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読み上げられた日記

「えっ……なんで読み上げたんですか?」


 日記の音読とか酷い。もしも自分の日記でそんなことをされたら、ショーメ先生は殺意満載の反撃をしてくると思うんです。


「私なりの奉仕です」


「は?」


 返答の意味が分からなくて聞き直す私を無視して、ショーメ先生はアデリーナ様に尋ねます。


「アデリーナ様、記憶を取り戻したいですよね?」


「……はい」


「では、皆でメリナさんの日記を読んで、昔のようなやり取りを思い出してみましょう」



◯メリナ新日記 1日目

 アデリーナ様が料理を覚えていた。

 あんまり美味しくなかったけど、偉い人なのに驕らず学ぶ姿勢は見習いたい。

 いや、驕ってはいたな。卵を割ってるだけなのに調子に乗っていた。今、思えば笑えます。

 反省してくださいね。



「アデリーナ様、ご感想は?」


「お姉様が私を見習いたいだなんて……嘘でも、るんるんです。アデリーナ、目がうるんるんなりそう」


「不正解です。むしろ悪化しています」


「ショーメ先生は手厳しい」


「お姉様、アデリーナを庇ってくれるんですか」


「いや、今の感想も鳥肌が立つくらいにキモいって思いましたよ」


「そ、そんな……」


「メリナ様、この愚か者に正解を教えてやってください」


「愚か者って……。言いたい放題ですね。でも、まぁ、ごほん。えーと、『メリナさんには驕っていたように見えましたか。そして、それを笑えると……。ふぅ、反省するべきはメリナさんでしょ? 血反吐を吐いて死になさい』。こんな感じかな?」


「えぇ……。アデリーナの口から血反吐なんて……」


「だいたい正解ですよ」


「そんな……。うぅ……アデリーナを苛めてるのね……。辛い……」


「で、どんな料理だったんですか?」


「あれ? ショーメ先生も同じ会場にいたじゃないですか。見てなかったんですか?」


「すみません。眼中になかったので」


「全部、卵料理でしたよ。店名も『女王と卵』とかだったと思う」


「……お姉様、美味しかった?」


「あんまり美味しくなかったって、はっきり書いてありますね」


「……うぅ、このおばさん、嫌い……。生きるの、辛くなってきた……」


「あはは、ショーメ先生、おばさんって言われましたね」


「……」


「えっ? ショーメ先生? 黙ってたら本当に怖いんですけど……?」



◯メリナ新日記 2日目

 伝えたかったのに伝えられなかった、この気持ち。綿毛になって飛んでいけ。

 いや、忘れないように日記にも書いておこう。

 アデリーナ様の自作詠唱句、今日も聞けて愉快な気分になれました。新作もお待ちしております。



「はい、アデリーナ様、どうぞ」


「ちょっ、ショーメ先生。そんなあからさまにぞんざいな態度は止めましょうよ」


「睨まないで……お願い……」


「睨んでませんよ。笑っております。にっこりにっこりるんるん」


「やばっ。アデリーナ様、ここは1つ謝罪をお願いします。執念深いショーメ先生が怒るとマジ怖そうだから」


「は、はい……。ショーメ先生、おばさんにおばさんって言ってごめんなさい!」


「ちょっ!! ここで火に油を注ぐんですか!? ショーメ先生、大丈夫です。ショーメ先生は童顔だからおばさんには見えませんから!」


「注いでいませんよ、メリナ様。何のことですか? 私はるんるんるんです、るんるんるん」


「……お姉様、この人、怖い……。大人なのに、るんるんとか言ってる」


「いや、アデリーナ様も同罪ですって! アデリーナ様、そう、感想です。先生を満足させる正しい感想を言うんですよ!」


「は、はい! えーと、えーと」


「早く、早く! ショーメ先生の笑顔が増して行く! 不気味!」


「……詠唱句って魔法の?」


「そう。それがどうしましたか!? 早く、早く!」


「うふふ、怒りで身体中からナイフが飛び出しそう」


「どんな特異体質なんですか!?」


「感想できました。言います」


「よくやりました、アデリーナ。さぁ、早く!」


「感想です。お姉様、お褒めに預かり嬉しいです。だから、新しい自作詠唱句を唱えます。えへへ。お星様、私の不幸を全部吹き飛ばして、あの人へー飛んでけー!」


「……えっ、わざと? アデリーナ様、ご自分の不幸をショーメ先生に渡す感じの呪いの詠唱句ですか?」


「ふーん。るんるんるんるん」


「謝って、アデリーナ様、謝って!」



◯メリナ新日記 3日目

 るんるんアデリーナ様が誕生した。いや、復活したと表現した方が良いのか。原因は不明。

 何にしろ、この国の行く末が非常に危うい。明日、関係者で緊急会議が開かれることになった。



「期待してませんけど、感想どうぞ」


「……ショーメ先生、私への態度みたいになっていますよ?」


「あら、すみません。はい、感想どうぞ」


「ぶちギレてる……。あんな些細な言葉で……。あっ、クリスラさんもそんな怒り方をした気がする。デュランの人はあの言葉に敏感なのか」


「メリナ様、ぶつぶつ煩いですよ」


「やめて……お姉様を責めないで」


「いや、アデリーナ様が素直に謝らないからなんですよ」


「日記の感想を言います。昔の私を知らないけど、今の私はお姉様がいるから幸せです。だから、バイバイ昔の私。そして、バイバイおばさん」


「……怖い。隣の人も正面の人もマジ怖い。朝から私は地獄です」



◯メリナ新日記 4日目

 るんるんアデリーナ様は全然るんるんしていなくて、私は立腹しました。

 明日から根性を叩き直してやります。反抗するなら鉄拳制裁です。



「メリナ様、鉄拳制裁の出番ですね」


「いや、えっ? 今?」


「今でしょ」


「今のアデリーナはるんるんしてるもん。るんるん」


「メリナ様がしないなら、私がしましょう」


「いや、ショーメ先生は手加減を誤るところがあるから――」


「すみませーん。毒入りのお肉を用意してくれますかー? 先日、メリナ様にお出したヤツ」


「なっ!?」


「お姉さまをっ! 苛めていたのっ!?」


「そんな人聞きの悪い……。少しお腹がぎゅるぎゅるしただけですよね?」


「おしりの穴が燃えるようにヒリヒリしました!」


「許さない! 私は人生で1度しか怒らないけど、怒ったら世界が崩壊するの! だから、早く、お姉様に謝って!」


「……メリナ様?」


「いや、その設定を覚えているんだと驚きました。ちょっと面白い。記憶石って余ってないかな。今のセリフを保存しておきたいです」



◯メリナ新日記 5日目

 アデリーナ様に小屋の床拭きを命令。四つん這いで雑巾を使うアデリーナ様を見ていると尻を蹴り上げたくなります。でも、我慢。私、偉い。今日もるんるん言わなかった。

 明日こそ、言わせたい。



「ふぅ、冗談です。アデリーナ様、謝罪致します。メリナ様と同じようにからかうのも面白いですね」


「えっ……はい。謝ってくれたら良いです……。こちらこそ、ごめんなさい」


「雑な和解ですね」


「メリナ様、煩いですよ。ところで、どうしてアデリーナ様にるんるん言わせたかったのですか?」


「聞かせてあげる。るんるんるんるん」


「アデリーナ様、煩いですよ」


「どうしてって、るんるん言っているアデリーナ様が面白そうだから見てみたかったからってだけです」


「見て。お姉様、もっと私を見て」


「グイグイ来ますね」


「……そうなんです。まさか、こんなになるとは……」



◯メリナ新日記 6日目

 ケイトさんが畑を耕していたので、アデリーナ様にお手伝いを命じた。丁寧に一本一本苗を植えるアデリーナ様は前のアデリーナ様よりも立派かもしれない。泣き言は言うものの、やることはやる。

 なお、ケイトさんが植えるものなので、毒草に間違いなく、夜中に全部引っこ抜いた。



「毒っ! お姉様はそんなに命を狙われているの!?」


「何ですかね、このアデリーナ様の反応は。妙にメリナ様を心配する感じです」


「ふむぅ。生前も私を守ろうとしていましたね。その結果がこれで、全くの力不足でしたが」


「生前って」


「ショーメ先生が先に言ったんですよ」


「命を助けてもらって力不足って」


「まぁ、それは言い過ぎました」


「お姉様、こんな危険な国は去りましょう。アデリーナはお姉様と2人ならどこでもるんるんだから」


「聖竜様の御座すシャールを離れたら、私はるんるんしないから」


「アデリーナ様、ひょっとしてメリナ様が好きですか?」


「うん。好き」


「ひっ!」


「性的に?」


「ひぃぃ!!」


「性的? それが何か分からない……」


「ふぅ」



◯メリナ新日記 7日目

 今日は私の仕事である洗濯業務を奪おうとしたアデリーナ様に落ち葉を集めて捨てるように命じる。

 林に入ったアデリーナ様を観察していた時、遂に私は目撃する、るんるんを。

 私とアシュリンさんの喧嘩で作られた切り株に座り、手に乗せた小鳥と口付けするアデリーナ様。病気を移されるんじゃないかという危惧は一切見せずに「るんるん」って言いやがりました。

 その後、賢いモードのエルバ部長がやって来て、マイアさんに逢わせた褒美として、私が本殿の案内係に異動となったことを聞いた。



「メリナ様、さらっと流そうかと思いましたが、異動なんですか?」


「えっ? あはは、念願が叶いました。目敏いなぁ、ショーメ先生は」


「お姉様……。アデリーナもご一緒したい……。我が儘かな?」


「組織の決定ですからねぇ、残念。アデリーナ様は巫女長と楽しい魔物駆除殲滅部生活をお送りください」


「うぅ、辛い……。死にたい……」


「ショーメ先生、我が国の女王陛下が死にたいって言ってますよ」


「そうですね。で、えーと、そうなるとメリナさんが抜けた後の魔物駆除殲滅部って、巫女長さんと、ルッカさん、フロンさん、フランジェスカさん、アデリーナ様の5名ですか?」


「そうなりますね。フランジェスカ先輩が可哀想だから、先輩の異動もお願いすれば良かったなぁ」


「死にたい……」


「軽々しく死にたいって言う人は死にませんから」


「冷たっ。先生、奉仕の心は?」


「素直に助けてと言えば良いのです」


「た、助けて……」


「ご自分で頑張りましょうね。さて、で、メリナさんの異動について他のメンバーは?」


「巫女長とフランジェスカ先輩からは『頑張ってね』って言われました。ルッカさんはずっと不在ですねぇ。フロンは元気ないです」


「フロンさんが?」


「気になって訊いたら『簡単に堕とせるアディちゃんだと燃えないなぁ。はぁ』って話でした。訊いて損しました」


「た、助けて……。うぅ、辛い……」


「すみませーん。メリナ様に毒入りのお肉をお願いしまーす」


「ま、またお姉様のお尻を狙うのっ!?」


「元気になれて良かったですね」


「いや、アデリーナ様の私に対する異様な執着に震えそうなんですけど……」



◯メリナ新日記 8日目

 案内係の元締めから、まだ来なくて良いと言われたので、アデリーナ様の観察を続行した。

 おだてると結構な頻度で「るんるん」言うようになりまして、今となっては、飽き始めている私がいます。

 ここはふーみゃんを投入すべきでしょう。精神安定剤になる可能性があります。その為にはルッカさんの帰還が望まれる。



「ルッカさん、どうされているんですか? 世界最強決定戦の後、どこかに飛んでいきましたよね?」


「マイアさんとヤナンカを追うようにお願いしたんですよ。大丈夫かなぁ」


「いっそのこと、ルッカさんにアデリーナ様を咬んでもらえば?」


「ルッカさん、咬んだ人を操ったりできるから、アデリーナ様を意のままにされるのはなぁ」


「それで良いのですよ。今のアデリーナ様なら、ルッカさんが操った方がマシですよね。お国のためです」


「こわっ。国の支配者がいつの間にか魔族に代わっていたなんて、国民には悲劇ですよ」


「……お姉様、アデリーナからも質問があります」


「ん? どうぞ」


「ふーみゃんって、もしかして、お母様が私にくれたふーみゃん……?」


「そう。黒猫ふーみゃんです」


「生きてたんだ……。お姉様、私はふーみゃんと出会いたい!」


「いやー、ルッカさん次第なのと、今はふーみゃんの元気がないんですよねぇ」


「ルッカって人を紹介して欲しい! ……ダメ……ですか?」


「構わないですよ。ルッカさんが戻ってきたら、私から頼んでおきます」


「あぁ! お姉様、ありがとう! 大好き! その、あの……今晩から一緒のベッドで寝ませんか?」


「本当にグイグイ来ますね。突然過ぎるでしょ。でも、前向きに検討してはどうですか、メリナ様?」


「るんるん日記第2章を思い起こしたので不許可です」


「うぅ、辛い。死にたい……」

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