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シルフォルからの交渉

 シルフォルが目の前にやって来てくれた。火に入る夏の虫だと思う。しかし、このモヤモヤ感は何でしょう。

 シルフォルは私を攻撃してこない。ならば、戦う前に訊いておいた方が良い。


「フィンレーさんはお前が化けていた存在だったのですか?」


「お前だなんて弁えることを知らないのね。でも、まぁ、私は導く存在。尋ねられたら教えない訳にはいかないわ。フィンレーはサビアシースの一撃でご自宅に戻ったわよ」


 良かった。あの愉快なフィンレーさんが幻想でなくて。しかも死んでない。また会えます。


「私の威厳を潰しておいて平気な顔をしてるのね。死が怖くないの?」


「前は後れを取りましたが、今回は勝ちます」


 私の返答にシルフォルは柔らかい笑顔のままで反応しない。


「……まぁ、五分五分ってとこね。分かったわ」


『あたしを脅したばっかって覚えてネーのかよ? あたしがそいつの側に付いたら、テメーに勝ち目はネーな』


「それを含んで五分五分よ」


『アン?』


 戦う前に勝てる確率を計算するとか愚か過ぎ。勝てなきゃ逃げるつもりなのか?

 お母さんの指導だったら、半殺し、いえ、瀕死状態にまで折檻されますよ。


「一戦の勝敗なんて小さいものよ。どちらが勝ったにしろ、私の配下と竜の戦いは続く。その長きに渡る戦いの結末が、私の望む形になるかどうか五分五分なの」


 ……未来予知か……。


「ただ、今の展開は私は予測出来ていなかった」


 シルフォルは私を見据えている。攻撃してくる気配はなくて、どちらかと言うと私を警戒している?


『そのご自慢の予測もよく外してるだろーが』


 そうなんですね。それは恥ずかしい。


「それはサビアシース、貴女が掻き乱すからでしょ。他の方は私の予測に従って動いてくれるし、何かがあっても修正できるもの」


『どう言い訳しても使い道にならねー能力だろ』


 まぁ、そうですよね。


『んで、メリナをどーすんだよ?』


 サビアシースの言葉を受けて、私はシルフォルに向けて拳を構える。


「うちの若い子が引退したいって申し入れしてきているの。で、その子が後任に推薦しているのが彼女。つまり、私が仲間として引き取るわ」


 は?


「彼と同じく私も面白いと評価しているし、話し合えば分かってくれると思うのよね。ねぇ、メリナさん?」


 は?


『あはは! それは良くねーな! メリナは私を打ち倒したんだぜ。テメーにくれてやるくらいなら、竜王の地位を禅譲してやるぜ!!』


 は?


 シルフォルはサビアシースをチラリと見る。それから、私に視線を戻す。


「取り合いになったわ。メリナさんはどちらを選ぶ?」


「いや、選ぶとかないです。とりあえず、お前を殴り飛ばしたいと考えてます。ガランガドーさんも尾を切られましたし」


『しかし、主よ……ここらが引き際であるぞ』


 んな訳ないでしょ。シルフォルの本拠地でシルフォルだけがここにいる。追い詰めている証拠です。

 蘇生魔法を使った秘密を知られたくないから、部下を呼ぶこともない。叩き潰すなら今が最大の機会なんです!



「……フィンレーさんは厳罰になりますか?」


「しないわよ。彼女も優秀でね、貴重なのよ」


「本人は常々下っ端だってボヤいていました」


「えぇ。それは事実なの。神になってから1000年は様子を見る規則があって。と言うのも、長い時間に耐えられなくて精神を壊したり、快楽に溺れたりする者が出てくるのよ。そうならない者かを確認する為の1000年」


 シルフォルの返答は澱みがない。


「新しく神界を訪れた者を自派閥に勧誘するだけの仕事とかおかしくないですか?」


「そう? フィンレーは出会ってすぐに翻訳魔法を掛けて、貴女が神界でコミュニケーションに困らないようにしてるわよ」


 えっ、そうなの?


「それに、サビアシースから攻撃を受けた際にも、貴女に防御魔法と思考加速の魔法を使ったのよ。十分、優秀じゃない?」


 自分を捨てて私を助けてくれたと言うのですか? フィンレーさん、マジで有能で良い方じゃないですか。


「約束しましょう。フィンレーに罰は与えない。だから、メリナさん、私と一緒に働きません?」


 私は考える。


「本当にフィンレーさんに手出しはしない?」


「えぇ。私の派閥の者に伝えるから」


(たが)えたら?」


『あたしが証人になってやるぜ』


 ふむぅ。サビアシースと敵対することはシルフォルも避けそうですね。


「うん、分かりました。それじゃ、心置きなくお前をぶちのめすことが出来そうですね」


『主よ!』

『こうなると思ったわぁ』


「復活してもフィンレーさんに手出ししてはいけませんよ」


「あら? どうして私に逆らうの? 貴女には都合の良い条件しか言ってないのに」


 私は魔力を高めつつ、答える。


「2000年前に聖竜様とかマイアさんとかフォビとかを騙してるヤツの言葉なんか信じませんよ。大魔王なんて、お前1人で余裕で討伐できたはずなのに、マイアさんは異空間に封じられ、聖竜様の仲間のカレンは殺された。ヤナンカやブラナンも無駄に苦しんだみたいだし。お前は悪です。私は騙されません」


 瞬間、私の胸を白い光線が走る。

 それを素早く躱して、私はシルフォルに突撃をする。

 拳は空を切った。

 敵は空に逃げたようでして、私はキッと睨み付ける。

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[一言] >「うん、分かりました。それじゃ、心置きなくお前をぶちのめすことが出来そうですね」 メリナのこういう狂犬なところが好き
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