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ガインの報告書2

 私は秘書課巫女長担当課長です。課長って言っても誰一人部下がいません。お給金も上がらない名誉職です。巫女さんの誰一人も名誉だと思わないだろう役目です。


 仕事は巫女長の話し相手。辛い。

 私は懐かしく思い始めています。あんなに嫌だった魔物駆除殲滅部の生活を。少なくとも自由はありましたし、精神魔法に怯えてご機嫌取りをする必要もなかったのです。


「メリナさん、大変よ」


 巫女長はお手紙から目を離して、私に話し掛ける。


「どうしました? それ、ガインさんからの手紙でしたよね」


 ガインさんはティナ一行の御者として潜入捜査をしてくれていました。前回は私にも詳細なレポートを送ってくれたんですよね。


「えぇ。私、怖くなってきたの。考えを改めなきゃいけないかもなの。一緒に読みましょうよ」


「はい」


 ミーナちゃんが運び役だったのに私のところには来てないなぁ。昨日のこと、また怒ってるのだとしたら器量の狭い人間ですよ。教育がまだまだ足りないと言うのなら、鉄拳教師メリナが再臨する必要がありますね。


◯ガインの報告書2

 前回報告から3日。

 新たに判明したことを記す。


・ティナ、ダン、アンジェ

 3人ともメリナ相当の実力を持つ強者。手出し無用。ミーナに襲撃させる予定だったが、依頼をキャンセル。ミーナにはメリナからも襲撃しないように要請が入っていたみたいで渋々承諾を貰う。

 彼らの当面の旅の目的は後述するカレンの獣化の停止。王国への敵対心は皆無であるため、このまま様子見を推奨。

 彼らが提供する食料は美味であり繊細。かなりの文明国の出身と予想される。


・カレン

 出身はバンディール地方のナバル村。同村の占い師により彼女は蜂の獣人となると予言されている。獣化を遅らせる効用があるという軟膏をアンジェに渡されている。

 一行に奴隷として買われた理由はナベの「可哀相だから」という理由。奴隷の再販売目的ではないことが判明。

 なお、彼女は戦闘術において尋常でない成長が確認されている。一行は素質を見抜いていた可能性有り。


・ナベ

 一行の意志決定は彼が行っている。しかし、リーダーと言うわけではなく、彼の意見を(さい)の目のように楽しんでいる姿勢を強者3人より感じる。

 確かめる術はないが出身国は遠くにあると言うニホン。神隠し的な作用により王国へ辿り着いたとナベは主張している。

 接する限り気の良い普通の少年に思えるが、魔法耐性の高さが気になる。また、遠国出身者にも関わらず私の訛りの強い言葉を完全に理解しており、言語能力が高いと言うよりも何らかの魔法を使用しているか、思考を読み取っているものと思われる。危険度を高く設定するべき。



 前回報告ではナベが拉致犯にある種の親近感を覚えて旅をしている可能性について言及したが、その可能性は低下。

 ナベは風習、思考、能力ともに足りず、独りで生活できないと自己判断している模様。また、強者3人はナベを実験台、興味の対象として見ている様子が窺い知れる。

 繰り返しになるが、彼らの目的は不明。触らぬ神に祟りなしの原則で通すべきと判断する。

 なお、カレンに至っては先述の通り、偶然に巻き込まれた者である。当人と彼らの意向次第ではあるが、王国民として保護することでその人道的配慮により彼らの歓心を得られる可能性がある。


 フローレンスへ

 前回報告にてチャールカの村で出会った盗賊団について言及した。翌日に襲撃を受けたが、彼らは一行に対する追手ではなく、彼らの首領が私に告白した結果、ネオ神聖メリナ王国の残党と判明。首謀者はメリナであろうと首領は告げている。目的は資金の調達とのこと。

 メリナに王国内での治安悪化を止めさせるように言い伝えて欲しい。



 カッヘルの野郎……。あの盗賊どもから足が付かないように、私の名前を使いやがったのか……。


「メリナさん?」


「はい。あっ、これ、違いますよ。私じゃないです。カッヘルっていう軍人が盗賊団を用意したんですよ。私は何も知らない。知らないんです。だから、お仕置きはお止めください!」


「まあまあ、良いのよ。昔、ロクサーナさんも盗賊を利用してバンディールとかで大暴れしていたのですもの。懐かしいわ。でも、ガインさんは聖竜様と同じで手出ししてはいけないというのね。分かったわ。彼の言うことなら間違いないもの。2回読んでも、やっぱりそう書いてあるものね」


 あれ? 妙にガインさんを信頼している感じです。


「ガインさんとはどういう関係なんですか?」


「昔の冒険者仲間なのよ。彼はリーダーでね、たくさん助けて頂いたご恩があるの」


 巫女長はここで目を瞑る。


「うん。私は手荒な真似は絶対しません。客人として彼らを丁重にもてなしましょう」


 はい、信じられません。が、言葉に出すのは憚られるので言いません。


「彼らは明日、神殿に来ることになっています。倉庫の掃除なんですが、適当な倉庫ってありませんか?」


「宝物庫が良いわね。あそこ、長く誰も掃除していないのよ」


 ガインさんは大魔王復活を知らないので、ティナ一行を敵認定していない。

 巫女長がどう動くかは分かりませんが、私が化けの皮を剥がしてやるのも一興ですね。もちろん聖竜様に厳禁と言われているので手出しはしない。知恵だけで対処してやるのです。

 ……具体的にどうやっての部分は、ノープランなので、アデリーナ様と相談しよっと。


 巫女長から魔物駆除殲滅部を訪問する許可を頂き、私は酔いどれアデリーナ様と対面するのでした。


 私は詳細に状況を説明しました。

 すると、ヤツは口に直接、瓶を持ってごくりと飲んでから言い放つのです。


「手出し無用? 愚者の考えで御座いますね」


 神聖なる神殿で酒を飲んでいる不良巫女が他者を愚者だと宣う? 何様のつもりなんでしょう。


「アデリーナ様、耳クソが溜まっているんですかね。手出し無用ってのは聖竜様が仰ったのですよ」


「ん? だったら、愚者の考えで合っているではないですか」


 こいつッ!!

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