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状況を調整するメリナ

 私は神殿に転送されてからすぐに冒険者ギルドへ向かいました。


「ぐぅぐぅ……えへへ……そんなにお金をくれるんですか? ぐふふ」


 そんな戯けた寝言を宣っていたローリィさんを叩き起こし、私はティナさん、いえ、聖竜様の敵と判明した今となっては呼び捨てで十分、ティナ一行がどんな依頼を受けたのかを聞き出します。


「営業秘密だけどメリナさんだから教えるんですよ。その辺の林に生えている草の収集ですよ。あと、儲けの大きい石運びもサービスで教えてあげました」


 大魔王復活みたいな変な依頼のはずがないと思っていましたが、ごくごく普通の雑用ですね。


「ローリィ、私からの依頼です。えーと、竜神殿の倉庫の掃除。これをギルドに依頼します」


「ありがとうございます。で、お代は?」


「報酬額は適当なところでお願いします。お金は巫女長に頼みますので」


「わぁ、太っ腹ですね」


「常識的な額でお願いしますよ」


 不信感を与えて、奴らがこの依頼を受けなかったなんてことのないように。


「期限はどうしますか?」


「明後日」


 奴らは古い祠まで1泊2日でしたので、同じ速度ならシャールへの到着は明日。今回の依頼達成直後にこの依頼を受けさせれば、明後日の朝に神殿に来る可能性が高い。そう仕向けるための期限設定でした。


「えー、厳しいですね。でも、大丈夫ですよ。本ギルドには安全であればどんな依頼も一応はこなす、グレッグさんっていう頼りになる冒険者が所属しているのです。なんとグレッグさんはシャールの正騎士でもあってですね、とても――」


「そのクソ弱いカスは要らない」


 夜な夜なシェラに背中を鞭で打たれているという噂が流れているような弱々しい男は不要。ってか、そもそも、この依頼はティナ一行を嵌める為のもの。


「ティナです。あいつらが明日帰ってきたら、この仕事を引き受けさせるのです」


「えー、掃除なんて地味でかったるい仕事は引き受けないかもですよ。明日に帰ってくるかも分からないですし」


「帰ってきます。泣き落としでも嘘でも何でも良いから、何とかこの依頼を受けさせるのです。できなければ、いくらローリィさんだと言っても私の鉄拳を味わうことになりますよ」


「ひいぃ! 横暴! 暴力反対!」


「それくらい真剣に頼んでいるということです。とにかく、宜しくお願いしましたよ」


「依頼を引き受けさせた成功報酬は弾んでくださいね」


 非難していた割には呆気ない了承ですね。ローリィさんは切り替えがとても早い。

 私は頷き、そして踵を返す。目指すは竜神殿です。



「巫女長、遅くなりました。本日より秘書課に配属されたメリナです」


 私はここで最も畏れられ、且つ、恐れられている老婆に声を掛けます。


「あらあら、そんなに(かしこ)まらなくても結構なのよ。メリナさんと私の仲じゃない」


 場所は巫女長の執務小屋にある応接室です。お茶を出して欲しいなぁと思っていたら、私が出す役目であろうことに気付きます。

 立ち上がり、部屋の片隅にあった魔導式ポットに入っていたお湯でお茶を淹れます。魔物駆除殲滅部で使っていた茶葉よりも香りが強くて配給品にも差があったのかと少し驚きました。ずるい。


 カップを皿に乗せた時、後ろで軽い金属音が鳴ります。不思議に思いながら、盆を持ってソファーに座る巫女長の前にカップを置き、対面にも自分用のお茶を用意する。

 そのローテーブルに大金貨が数枚並んでいました。


「これね、私の盗まれた金貨なの」


「あっ、犯人が見つかったのですか?」


「えぇ、メリナさんが目星を付けていた人達だったわ。私、ガインさんに依頼して彼らの宿を探ったの。お宿の人は部屋に入れてくれなかったし部屋も魔法式の鍵がしてあったから、窓から入ったのよ」


 そっかぁ。巫女長の天職は盗賊だと思います。だから罪悪感を持たずに犯罪を実行していた事に、もう私はビックリしませんよ。


「この金貨の絵柄、私が盗られた物に違いないわ」


「……取り戻せて良かったですね」


「ありがとう。でも、私、初めて泥棒さんの被害にあったの。怖いわ。でも、犯人は捕まえなきゃよね、メリナさん」


 ここで私は聖竜様の手出し無用のご指示を思い出しました。


「私、彼らが明後日に神殿へ来るように冒険者ギルドに依頼を出しました。その時に巫女長ご自身で尋問されたら良いかと思います。でも、聖竜様が……」


 子供のようにわがままで、また、時には悪魔のように他人を容赦ない精神魔法で攻撃する目の前の人間が、自分の意思を邪魔されて怒り出すのではと危惧しまして、私は口をつぐむ。


「聖竜様が何かをご存じなのかしら? 続けてメリナさん」


「聖竜様は決して攻撃してはいけないって言っていました。だから、巫女長にもそれを守ってほしくて」


 しかし、聖竜様との約束を(たが)うのは許されません。勇気を振り絞って最後まで言いました。


「まぁ、聖竜様が何かご存じなのね! 分かったわ。でも、聖竜様から私にお話が来るのかは分からないの。悔しいけどフランジェスカさんにお話を頂けるか訊いてみるわ」


 ふぅ。

 でも、まだ油断は早い。


「巫女長、攻撃はダメですよ」


「分かっていますよ、メリナさん。でも、尋問は有りなのでしょう?」


 ……こいつ、絶対に精神魔法を使う気でいますね。あれは下手な攻撃魔法より極悪な威力があると言うのに。


「はい。そうでした」


 しかし、精神魔法のカテゴリーは補助魔法だと思います。攻撃魔法ではないので聖竜様との約束は守られ、且つ、あいつらに痛い目を与えられます。


 あっ! 思い出した。ミーナちゃんだ!

 あの子、ガインさんに頼まれて襲撃予定だったと記憶しています! それは攻撃じゃないって言い逃れできなそうだから、早く止めに行かなくちゃ!

 折角のお茶を口に運ぶことなく、私は外へと飛び出しました。

◯メリナ新日記 15日目

 ミーナちゃんは透明人間達と戦うのを楽しみにしていたようで、止めたら大声で泣いた。

 街中だったので人目が気になり、気絶させようとしたら戦闘になる。大振りの剣を躱し顔面に膝を入れて仕留めた。

 生意気な子供へのお仕置き、少し気持ち良かったのは秘密。

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