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勧誘を受ける

 建物に入って、案内されたのは尋問部屋みたいな狭い部屋。そして、小さな机を挟んでフィンレーさんと真向かいになっています。

 三つ編みにした焦げ茶色の髪を肩から胸へと両サイドに垂らしていて、口調の軽さと異なり、少し上品って言うか、世間ずれした田舎のお嬢さんって印象を持ちました。



「――という訳で、シルフォル様は世界の平和を守っておられる神様の中でも特別な存在でして、神様の中でも尊敬される、ゴッドオブゴッドなんですよ! あれぇ? 聞いてるかな?」


「ふわぁ……あっ、はい」


 多くのパンフレットを用いての長い説明だったので欠伸をしてしまいました。でも、ちゃんと聞いていたので、私は自信を持って答えたのです。


「じゃあ、メリナ様に質問でーす。シルフォル様はどのような点で他の神様に尊敬されているでしょうか?」


「人を見下すような性格の悪さでは天下一品?」


 あれはアデリーナ様に匹敵しますよ。


「……はーい、聞かなかったことにしますね。

私は聞き流しますが、他言は止めておきましょう。じゃあ、お復習(さらい)です。シルフォル様は慈悲深く、そして、思慮深い神様ですので、多くの神様が自然と集い、シルフォル様の指導の下、地の界の広い土地を皆で管理しています。そのため、リーダーのシルフォル様は地母と称される訳ですね。シルフォル様の功績は多くあり、語り尽くすことはできませんが、彼女の信条として生物の多様性を保持するというものがあり――」


「ふわぁ……」


 ねむ。


「メリナ様、こういった長い話は好きじゃないのかな? うん、そうですね、思考共有とかの能力があれば説明を聞くなんてことは無駄だったかもしれませんからね。でも、ここは神界ですので、皆さん、思考関係の対策は強力なものを張っているんです。だから、メリナ様も慣れましょうね」


 へぇ。

 でも、もう本当に飽きてきたなぁ。


「聞いてるぅ?」


「はい。でも、私、長い話を聞いてると眠くなるか、相手を殴りたくなるクセがあって」


「……それ、クセとはちょっと違うかなぁ。でも、メリナ様はお疲れのようですね。じゃあ、単刀直入に聞きます。シルフォル様の下で私達と一緒に働きませんか? 笑顔の耐えないアットホームな雰囲気が売りですよ」


「あっ、最後のそれ、なんか、私も似たようなフレーズを使ったことがあります」


 なんだっけな。あっ、オズワルドさんの結婚相手を探すために、痩せた豚の世話と称して冒険者ギルドで書いた依頼書だ。

 結局、結婚相手が見付からずで、オズワルドさんのお母さん、独り寂しく王都に住んでいるままでしたね。


「あはは。そうなんだ。私達、気が合うなぁ。仲良くできそう。じゃあ、ここに署名しようか」


「えー、気が進まないなぁ。それ、絶対にダメな職場で、裏があるやつですもん。私、騙されそうな感じがする」


 あんな下らない経験が役に立つなんて、世の中、不思議です。


「えー、そんなことないってー。神様になって良かったなぁって本当に思えるもん。ほら、私の眼を見て。嘘を言ってる感じゃないでしょ」


 無駄です。私にはもう分かっていますよ、フィンレーさん。


「でも、そっかぁ。フィンレーさん、シルフォルさんにご不満あるのかな?」


「め、滅相もない! えー……やだなぁ」


 ビクついた仕草から私の勘は当たったようです。


「大丈夫ですよ。ここには私達しかいません。シルフォルさんに殺され掛けたことのある私です。あいつに好意なんて持ってないですよ」


「えっ! シルフォル様に逆らうとか、メリナ様は本当にサビアシース様の派閥なんですか……?」


「いいえ。つい数刻前に、魔法の試し打ちでサビアシースは半壊させました」


「サビアシース様は……確かにそんな噂が……。メリナ様は本物の邪神だったり……。あはは……」


 フィンレーさんはドン引き。彼女も神様って話なのに、どうもポンコツっぽいですね。


「メ、メリナ様……。大変申し訳ないですが、今回の話は――」

「ここにサインするんですね」


 ペンを取り、サラサラとシルフォル派入会書にサインします。


「あー!! とんでもないのが入ってきた!!」


「フィンレーさん、ありがとうございます。これからも宜しくお願いします」


 ペコリと頭を下げる謙虚な私。


「シルフォルに会ったら退会しますんで宜しく。早速、お会いしに行きましょうか」


「呼び捨て、ダメー!」


「シルフォルがまだ生意気を言うようなら殴りますね」


「関係ない私が滅ぼされそー!!」


 フィンレーさんはそう叫びながら、机の上のパンフレットを掴んで放り投げました。彼女も神様だけあって、瞬時に紙を千切る芸当を見せてくれたのでしょう。細かくなって舞う紙達は、まるで花吹雪みたいでした。

 その中で、私は新たな申し出をします。


「さてと、今日は疲れたからフィンレーさんの家で休みたいですね」


「ちょっ! 狂暴なのが我が家も狙ってるー!!」


 フィンレーさんは愉快な神様なのかもしれない。そんな予感がします。


 さて、何だかんだで、彼女は私の願いを聞いてくれました。

 長い1日でしたので、私の寝室に用意されていたふかふかベッドに入ったらすぐに眠れるだろうなと思ったら、シーツの下に固いものがある。

 小さな嫌がらせ? 一度、フィンレーさんを締める必要があるかなと思いつつ、面倒ながらシーツを外して取り出すと、それは私の日記帳でした。

 アデリーナ様の筆跡でそう書いてあるから間違いない。こんなものを寝床に置くなど、大きな嫌がらせです。


 ……ひょっとしてティナの仕業なのか……?

 いや、誰にしても、日記帳を私に届ける意味なんてないでしょうに。なんだ?

○メリナ新日記 17日目

 人生最大の恥辱を思い出すと、余りの怒りで体の奥底から炎が迸ってしまいそう。

 実際にそれに関する夢を見たせいで、寝ぼけて魔法を使ってしまいました。そして、友達になったばかりの家が全焼しました。

 ごめんなさい。口では恥ずかしくて言えないので、文字でお伝えします。申し訳御座いません。

 でも、神殿の新人寮が燃えた時も巫女の皆は許してくれたので、きっと今回も大丈夫。人間よりも度量が小さいなんてことは無いでしょう。

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