裁き
瞬時で判断。四天王という名は罠で実は5人目がいないか確認しましたが、そんなことはなかった。
床と夜空しかない場所。そんな所で、階段から出た私達を遥か遠くから囲んでいます。見えないのに存在だけは感じさせる不可思議な存在。
正面も背後も左右も私達に逃げ道はなく、さっきまで昇っていた階段もいつの間にか消えて床になっています。
「……メリナ様、私は戦力に入れないで欲しいかな」
「了解です」
強さは読めない。魔力感知の範囲外だけというのもありますが、そもそも神達はティナ達の例の様に自分の魔力を秘匿することができるだろうから。
『よくも怯まず、ここまで――』
何か喋りだした。
「フィンレーさん、相手の情報」
「うん。四天王は東西南北を守ってるって設定で、今、喋ってるのは正面の東を守るシュラーザイック様、雷撃魔法と剣技が自慢の武闘派。その横は北を守るゲンガマリュベ様、様々な幻想魔法で翻弄した挙げ句に棍棒で相手を叩きのめす巨漢の武闘派。更に、その横、私達の背後にいるのが、無尽の魔力を基にして強烈な数多の魔法を駆使する西を守るビムフォイットノー様でインテリ系武闘派。最後は、南方を守るアーヤジャンシア様。魅了魔法で奴隷化した多くの部下を引き連れ、物量で圧倒する女王様系武闘派」
全部、武闘派ってことだけ分かった。
『大罪を認めよ、フィンレー』
『最後まで喋らせてやったにも関わらず』
『謝罪がないとは驚きである』
『そこの無礼なる者と共に永劫を彷徨え』
四方から順番に声が響く。
『裁きを始める』
勝手なことを。裁くのはこちらですよ。
『燃え尽きよ』
背後から爆炎。全く礼儀を知らないヤツですね。
私は氷の壁を構築。それを回り込み、また、上を超えて溢れる炎を私は片手をかざして吸収します。
ティナは魔力の吸収を避けて魔法攻撃を仕掛けて来なかったというのに、なんとお粗末な相手なんでしょう。
「メリナ様、凄い……」
「序の口です。フィンレーさんが喋っている間に魔力を十分に練れました。最速で終わらせてやります」
「頼りになるー。やっちゃえー」
えぇ。とは言え、戦闘体勢を整えた4柱もの神に勝てるのか?
一気に魔力を放出して、私好みの環境に変える。質的に慣れ親しんだ魔力の方が動きやすいんです。言うならば、水を得た魚のように。
「ぐっはー。邪悪な魔力が物凄いー。濃すぎて息が詰まりそう」
邪悪って……。フィンレーさんも守ってあげているのですよ。
ほら、現に前後から来た雷撃がここまで届かずに消えたじゃないですか。
「うっは。魔法の減衰効果? すご、神雷を防いじゃったよ」
相手の魔力と打ち消しあっているだけです。そんな大したものではない。
次いで、飛んできた円形のでっかい刃物の軌道を一蹴りで変える。アデリーナ様の豪華な馬車さえ切断できそうな大きさでしたが、特に難なくでした。
「出でよ、邪神!」
「うわぁ、平凡な召喚句! なのに、本当に禍々しいの出たー」
顔がない、白と黒のチェック模様の巨竜。先日、子供を産んだばかりの邪神。まだお祝いしていないのに酷使してすみません。
「もぉ、乱暴ねぇ。私で勝てるか分からないわよぉ」
と言いつつも、私の右サイドへと移動します。彼女が動いた後は床が腐食して煙みたいなものが立ち上っていました。ヤル気満々な証拠ですね。
火の玉と岩と水の塊が邪神を襲うべく、猛烈なスピードで襲ってきましたが、それを一回の咆哮で打ち消す。そして、翼を羽ばたかせたと思いきや、逆に敵へ突進していきます。
「メリナ様、反対側」
分かっています。そちらからは雑魚の群れがやって来ているのですね。
「死を運ぶ者よ、この世への顕現を許す」
「ちょっと捻った! 反省してちょっと改善した召喚句っぽいセリフだー! でも、まだショボいー」
黒き竜が空からゆっくりと舞い降りる。
『主よ、命じるが良い』
「砲台の如くブレスを打ち込み続けなさい」
『承知したのである!』
ガランガドーさんが空へと戻り、長い首を反らして溜めてから一気に暴力的な炎を大きく開けた歯牙の間から放出します。
降りてきたのに、また浮き上がるとか無駄過ぎでしょとか思ってしまいましたが、ガランガドーさんもそれなりに強い竜なので、彼の炎は敵の多くを蒸発させるのでした。
しかし、まだ燃え盛る火の海へ、無事だった敵の後続の群れは恐れることなく突き進む。火が自分に移っても倒れるまで前進をし、そして、倒れた仲間を一顧だにせず、火と諸とも踏み荒らして突撃してきます。それも、そっち方面の全てを埋め尽くすかのような数がです。
「ガランガドーさん、気合いですよ、気合い」
『おうよ!』
そうは答えて貰いましたが、あの進攻速度と数からして長期戦は不利か。
「しかし、遠距離攻撃ばかりとはビビりばかりですね」
「メリナ様との近接戦闘を避けた……? 勝てるの? ……ううん、こっちもまともな攻撃はできてない」
ふむ。フィンレーさんの指摘通りか。
突撃した邪神も最初の攻撃を防がれ、上空からのブレス攻撃に変えたみたいですね。ガランガドーさんも休みなく炎を吐いていますが、早々に息切れ気味だし。
「メリナ様、前後から挟み込まれそう」
「ですね」
「じりじり負けていく雰囲気が私の胸を締め付ける」
邪神は健闘して相手の足を止めていると判断しましょう。ガランガドーさんも頑張っています。でも、彼らは勝てない。
『降伏するが良い』
『竜を従える者よ、我らの時を無駄にするでない』
『罪が増えようぞ』
ふん。しかし、やはり邪神の相手をしている者は語る余裕がなかったみたいですね。
「ククク」
思わず笑みが溢れてしまいました。
「メリナ様……?」
「私が何もせずに居たと思いますか。魔力は完全に十分に練れましたよ。上を見てください」
「真っ黒……。メリナ様の出した邪悪な魔力しかない。えっ!?」
そう。私が最初に放出した魔力は目眩まし。優れた魔力感知を持つフィンレーさんがこれだけ近いのに気付いていなかったのですから、遠くにいる四天王とやらは尚更だったかもしれませんね。邪魔されませんでしたもの。
「我が意思に応え、雷鳴を震わせ顕れる其は母なる母竜。いざ見参!」
それはガランガドーさんの頭よりも上に出現しました。
「頑張ったー。頑張った詠唱っぽいのだけど、やっぱりいまいちー。母がダブってるしー。ってか、言う必要ないよね?」
「窮地にあっても遊び心は大切かな、と」
あと、いまいちって蔑んだ事は忘れないですよ、フィンレーさん。
ティナとの一戦で私も学習しています。私が単騎で武に自信のある神に立ち向かっても反撃に合うかもしれない。なので、味方を増やすのです。
『メリナッ!! てめー、あたしの体を傷付けておいてふざけんなよ!!』
さて、こっちの相手をしてやりますか。
怪我は癒されているようで安心しました。半壊してたから死んでるかもとか心配しましたよ、聖母竜様。
『テンメー!! なめんなよ!! 殺してや――グッ!? イテーじゃネーか……』
とても大きな体ですので、私の魔力の霧の外にある部分を四天王の誰かが攻撃したのでしょうか。大丈夫ですか?
『四天王だァ!? アァ!? どいつだ、ゴラァッ!? 出て来やがれ!』
小山よりも大きな巨体なのに素早い動き。周りを浮遊する私の魔力の粒子が吹き飛ばされそうになりました。
「な、何ですか、あの竜は……」
「サビアシースです」
「えっ!? 聖竜様!?」
「聞いてました? メチャクチャにチンピラ風ですよ。一切、聖の要素がないです。私がお仕えする聖竜様が本当の聖竜様です」
「でも……メリナ様にも聖の要素がない……」
「あはは、まさか」
「だって、使役する竜、全部、邪悪な感じ……」
あー、それは私のせいじゃない。勝手に守護精霊になってるだけだもん。




