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食べながら雑談

 さて、ガランガドーさん、魔力の流れを映像に反映してくださいな。


『おうよ』


 スープに浸けたパンを口にしながら、じっくりと動画を確認します。気になる場面は何回も再生してもらいながら。


 邪神の麻痺魔法は確かに発動していました。

 ガインさんに対して、彼の体から彼の魔力を奪い、また、代わりに入り込んだ邪神の魔力が彼の節々を固定して動きを止めていたからです。

 ティナさんと奇妙な服の少女が動けたのは簡単な話で、彼女らの体内からの魔力供給が吸われる量よりも多かっただけでした。だから、邪神の魔力が入り込む隙もなかったのでしょう。

 邪神が、私を上回るかもと言ったのはその膨大な魔力量を指しているのでしょう。


 カレンちゃんが動けた理由はちょっと不思議。体内の魔力は魔法陣に吸収されていたのに、入り込んだ邪神の魔力が違う質の魔力に変換され、それをカレンちゃんは自分の動きに使うことで走っていました。


『そうなのよぉ。生意気ぃ』


 悔しさよりも笑いを含んだような邪神の声が頭に響く。


 それから、ナベはやはり魔力的な透明人間でした。魔法陣から何ら影響を受けていない。盗賊を倒した時もナイフの効果でした。邪神はそのナイフの動作方式が不自然と言っていましたが、私はそんな細かいことを気にしない。


 ティナさんはやはり強い。それが再認識できました。


 あっ、離れたところにいた邪神の眷属が捕捉されていましたね。となると、ずっと監視しているガランガドーさんも存在を知られているんでしょうねぇ。


『そうねぇ』

『我はそんな下手を打たないのである。雲の上から見ているのであるぞ』


 警戒に越したことはないでしょう。ガランガドーさん、気を付けなさい。


『ガハハ、主は心配性であるな』


 心配はしていないですよ。攻撃されたとしてもガランガドーさんが負傷するだけだし。



 ところで、彼らはどこに向かっているんですか? 大男が訊いてきた一番古い祠かな?


『うむ。それとともに冒険者ギルドに登録して、その初仕事として草を採取するようである』


 あー、観光だとしたら悪いことしたなぁ。あそこ、小さな祠以外は原っぱで何も無かったからなぁ。



 さて、隣にいるカーシャ課長に目を遣ります。自分の両肩に腕を回し、身を小さくしていました。営業部の方なので大量の血を見るのは初めてで、ちょっと刺激的だったんですかね。


 私の視線に気付いたカーシャ課長が震えながら言います。


「メ、メリナ様……。あんな怖い人を見たのはメリナ様以来です……」


 は?

 もぉ、課長は冗談がうまいんだから。しかも、私以来ってつい最近のことじゃないですか。


「いやいや、課長。私は怖くないでしょ。ほら、毎日お昼を一緒に過ごす仲なんだし」


「……はい……」


「課長のストレスの原因が私だなんて誤解をまだ続けていたんですね。もぉ、じゃあ、肩をお揉みしましょう」


「お、畏れ多いので――」


「まぁまぁ」


「い、命だけはお助けをー!」


「あはは。力を込め過ぎて肉を抉り取るなんてことはないですよ」


「ひぃぃ」


 なお、優しく肩揉みをしたのに、余計に固くなった気がします。私の今の身分がそれなりに高貴だとはいえ元は一介の村娘ですのに、課長は緊張し過ぎですね。

 ……ってか、何故にこの人は課長に出世してるんだろ。フロンの方が有能って言っても過言じゃない。



「で、怖い人ってのは、このティナさん?」


 私はガランガドーさんにお願いして、薄く笑みを浮かべながら「殺さないから。苦しみだけ与えたいの」と言い放つティナさんのシーンを映し出してもらいます。


「そ、そうです……」


 体を震わせて怯えを表現する課長。大袈裟だなぁ。


「私、昔から感受性が高いのか……他人の目を見たら大体その人の気持ちが分かるんです……」


 課長がうつむき加減で呟きます。


「例えば、どんな感じなんですか?」


「お仕事でしたら、この人は何も買いたくない気分だなとか、アクセサリーよりも子供へのお土産が欲しそうとか、何か気持ち悪いこと考えてるなぁとか……。何となく人の気持ちが分かるから接客課での営業成績は良かったんです……」


 感受性というより観察眼ですかね。

 竜の巫女は何らかの秀でた能力を持つって、昔、アデリーナ様が仰っていたと思います。カーシャ課長の特技はそれだったんですね。


「へぇ。で、ティナさんのこの時の気分は?」


「は、はい……。本当に苦しみだけを、絶望だけを与えたいって思ってます……。心の底から。こんな冷たい人を見たことがない……」


「明るくて良い人でしたよ」


「……うぅ、でも、怖い人だって私は思ったんです……。間違っていても私はそう感じてしまって、どうしようもなく怖いんです……」


 確かに。私がどうこう言ったところで、課長の気持ちは変わらないか。


「じゃあ、こっちの人は?」


 奇妙な服の少女が飛ぶ矢を掴むシーンを課長に見てもらいます。


「……達観している感じです。『やれやれ哀れなヤツどもめ』。あっ、でもそれだけじゃないですね。奥深くに、悲しみと諦めと焦燥感を隠しているのかな……」


 ふーん。この女の子は無表情だから、私には分からないですね。

 でも、悲しみと諦めと焦燥感かぁ。便意を我慢している時に襲われたんですかね。だとしたら、諦めちゃダメですよ。お尻、頑張ろう。



 次に、ナベが盗賊に倒されて涙を浮かべている場面。


「これは簡単です。『殺されそう。まだ生きたい。誰か俺を助けろよ。おかしいだろ。理不尽』。この少年は素直ですね」

 

 それは当たってそう。

 あっ、もしもカーシャ課長の言っていることが正解だとすると、透明人間少年は盗賊にも勝てない非力なヤツってことで確定しますね……。そうなると、到底、神を名乗る程に強いシルフォルの関係者ではないってことで良いでしょう。


「この大男は?」


 カレンちゃんから「ナベが刺された」って伝えられたシーン。


「うーん、『楽しいなぁ。楽しませてくれ。もっともっとだ』って感じです」


 まぁ、「ガハハ」って笑ってましたからね。当たりの可能性もありますか。


「うぅ……。怖いの、見ちゃった……。絶対に夢に出てきますよね………」


 悩むカーシャ課長。しかし、私は慰めてあげるのです。


「ティナさんは敵じゃないから大丈夫ですよ。でも、課長の能力は素晴らしいと思います。戦闘の時もビビってるヤツを探れたり、相手の作戦を先読みできたりしそう。課長の能力、魔物駆除殲滅部向きですね!」


「うぅ、そんなの嫌ですぅ」


「巫女長にも推薦しておきます」


「メリナ様、うぅ、それは殺生で御座います」

☆新メリナ日記 13日目


 宿に帰ったらルッカさんが訪問してきた。旅する5人は害悪にならないと判断して監視を終えたみたいです。

 久々に2人で仲良く食事をしました。ルッカさんには何回も命を狙われたり、彼の息子の息の根を止めたりと色々ありましたが、完全に和解なんでしょうね。

 おめでたいのでお酒も頼もうと言ったけど、ルッカさんからもショーメ先生からも止められた。ベセリン爺にさえ、もう解除されたはずの禁酒令を盾に断られた。お酒様、会いたかったです。

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