シルフォル派のお城へ
フィンレーさんは私を伴って転移魔法を唱えました。この魔法技術は流石に神様と言ったところで、起動も素早くて、魔法がいつ発動されたのかも分からないくらいでした。
火災跡から、大変に綺麗な街並みの場所へ。
神様の住む街なので道は広々していますし、建物も大きくて立派な物ばかり。でも、何だろ。思っていたより普通です。
ゴミとか落ちてないし、体に悪そうな臭いもしません。でも、造ろうと思えば王都やシャールの職人さんでも可能です。
自らを大層に神と名乗っている連中なのに大したことはなさそうです。
「シルフォル、どこですかね」
「シーッ! メリナ様、シーッ! ここはシルフォル様に集った神様しか居ない場所だから、呼び捨てにしただけで大罪だって言う神様もいるかも。……絶対、誰かに聞かれたよ?」
「とりあえず、火を付けてフィンレー派の旗揚げ式と行きますか?」
「行かないでー!」
派閥長はまだその時ではないとご判断されたのでしょう。仕方御座いません。私達は誰も行き来していない、無駄に幅広の道を進みます。
「転移魔法で移動しないんですね」
「うん。ゆっくりと歩きながら、新参者の方の考えを訊くって建て前だから」
「建て前?」
「メリナ様はもう分かってると思うけど、私は下っ端だから、ここでは禁止されてるんだ。修行みたいなもんかな」
神になっても地位の差とかあるんですねぇ。大変だなぁ。
「何匹くらい神様っているんです?」
「追加とか引退とかあるから正確な数は誰にも分からないけど、おおよそ1000万とか聞いたかな」
「……多過ぎません?」
「私も最初に驚いたけど、それだけ世界が広いってこと」
王国の人口よりも多いんじゃないかなぁ。
前を行くフィンレーさんが前の十字路を右に曲がったので、私も従う。
「シルフォル様は6万の神様を率いておられる素晴らしい方です」
「突然どうしたんですか? さっきの呼び捨てのフォローですか?」
「メリナ様、早く謝ろっか」
「えー、フィンレーさんはフィンレー派を立ち上げる予定なのに」
「ノンノン。誤解しないで。シルフォル様は素晴らしい方です。聞こえてます? 私はそんな大それた事はできませんからね。ここだけでもちゃんと聞いていて」
本当に盗聴でもされてんのかな。
角を曲がると正面に大きなお城が見えた。うん、山みたいに大きい。お城の塔は1個だけ。でも、それは雲を突き抜けていて、それでもまだ中腹って感じのサイズです。さっきまで見えなかったのは魔法的な偽装が掛かっていたのか?
「1000万の神様がいて、その内の6万なら弱小チームですね」
「それだけの神様を束ねるシルフォル様は神々の中でもその名が轟く1柱です。素晴らしい方です。うー、ヤバいなぁ」
「そんな小さな事を気にするから小者なんですよ」
「そ、そうなのかな……」
「はい。しっかりしましょう。やっぱり大切なのは自己主張ですよ」
「う、うん。確かにそうね」
私の言葉にフィンレーさんは素直に頷きました。この人、詐欺に騙されやすそう。
「他に有名どころの神様は?」
「メリナ様がご存じの竜王サビアシース様も竜神の中では1、2を争う著名な方かな」
おっ、口調も戻った。
「フォビは? 昔は聖竜様の背中に乗らせて貰っていたフォビ」
「あー、竜となると、そのフォビ様はスーサフォビット様かな。竜騎神スーサフォビット様は有名ではないかも。でも、シルフォル様の槍となって日々、各地域の安全を守っておられます」
「聖竜様に乗らせて貰ってないのに竜騎神なんですね。むかつく」
「うん? メリナ様の仰る聖竜様は地の界の存在だよね。スーサフォビット様の騎竜は別だと思うかな」
「乗り換えたんですか!? クッ、安心する反面、無性に腹が立つ。何でしょう、この感情は……」
「恋だと思うなぁ。羨ましい」
前を行くフィンレーさんが振り返って、にっこりしたので拳を叩き込みたくなったのを我慢。
「他に有名な神様は?」
「たくさんいるから言い切れないなぁ。世界の端っこに住む神様とか、太陽の航行を監視する神様とか、魂を探求する神様とかは有名かも」
城が近付くに連れて、やっと他の歩行者を発見する。去る人間もいて、そういう方は城から遠ざかるに連れて姿が薄れていって、消えていく。
「自動転移の魔法だよ」
私が不思議に感じたのを察して、フィンレーさんが教えてくれた。
「敵の侵入を防ぐために?」
「そうそう。で、分かると思うけど、あの大きな建物がシルフォル様の宮殿。1万柱くらいの事務特化の優秀な神様が働いてるんだ」
「フィンレーさんはあそこで働いてない?」
「あはは。聖女をやってた時は、自分が能力不足だなんて思ったことなんてないかも」
上には上がいるものですからね。それは神様になっても一緒なのでしょう。
「事務なんて雑用も多いですよね。そういうのを処理する部下、天使って言うのかな、そういうのもいっぱい居たりします?」
「ここは神界だから選ばれた神様しか入れないかな」
私は選ばれた神様なのか。ティナに無理やりに転送された気がするんだけど。
「そう言えば、フィンレーさんはティナ、アンジェ、ダンっていう3人組の神様を知らないですか?」
「んー、どうしたの?」
「そいつらとも出会ったんですが、神様って言っていたものですから本当かなって」
「メリナ様、長生きだったの!? 地の界で6柱も神様を見るなんて凄いよ!」
「いや、私なんて若輩者ですよ。で、どうなんです?」
「地の界にいるなら神界を離れてる方かな。アンジェがアンジェディール様なんかだと凄いけど」
聞き覚えがある名前だ。
なんだっけ。あー、シルフォルとサビアシースが会話していた時に出てきた名前だ。
「へぇ、どんな見た目の人なんですか?」
背の低い小娘ならビンゴ。
「私は見たことはないんだ。ってか、数千年単位で姿を消してるとか聞いたかな。凄く尊敬されていた神様で、昔は最大派閥の長だったみたい」
「数千年って死んでますね」
「ベテランの神様にしたら、それくらい旅行休暇くらいの扱いで慣れたものみたい。億年単位で存在してるんだから」
そんな会話をしながら私達は門をくぐり、建物の中に入る。そこは、とても広いロビーでした。
ここまで来ると賑やかで、挨拶をし合う人たちもいるし、足早に階段へと向かう人もいる。
「ちょっと待ってて」
フィンレーさんは奥の受付っぽい所に向かいました。私は壁際で神様達を見ます。
服装も王国の人達と大して変わらない。剣士もいるし、魔法使いもいる。蜥蜴みたいな鱗有りの太い尾っぽを持つ獣人も見えました。
流石に石材や装飾は贅を尽くしたみたいな感じですが、全体的には小綺麗な冒険者ギルドって感じですね。
私に目を遣る人は殆んど居ない。でも、大概の神様が魔力感知で私の実力を測ろうとしていることは分かる。失礼な者達です。
しかし、シルフォルは絶対にこの城のてっぺんにいるんでしょうね。……どうするかなぁ。
「よぉ、新入りか?」
タイミング良く、槍を背負った男性が私に話し掛けて来ました。
「分からないことがあれば聞いてくれ」
爽やかな笑顔が、いつぞやのヘボ騎士グレッグさんとどことなく似ている。
「はい。シルフォルに会いたいんですけど、この上にいます?」
「わはは。……お前、シルフォル様に敬称を付けないとか、気は確かか?」
いや、質問に答えて欲しかった。
うーん、仕方ありませんかね。今が最善の時だと思うから。
「神にもなって徒党を組むとか、進歩を捨てた奴らの集まりですね」
これはティナの受け売りです。が、真理かもしれない。フィンレーさんも神様なのに新参者勧誘とか雑用しているみたいだし。
こういう痛いところを突く発言は挑発に最適です。
「はん。思い上がってんのか? いいぜ、その高い鼻を折って――」
売った喧嘩を買ってくれたと判断して、私は即座に相手の顔面に強パンチ。一気に魔力を放出し、辺りを濃厚な魔力で埋めます。
「敵襲!?」
「そこの黒髪の女!!」
反応が早い。槍の男が吹き飛んでいる最中から、周りの神達が私に狙いを付ける。
戦闘の基本に立ち返り、素早く動いて魔法使いから私は仕留めていきます。
「早――」
「何者――」
神様ともなると堅さもピカ一でしょう。手加減する余裕はないと判断した私は、力を込めて確実に頭部を粉々に破壊して回る。言葉も喋らせない。
でも、殺せてはなさそう。倒れた奴らは血も流さずにどこかへ消えていくから。
最後に受付の女性2人を殴りつけ、ロビーに立つのは私とフィンレーさんだけになりました。
「メリナ様……?」
「これだけ挑発したらシルフォルも降りてきますかね? 雲より高い場所まで階段とか辛すぎですもん」
「メリナ様……?」
「しかし、皆、油断していたんですかね。呆気なく制圧できましたよ」
「メリナ様……?」
フィンレーさんは私の名前を繰り返し呟くのみでした。




