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おかしい

 聖竜様は殺気立っていて、鋭い眼光で突然来訪した無礼な私達を睨み付けます。

 営業部長は聖竜様を「気高くも荒々しい」と表現されましたが、正しくその通りです。でも、カーシャ課長の荒々しさはチンピラに等しい野蛮さでして、参拝客に誤解されないか心配です。


『何用であるかッ!』


 おぉ、素晴らしい怒気ですよ。かっこいい。思わず、私は笑顔になってしまいそうです。


『ここを何処だと存じておる!? 矮小な存在である人間がおいそれと来て良い場所ではないッ!』


 うふふ、威厳がビンビンです。こういう聖竜様も良いですねぇ。私がお嫁となった日には、粗暴に見えて実は優しい聖竜様が前を歩き、私は賢妻としてそのお影を踏まないように2、3歩下がって付いていくのです。

 って、聖竜様は巨大なので2、3百歩は下がらないといけないか。それだと、連れ立って歩けないなぁ。

 でも、大丈夫。私も竜になれば良いのです。2匹でのしのしと王国を散歩したい。そして、夜には、眠る私の後ろから乱暴に乗った聖竜様が腰を突き出し――キャッ。

 恥ずかしくて顔が真っ赤になりました。


「……おかしいで御座いますね」


「は? 私の夢になんてこと言うんですか!?」


「何のことで御座いますか……? いえ、メリナさんの夢がおかしいのは聞かなくても事実ですし、一切興味がないので喋らなくてよろしい」


 クソが生意気に言う。


「アデリーナ様、お酒様をお控えください。毒舌も聞き飽きて来たので、そろそろ、るんるんの方を表に出してあげましょう」


「メリナさん、イルゼのように口を閉ざし続け――」


『黙るが良いッ! ここは神聖たる我の宮殿であるぞッ!!』


 おぉ、何たる威徳。聖竜様の叫びと共に吐き出させれた息を私は全身で受ける。幸せです。このまま気を失って昇天しそう。

 でも、ここは宮殿と言うには殺風景過ぎますよ。お茶目です、聖竜様。


「くっさ。信じられないで御座いますね……」


「アデリーナ!!」


 私の激しい叱責にもヤツは動揺することもなく、自分の服を見回していました。


「ふぅ、唾液とか付着していたら始末してやろうかと思いましたよ」


 ……こ、こいつ……。

 私の目の前でそんな発言するなんて自殺志願者か? 手出し無用の練習中だったことを幸運に思うが良い。



「聖竜様、どうしました? 凄く無理をされておりますね?」


『グッ……。え? アデリーナには分かる?』


「はい。敵が訪れてきた時に備えて脅しの練習でしょうか?」


『そ、そう!』


 威風堂々としていた聖竜様の首が急激に曲がって、こちらへ向かってくる。


『どうだったかな? いや、どうであったろう?』


 アデリーナ様に尋ねてしまう聖竜様。ダメです。こんな女は鬼です。他者を褒めるなんて、自分の都合が良い時にしかしない生物ですよ。


「フッ」


 うわっ、鼻で笑った! 聖竜様の真剣な問いを笑い飛ばしやがった!


「聖竜様、この不遜な女王を殴り殺しましょうか?」


『ま、待つが良い。アデリーナよ、お前に問おう。我はどうしたら良いであろうか。教えを乞うてやろう』


 聖竜様のご要請を無視して黙るアデリーナ様。


『教えて欲しいかな……』


 さすがの聖竜様も鬼のプレッシャーに少し怯んでしまったかもしれない。


「聖竜様、敵が来る前提で演技の練習をしていますよね。それって、とてもおかしな話で御座います」


 っ!? お前、おかしいってそこだったのか!?


「問題の一行が大魔王を復活させたとはメリナさんから聞きました。しかし、彼らがここに来るとは限らないはず。何故、彼らが来ると考えておられます?」


『そ、それは……竜としての勘が……』


 アデリーナ様はもう一度沈黙。


『シルフォルの手の者だったら――』


「地の魔力の支配権を狙う」


 アデリーナ様が聖竜様に被せて言う。


『えっ? な、何だろう、それ……』


「ククク、惚けても無駄ですよ。2年前、私はそれを所望しました。しかし、聖竜様、貴女は『それはメリナに与えた』と答えたのです。私を諦めさせる為に嘘を仰ったので御座いますね。酷い話で御座いますね」


 ……覚えてない。


「ブラナンも欲した地の魔力の支配権。それさえあれば、地から湧く魔力の量を制御し、獣人や魔法使い、魔物の発生率を調整できる。言うならば、地域を支配するには最良の道具。これは推測ですが、2000年前に魔王ダマラカナはその地の魔力の支配権を持っていた。それを聖竜様とフォビは最終局面で奪ったのです。マイアとカレンを犠牲にして。悪どいことで御座いますねぇ」


『な、何のことであろうか……』


「弁解は不要で御座いますよ。どうでも良いのですよ。それよりも話を戻しましょう。彼らはそれを奪いに来る。だから、聖竜様は戦う。だとしたら、何故に手出し無用だなんてメリナさんへ言ったのか……。うふふ、分かりますよ。犠牲者が出ないように、自分だけで対処しようとしているのでしよう?」


 えっ! つまり、私の身を案じて仰ってくれていたのですか!?


「聖竜様、あなたの愛は確かにメリナに届きました」


『愛ではないからね。……でも、アデリーナの言う通り。我と我が主の問題であるので、お前達は傷付く必要はなかろう』


 アデリーナ様はここで本来の目的を達成すべく口を開く。


「聖竜様が怖じ気づいている訳ではなくて良かったで御座います。では、私からアドバイスを。彼らと同行している少女は蜂の獣人だそうです。彼らはその獣化を止めたいと考えて行動していると聞いております。ならば、こちらは逆に促進してやるのです。別に攻撃した訳ではない。地の魔力を支配する聖竜様ならば、その獣化を促進することは簡単でしょう?」


『敢えて喧嘩を売るのは……。まずは交渉で……』


「交渉ですよ。戻して欲しければ去れと言えば良いので御座います。ほら、ルッカを使えば獣化も戻せるでしょ?」


『あっ、そっかぁ。うん、名案かも』


 いや、それは違う気がしますよ。相手が逆上して交渉どころじゃなくなる可能性が否定できない。カレンちゃんを取り引の道具に使うのも気が退ける。

 でも、聖竜様の嬉しそうな様子を見ると口に出しにくいなぁ。


『さすがブラナンの血筋だねぇ。メリナも色々とありがとう。アデリーナと相談してくれていたんだね』


「はい。私のアイデアです。やだなぁ、アデリーナ様、私のアイデアを盗用するなんて。クズって呼ばれますよ? クズって」


「申し訳ありません、メリナさん」


 あれ? おかしい。私の嘘に対して、素直に従いやがりました。


『それじゃ、また。うん、ちょっと気が楽になったかな』


 私達は聖竜様の転移魔法で地上で戻りました。

 その直前に、アデリーナ様が暗く笑ったのを私は見逃しませんでした。

 すぐに問い質します。


「アデリーナ様、聖竜様を騙していませんか? 今ので交渉が有利に進むのですか?」


「進む訳ないでしょ。逆に交渉不可の状態へとなるでしょう」


「貴様っ!?」


「何故に怒るのですか? メリナさんが彼らを退治すれば、聖竜様はメリナさんに心から感謝致しますよ? ……聖竜様の一番はルッカからメリナさんになるんじゃないかなぁ」


 っ!?


「アデリーナ様、私は貴女の友人だったことを幸せに感じております」


 アデリーナ様の両手を取って、感動を伝えました。すると、彼女も笑顔になりました。


「メリナお姉様、私は友人以上でも良いかも」


 ……酔いが冷めたのか?


「るんるん。アデリーナ、とてもるんるんるんです!」


 背筋が凍る。

 怖いわ! 友人以上とか、お前、怖いんだって!

 あと、ずっと一緒に居たのに完全に気配を消し続けていたイルゼさんも怖い!!

◯メリナ新日記 16日目

 聖竜様との仲が進展する気がする。

 明日は頑張るゾッ!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ちょうどるんるんが欲しかったところなんだ
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