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神に届いた力

 まだイルゼさんはやって来ない。

 ならば、邪神の不安を解消してやりましょうか。


『私はぁ受けないわよぉ。貴女がぁ私に打ち勝ったところでぇ、あれらに勝てるぅって訳じゃないものぉ』


 邪神はティナ達を自分よりも遥かに強いと評価しているのでしょう。そんな言い種です。

 私に繋がる邪神の魔力を遮断する。


『……もぉ仕方ないわぁ。来なさいぃ。私もぉ殺す気でぇ相手してあげるぅ』


「お前を殴るつもりはないですよ。って、やっぱりこうすれば、私の意識を読めなくなったみたいですね。そんな反応でしたよ」


 体内の魔力量は一定でも一つ一つの魔力の粒子に限ると、絶えず体内に湧き出て体の端の方や奥の方で消えています。でも、これは消えているんじゃない。消えているように見えているだけで、私が感知できない何処かに移動しているみたい。たぶん、精霊達が生息している別の空間に。

 邪神に頼んで私への彼女の魔力供給を断った際に、それでも極僅かな魔力は湧いていて、それが体内を移動して消えていた。

 それで気付きました。私の体に配慮して魔力ゼロを避けたんでなく、私との意志疎通までは断ちたくなくて、そうしたんだと。


『じゃぁ、どうするのぉ?』


「ちょっと待ってくださいね」


 私は魔力を集める時間を貰う。



『まさかぁ、これを呼ぶなんてねぇ……』


 ちょっと時間を要しました。灼熱地獄が冷える程ですから、数日は経ったんでしょう。

 私達の前には山のように(そび)える巨体を持つ白い竜が現れていました。


『何のつもりかねぇ。気軽に呼び出して良いもんじゃないよ、あたしは』


 聖母竜です。

 じろりと私を睨んでいました。


『はん。思考を読まれないように細工してんのかい? それくらいで調子に乗ってんだったら、笑えるね』


 偉そう。


『思考読みなんて1つの方法だけじゃねーんだよ』


 しかし、今のお前は私の考えが分からないようですね。


「今からお前を殴り倒します」


『は? あはは、やってみなよ。言っとくけど、私は強いよ』


 知ってる。邪神が目標としたくらいの存在ですからね。


 私は駆ける。

 今でも視野の中に全身が収まらない程の大きさを持つ竜です。近付けば白い壁が立ち塞ぐみたいに、視界の全てがヤツの体だけになることでしょう。


『1発は殴らせてやるさ。痛みくらい感じさせてみな』


 こんな余裕ぶってるヤツを倒しても余り説得力がないかもしれないなぁ。少し手加減してやるか。


 悠々と拳の射程距離に入った私。

 確かに体の差は大きい。私と聖母竜では、(のみ)と人間くらいの違いがあって、私の腕ではヤツの急所まで届かないし、鱗を破壊したとしても私にとって紙で手を切ったくらいの軽傷でしょう。


 しかし、それが分かっていても、大きく踏み込んで私は拳を振るい上げる。


『精々頑張りな。あはは』


 しっかりと土を踏み締める、前に出した左足。胸を反り上げても狙いから目を離さない。力の溜めも十分。

 併せて魔力が体内を激しく巡り回る。


 力強く拳を前へ。でも、進みが遅く、自分の思考が高速化しているのが分かる。

 どうしてか腕を前へ突き出すのに抵抗が掛かって、その分を魔力で補う必要がありました。まだ腕は半分も伸びきっていないのに。


「オラァァアア!!」


 でも、負けない。踏み込みもより強く。足が地面に沈むも魔力の補助を使って耐える。極端な前傾姿勢になって少しでも前に突き出す。

 やがて握った拳の先端に赤い光が宿りながら、それが聖母竜の体へと突き刺さる。


 最初は小さな陥没。振り切った頃には周囲に凹みが広がる。広がり続ける。

 たぶん、衝撃波だと思う。マイアさんなら何かの力とか魔力が何たらかんたらと説明してくれるのでしょうが、私にはよく分からない。


 何にしろ、聖母竜の体は打ち込んだ所を中心にして広範囲に損傷しました。この傷の深さなら内臓が(あらわ)になって、大量の血を浴びてもおかしくないのに、そうならないってことは魔族と同じように聖母竜の体内は魔力で構成されているということなんでしょうね。

 うふふ、向こう側も辛うじてだけど見えてる。手加減したのに貫通しちゃった。


 退がって、ようやく全容を確認。私が攻撃した場所はお腹の真ん中の一番地面に近い部分。そこから前足と後ろ足の間の大半が吹き飛んでいました。


『……貴女ぁ、どこまで強くなるのかしらぁ』


 邪神でさえ褒めてくる程の結果、ということなんでしょう。


「どうでしたか?」


『あはは、おもしれーじゃん! もう一回来いよ!! 殺してやんからよ!!』


 以前は聖竜、今は聖母竜と、その名乗りは清らかな感じがしますが、所詮は獣。暴力的な性格はよろしくありませんね。


「では、本気のちょっと手前くらいで」


 今度の私は突撃しない。立っている位置から拳を思っきり振るう。またもや拳が重くなる現象が発生し、撃ち抜くことが難しくなりますが負けない。ってか、これ、何なのでしょうか。聖母竜が恐れをなして邪魔してんのか。


 さっきよりも拳速が増したこともあり、発生した衝撃波の威力も強くなったのでしょう。聖母竜は尖った口先と尾だけを残して消滅しました。あと、地面もいっぱい抉れて断崖が足元より先に作られています。


『……ゾルにはぁ、2度と貴女に挑戦しないようにぃ言い聞かせるわぁ』


 でも、剣王は聞かないだろうなぁ。



「化け物、あんた、本当に化け物じゃん」


 ん? フロン?

 私は振り向く。


 あっ、イルゼさんもいる。と言うことはいよいよか……。


「メリナさん、ワットちゃんは決死の覚悟よ。でも、勝てない。貴女が止めるしかない」


「聖竜様が勝てないってのはないですけど、私が止めたい気持ちは一緒です」


「えぇ、貴女なら勝てる、かもしれない。今のも、音の壁を越える速度で殴っての衝撃波……ううん、違うわね、これ程の威力なんだから、音速どころか亜光速に近い速度から放たれたのだと思う……」


 わっ、さすがマイアさん、思った通り、誰も聞いてないのに解説してくれた。


「化け物、頼むわよ。皆の死相が一気に深くなってんだから」


 フロンも聞き流した!


「任せなさい」


 私は力強く答えました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 聖龍母様のお力を借りて共闘する路線じゃない(笑) [気になる点] 神とは?精霊とは?人とは? [一言] 以前の章でこの世界が『女性優位』なのはフォビの神としての権限なのが説明されました。 …
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