 その危機感をトリガーに、私はまたしても時間が止まったような意識状態に入る。フィンレーさんの魔法の効果でしょうか。


 見上げると、真上の空の半分以上を占める範囲が真っ白に輝いていた。何? 照明魔法的なもの?


 ガランガドーさんの後ろ足はまだ地に付いている段階で、大きく羽ばたこうとしている姿勢で固まっている。


『シルフォルの魔法、断罪の白夜だぜ。広範囲魔法の一種で、あれに包まれた物は全て蒸発するって代物だわ。さぁ、メリナ、どうするか見せてみろよ』


 サビアシースの言葉が聞こえた。今の私は高速思考のはずなのに、それに合わせてヤツも高速思考してきたのだろうか。感心する程の技量。ヤツも神の端くれってことですね。


 助けてくれようとしたガランガドーさんには悪いですが、このまま地上に近いところで留まるのは愚策。1度を凌いでも、シルフォルは手を変え品を変えて高速の遠距離魔法で攻撃してくることでしょう。

 

 空中に魔力ブロックを足場として作り、次々に飛び移って、天空へと向かう。


 そして、驚愕する。

 サビアシースは確かに広範囲魔法と言いましたが、その規模は私の常識を上回っていました。

 今は山のようなサビアシースの巨体さえも豆粒に見える高度。この空間に雲があったなら、それよりも遥かに高い場所だと思います。

 濃厚で強烈な魔力の塊は広大な頭上全体に広がっていました。それが私の高速移動中にも徐々に降下していて、今更、いえ、最初から逃げようとしても不可能な程のサイズだったのです。


「死になさい」


 シルフォルの声が聞こえた。


「舐めるなっ!!」


 私は叫んで、体内から出した槍状の黒い魔力を魔力の塊に打ち込む。飲まれて一呼吸くらいで消失したのが分かる。


「無駄よ。魔力変換しているもの。全ての魔力が私の物に変わるの。ごめんなさい、どんな抵抗も無駄なの」


 チッ。

 サビアシース、私の意識を読めますか?

 ガランガドー、邪神でも構わない答えなさい。

 後ろ2匹はたぶん、今の高速思考に付いて来れてないからの返事は期待できないと思う。これが神の領域なんでしょう。

 フィンレーさんの魔法、凄く助かってます。これを掛けて貰えていなかったら、シルフォルの白夜の断罪とかで一瞬で消されていたと思う。


 再度の竜化を行なって、突っ切るか?

 いや、それは賭けですね。羽根を潰されたら墜落してしまう。


 サビアシースの返答は有りませんでした。つまり、今も私の意識は神に読まれては無さそう。恐らくシルフォルにも。


「怯えて良いのよ?」


「フン。ほざいてなさい」


 覚悟を決める。

 シルフォルの魔法に飲まれても、私の魔力が完全に消失するまでにタイムラグが有りました。それを利用しましょう。


 私は両足で足場の魔力ブロックを蹴り跳ねて、頭から魔力の塊へ勢い良く突っ込む。


「あははは。気でも狂ったの? さようなら」


 シルフォルの楽しそうな声が耳に障る。

 先程まで一緒に仕事をしようとか調子の良いことを言っていたことをお忘れのようです。嘘を平気で吐くヤツなんでしょう。これではフィンレーさんの処遇、いえ、存在自体が怪しいですね。

 殺してやる。



「っ!? どうやって抜けたの!!」


 驚くシルフォルの顔に私は拳を叩き込む。

 仕掛けは簡単。私は魔力を纏って突入し、消えた分を体内から放出して補充し魔力の塊をやり過ごしただけ。


「教えてやる必要はないですよ」


 宙に浮いていたシルフォルは体勢を崩して少し落下するものの、持ち直す。


「私は地母シルフォルフォンヌ! 秩序を尊び、慈愛を持って人を導く存在なのよ!」


 知るか。私の目の前に漆黒の魔力の球が現れる。表面から溢れて迸る魔力が炎の様に舞って球に戻る。

 もちろん、これは私が出したものです。


「クッ!?」


 シルフォルの転移を私は魔力操作で封じる。殴打によるダメージか、広範囲魔法で魔力を使い過ぎたのか、私が対処できるレベルだったので。


「死ね」


 それを合図に黒球がシルフォルを猛烈な速度で襲い、眼下に広がる輝く魔力の雲に大穴を開けて、地面に突き刺さる。


 私の魔力の球は普通に断罪の白夜とかを切り裂いていましたね。遠距離攻撃の連打でも打ち勝っていたかもしれませんが、良しとしましょうか。

 殴った方が気分が晴れやかになるし。

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