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そのまま連れて行って

 すっきりとした顔のフィンレーさんは率先して階段を上られました。覚悟が決まった人、カッコいい。田舎者っぽい三つ編みも踊っていますね。


 お城の通路みたいな場所に出ました。磨かれた床は日光をよく反射していて、とても明るい。

 窓と反対側は細かく部屋が並んでいて、たまに廊下で擦れ違う人――いや、これも神様なんでしょう――が書類を抱えて入っていきます。王城の役人みたい。


「しかし、フィンレーさんはロビーで出会った者達を全部把握していたんですか?」


 誰かにチクるために、食堂で彼女が呟いていたことを指摘します。


「聖女だった時からの特技。色んな人に出会うから慣れたんだよね。魔力の質を覚えてるだけだよ。メリナ様もできるよね」


 私の場合、名前を記憶しておくのが厳しいなぁ。


「氷の乙女神とか2つ名も言ってましたが、フィンレーさんも持ってるんですか?」


「ないよ。下っ端だから」


「えー。じゃあ、私が考えますね」


「要らないかな。メリナ様、メチャクチャだから。反対に私がメリナ様の2つ名を考えるね。えーと、竜を喰らう狂犬」


「……誹謗中傷で訴えますよ、拳で」


「その反応は地の界でも呼ばれていた感じかな。じゃあ、狂い神メリナ――ううん、のんびり竜さんの守り手メリナ」


 途中で私の殺気をまずいと思ったのでしょう。フィンレーさんは言い換えました。

 でも、うん、言い直した2つ名に関してはちょっと気に入りました。聖竜様は意外にのんびり屋さんですもの。


「守り手ってのが違和感あります。私は守られる側でありたいし」


「メリナ様を守らないといけない状況なんて、想像を絶する相手しかいないじゃないかな。って、えっ、目が怖いんだけど……。はい、のんびり竜さんのお気に入りメリナ、これでどうかな」


「パーフェクト。フィンレーさんは私をよく理解してくれています」


「えへへ。本心から誉められたのはいつ振りかなぁ」


 笑顔で悲しいことを言わないように。



「しかし、神ってのは腰抜けばかりなんですか? 誰も私を止めようとしないばかりか、挨拶まで普通にしてきますよ」


「ロビーや食堂の騒ぎを感知している方もいるかなぁ。でも、この人事系フロアは食堂の層からは遠いから気付いてない方も多いかも」


「層?」


「層は建物のフロアみたいなもので、さっきの階段を上る時に行き先を口に出したら、その層に転移されるんだ」


「食堂は? 私、呟いてませんでしたよ」


「うん。だから、ロビーの次の層である食堂に着いたんだよ」


 ふーん。

 このお城は天をぶち抜くくらいの高さに見えて不便だろうと感じていましたが、転移魔法で移動するのであれば解消されます。


「どこに向かってるんですか?」


「新参者の振り分けをする係に引き継ぎだよ。引き継いでくれるか凄く不安。誰も騒ぎを知りませんように」


 フィンレーさんはここに至ってもまだ逃げようとしています。食堂で私と一蓮托生になったことをお忘れなのでしょうか。


「……そろそろシルフォルが動いて来ますよ」


「……だよね」


 それでも平気な顔なのは神様だからか。

 無言になって歩くフィンレーさんが一つの扉の前で止まる。



「新参者を連れてきましたよぉ」


 にこやかな声を上げながらで扉を開けます。


「あいよ。登録はしておいたから、そのまま連れて行って」


 中には5名程の神様が机に向かっていて、こちらには顔を向けずにその内の誰かがそう返しました。私達はまだ室内に踏み込んでいないのに。


「私の務めはここまでだと思うかな」


 フィンレーさんが控えめに反論しました。


「四天王がお待ちなんだって」


「えー、何それ? 分かんないんだけど」


「お怒りでしたよ」


「何に怒ってるんだろう、あはは」


「笑っちゃうよね、ロビーから通知が来てたよ。あと、今までありがとう。2度と会えないので、さようなら」


「あれ? あはは……」


 言葉を失うフィンレーさんの前で扉が勝手に閉まりました。



「四天王って誰ですか?」


「やっばー。え? 何? ちょっと他の神様を2、30ぶっ飛ばしただけなのに! えっ、四天王? やばくない?」


 私の質問には答えず、フィンレーさんは頭を抱えてしゃがむ。


「それを倒したら、シルフォルに近付けるんですかね?」


「メリナ様は勝つ気なの……?」


 下から縋るようなフィンレーさんの目。


「無論です」


「……四天王はシルフォル様直属の戦闘特化の神様。名前の通りに4名で、一人一人が地の界の大陸を火の海にすることができる実力を持ってる」


「それくらいガランガドーさんでも可能ですよ。大したことないですね」


 ただの廊下だったのに、ぐにゃりと風景が歪み、やがて私達の四方は全て上へと向かう階段に変わりました。


「上に来いって呼ばれてますね」


「……拘束されて拷問されるのかな……永遠に……」


「さぁ、考えても無駄ですから行きましょう」


「うん……。そうだね、無駄だね。悔しいから、腕の1本くらい呪いで封印してやろっと」


 私達は階段に足を運ぶ。一段一段上がる度に、視野は暗くなっていき、最上段に来た時には頭上に満点の星空が広がるのでした。

 敵の気配は……ある。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  私達は階段に足を運ぶ。一段一段上がる度に、視野は暗くなっていき、最上段に来た時には頭上に満点の星空が広がるのでした。  敵の気配は……ある。 [一言] 塔を登って待ち構える四天王とバト…
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