のんびりとした待ち時間
座っているアデリーナ様がお酒様を煽る。手にした瓶を直接に口へ持っていくラッパ飲みで品の無ささはピカ一です。お酒様よりも上位の聖竜様の目の前ですので、私は我慢していると言うのに。
「ほぉ、聖竜様はメリナさんの助けが不要と?」
「そうなんだよね。化け物には化け物を当てるのが一番なのにさ」
「ルッカとヤナンカを一撃で屠った相手で御座いましたか。確かにメリナさんに匹敵する化け物で御座いますね。これ以上の化け物はいないでしょうが」
チッ。るんるんもあれですが、本来のこっちも私の心を逆撫でしてきますね。どうしようもないヤツですよ、アデリーナ様は。
食事を終えた私達3人は適当な石に座って向かい合って、暇潰しの会話をしております。なお、イルゼさんは壁際の端っこに独りで立っていて不気味です。たまに私と目が合うし。
なお、今座っている石はアデリーナ様が立ち飲みは疲れると主張して聖竜様のお住まいの床石を掘り出して重ねたものです。極めて不遜です。
私と聖竜様の未来の愛の巣を破壊するなんて、クズもこのレベルに達すると逆に清々しささえも感じます。
「そんなことより聞いて下さい」
私は話題を切り替えます。
「ふむ。下らないことでしょうから結構で御座います」
「待って下さい。るんるんアデリーナが気になることを言ったんです」
「は? 化け物に恋してるとか、誰も気にしない爆弾発言しただけじゃん」
アデリーナ様が少し噎せました。唇から顎へ漏れ垂れたお酒様が汚いのですが、勿体ないとも感じますねぇ。
「……待ちなさい、フロン。私が眠っている間に、メリナさんに恋をしてるなんて発言をしやがったので御座いますか?」
「キモいですよね」
「寒気で肌にブツブツが出る程で御座います……」
「大丈夫? 外からも内からも、私が人肌に温めてあげるよ、アディちゃん」
アデリーナ様に顔を近付けるフロン。しかし、ブンと酒瓶が横殴りにフロンの鼻先を掠める。アデリーナ様の威嚇です。
「不愉快で御座いますね。まぁ、よろしい。メリナさん、続けなさい。もう1人の私が口にした、気になる事とは?」
「えぇ。ご自身の足の裏が臭すぎて死にたいって。わはは、笑えますね」
私の目の前にも酒瓶が迫ります。今度は突きでしたが、私は顔を振って躱す。この物凄い量の魔力を帯びた瓶の攻撃を喰らったなら、私の顔はグチャグチャに破壊されていたことでしょう。アデリーナめ、腕を上げてやがる……。
「ふん、私の足の裏は治癒しています。しかし、本気の私の剣を避けるとは相変わらず生意気で御座いますね」
「剣って、お酒様の瓶ですよ」
魔力量は最上級クラスの魔剣よりも込められていましたが。
「化け物、死相出たまんまじゃん。そのまま死んだら?」
「あん? きっとお前にも出てますよ。死ね」
お酒様に手を出したいのを我慢して、私は木のコップに入れた水を口に含む。
「メリナさんが総務に異動?」
「巫女長担当課長です……。いつでもアデリーナ様に代わりますよ」
「私担当課長? 気が休まりませんね」
「とんでもない勘違い。アデリーナ様にお仕えする私を想像するだけで地獄と屈辱の嵐なので、2度と言わないように」
「減らず口を。見習いの頃のメリナさんなら怯えながら首を縦に振ったもので御座いますよ」
「アディちゃん、私はどうかな? アディちゃんの言葉なら全部悦びに変換できるよ」
「キモ」
「えぇ、あの可愛いふーみゃんとは思えませんね」
何故か照れ臭そうに顔をポリポリするフロン。無性に腹が立つ。
早く黒猫ふーみゃんに戻ってくれないかな。
「聖竜様、真剣ですね」
「トロトロしてるだけじゃん」
「は? 愚かな魔族には深遠なる聖竜様のお考えなんて理解できませんからね」
「何にしろ、無断で王国の外から来て好き勝手にやっている奴らを放置するのは宜しく御座いません。舐めた者共にはお仕置きが必要で御座いましょう。メリナさん、頑張りなさい」
「私でなく聖竜様がやるんですよ?」
「ルッカとヤナンカを倒した奴らに敵うの、これ?」
「そんな雑魚どもと聖竜様を比べること自体が大罪ですね。死ね」
この時、聖竜様から膨大な魔力が放たれます。体色と同じ綺麗な純白。それが土の天井を超えて恐らくは地上へと向かっていったのでしょう。
『完璧っ!』
おぉ! 自信に溢れた、心強い言葉を聖竜様が発せられました。
「聖竜様、流石です!」
絶賛する私。何を為されたのか全く理解しておりませんが、喜びに満ちた声色に私は勝利を確信したのです。
『気付かれないように慎重に術式を組んだ――』
「すぐにメリナさんを送りこみなさい! 混乱に乗じるので御座います!」
『へ? あっ! えぇ……何……これ?』
「うわぁ、まずったんじゃない?」
「……使えないヤツで御座いますね」
こいつら……。曲がりなりにも、自分等がどなたの巫女なのか忘れているんじゃないかな。
『……皆、消えちゃった』
「反撃でシャールが崩壊したので御座いますか?」
『そ、そうじゃなくて、敵が消えちゃった……。あれ? 魔力変化は無かったと思うんだけどなぁ……』
戸惑う聖竜様。
アデリーナ様とフロンも怪訝な顔をしていて、こいつらは信心が足りないと私は思いました。聖竜様、貴女を信じている、若しくは愛しているのは私だけのようですね。いつでもお嫁に貰ってください。




