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閉会後の雑談

「最後まで立っていたのは、やはりメリナとアデリーナ! 戦闘で右に立つ者はいない、豪の者達ー!!」


 ローリィさん、ノリノリだなぁ。

 観衆も大声で私達を祝福する。


 私はアデリーナ様に近付く。


「お疲れ様です」


「えぇ。剣王如きに時間を掛け過ぎました。反省で御座いますね」


 立つ気力も失くして呆然としている剣王を前に、堂々とそんな言葉を言い放つアデリーナ様はやはり鬼。



「結局、品性と知性は余り評価されませんでしたね」


「えぇ。私の独擅場で御座いましたのに残念です」


 私も自信が有りましたが、一応は幼い頃から教育を受けているアデリーナ様には敵わない気もします。張り合わずに何かほざいてるくらいの気持ちで、優しく黙って聞いてあげましょう。



 回復魔法を全員に掛ける。特にパウスさんは大惨事になっていまして、流石にアシュリンさんであっても夫の男性機能が喪失されたら怒るかもしれなかったのです。

 それを終えた後に私達は壇上へ誘導され、観衆から大歓声を受けました。私、忘れずに「ノノン村に悪さしたら、容赦なく駆除します」って宣言しました。殺気もお見せしたので、その瞬間だけは会場が静かになって、ガランガドーさんが上空を飛ぶ音が響くだけみたいな感じになりました。

 でも、すぐに元の喧騒に戻る。冒険者だけでなく普通の旅人の方々もいらっしゃいまして、皆、楽しそうです。私達は暇潰しに都合の良い出し物になっていたのかな。


 アデリーナ様でさえ、頭を下げて皆の祝福に礼をしました。



「さて、じゃあ、依頼主のところまで案内しますね」


 撤収作業が終わって、ギルド職員用の天幕の中で待っていた私達にローリィさんがそう言いました。


「明日にしましょう。疲れました」


「えー。でも、依頼主とは今日で約束しているんですけど?」


「断りを入れてきなさい」


 アデリーナ様は毅然とした調子でそう答えます。


「もぉ、我が儘。分かりましたよ。私、一人で行ってきますから。どうなっても知りませんよ? 成功報酬の大金をくれなそうだったら、絶対にもう一度呼びに行きますから。貴女方が竜神殿の人達だって、私は知っているんですからね」


 そりゃ知っているでしょう。巫女服なんだもん。ってか、何回かそういうチーム紹介をしていたでしょうに。

 それよりもローリィさんはアデリーナ様がこの国で一番偉い人だってことを知らないのか?


「はい。とりあえず優勝賞金の半分の半分です。残りはちゃんと依頼主の所に行った後に支払いますからね」


 ぎっしりと中身が詰まった皮袋を頂きます。アデリーナ様はそれを私に与えてくれました。全部くれるのでしょうか。太っ腹です。有り難くお受け取り致します。



 天幕から出た私達をお母さんが出迎えてくれました。その後ろにも参加者の方々の顔が見えます。私を待っていてくれたのでしょう。


「お疲れ、メリナ。おめでとう」


「うん」


「体に痛いところとかない? パウス君に突かれたりしていたでしょ」


「ううん。あれくらいなら慣れてる」


 お母さんは心配してくれているし、怒っていない。ノノン村のアピールをしたから。ミッションコンプリートのご褒美です。


 私はオロ元部長に優勝賞金を渡し、オズワルドさんに届けてもらうように頼みました。

 それから、もう1つお願いを言います。


「オロ部長……その……竜神殿に戻ってきてもらえませんか? 魔物駆除殲滅部に部長が居ないと寂しくて」


 答えは“ダメです″でした……。巫女長の天下はまだ続くのか……。

 ガッカリして下を向いている私に次の紙が差し出されます。


“私は何百年も生きていて、色んな人との出会いと死別を経験しています。これから先もそう。私が居ないことを寂しがってくれるのは嬉しいけど、メリナさんとは永遠の別れじゃない。また会えますよ。でも、約束します。メリナさんの死期を察知したら、どこにいても私は駆け付けるから″


 別に寂しいからでなく巫女長と離れたくての発言が本音だっただけに、反応に困る。

 でも、オロ元部長は私の味方なんですね。それがはっきりして良かった。


 オロ元部長は土を素早く掘って姿を消しました。他のノノン村方面の方々も、お母さんを先頭に乗り合い馬車を待っています。ギョームさんやナトンさんは何処で買ったのかお土産をいっぱい抱えていますね。



 さて、まだ私に近付く人が居ました。


「ミーナちゃん、元に戻ったんだね」


「うー、メリナお姉ちゃん……。また負けた……。逃げちゃ嫌だよ」


 本当に悔しそうな顔です。


「あはは。あのザリガニモードだったら、本当に負けるかもだね」


「そんなことないもん。あんなに大きかったら、メリナお姉ちゃんの魔法で倒されるもん」


 ちゃんと分かってますね。全ての攻撃が致命傷になるって条件でなければ、私は逃げなかったと思う。

 でも、フォローしてあげないと。ミーナちゃんは素直で良い子だから腐らずに成長して欲しいんです。


「アデリーナ様の光の矢が頭を貫通しても生きてたよ」


「ぶぅ」


 あはは。それも触れてほしくない話だったのかな。


「……ミーナも遠くから攻撃できる魔法を覚えようかな。マイア様に教えて貰ったの、敵の近くで使うヤツだけだから」


 あっ、魔法使えるのか。それは初耳でした。


「エルバ部長に頼めば良いと思うよ。魔法学校の先生らしいから」


「えっ、あの子? ……あんなに小さいのに魔法使えるんだ……。偉そうにするだけでなく、使えば良かったのに。うん、分かった。今度聞いてみる」


「頑張って、ミーナちゃん」


 彼女は大剣を引き摺って街の方へと向かいだしました。あっ、ミーナちゃんのお母さんが出迎えてますね。私に頭を下げてからミーナちゃんに手を振って合図しています。



「メリナさん、私は成長したつもりでしたが、貴女はもっと遠くに行かれていたようですね。完敗です」


 今度は、ショーメ先生を後ろに従えクリスラさんが寄ってきました。


「ボス、相変わらず痺れる強さだったぜ」


 旦那であるガルディスもいます。こいつも戦いを見ていたんでしょうが、自分の嫁さんを蹴られての感想がそれで良いのでしょうか。


「ショーメ先生と同時に襲われたら、どうなっていたか分かりませんでしたよ」


「心にもないことを。それでも勝てなかったでしょう」


「だから、機会が来るまで様子を見ましょうと進言したのですよ、クリスラ様」


 ショーメ先生が呆れた感じで言いました。先生のメイド服は前から見ると普段通りですが、背中側は私の攻撃で穴が開いて1部の素肌が見えているんですよね。エロチックです。


「マイア様が戦力温存と仰ったのですから、フェリスが正しかったのでしょう。それでも、私はメリナさんと力比べをしたかった」


 クリスラさんは武闘派だから気持ちを抑えきれなかったんですね。真っ直ぐに私へ向かってきてましたもの。2年前まで粛然な聖女様だった面影が全くない。


「ボスと殴り合いたいだなんて、クレイジーだぜ。それがいーんだけどな」



 彼らも去り、私も家路に着こうと思います。アデリーナ様は何やら軍人さんに命令をしていますね。この数日、ばか騒ぎしていて国を動かすお仕事が滞っていたのかもしれません。アデリーナ様はおバカですから。


 そんなことを考えていたら、目の前に人影が降りて来る。


「巫女さん、本当にストロングね」


 こいつか……。魔族ルッカ、私が命を落とすとしたら、こいつの仕業かもしれない。が、もう流石に私への敵意はないはず。死んだはずの息子と話ができて、涙を流して私に感謝していましたもの。

 でも、ルッカさんには何回も裏切られたんだよなぁ。


「ミーナちゃんの件、ありがとうございます」


「良いのよ。私もデリシャスな魔力が吸えて両得なんだから」


 笑顔だけど本心は分からない。


「全部見てました?」


「オフコース。目になるのも私の役目だからね」


 フォビに情報を送っているってことか。


「すみません。ルッカさんの情報収集能力を見込んで、マイアさんを追ってくれます?」


「オッケーよ。マイアさんが向かった先は、きっと巫女さんを殺せる人。それってインタレスティング」


「軽っ。私が死ぬかもしれないのに興味だけで動くんだ」


「ヘビー過ぎるのを経験したから、こうなるの。大丈夫。私は巫女さんの味方」


 ……果たしてそうなのか、一抹の不安は残ります。ちょっとつついてみるか。鬼が出るか蛇が出るかみたいな感じになるかもしれませんが。

 って、アデリーナ様かオロ元部長が出てくるみたいな比喩になってしまった。



「私の精霊、聖竜様じゃない聖竜の件、どこで知りました? 私だけを巫女さんって呼ぶの、それが理由ですよね?」


「それはシークレット。それじゃ、巫女さん、マイアさんの行方が分かったらコンタクトするから」


 口を割ることをあっさりと否定して、ルッカさんは飛んでいくのです。信用しにくいヤツだなぁと思いました。

◯メリナ新日記 2日目


 伝えたかったのに伝えられなかった、この気持ち。

 綿毛になって飛んでいけ。

 いや、忘れないように日記にも書いておこう。


 アデリーナ様の自作詠唱句、今日も聞けて愉快な気分になれました。新作もお待ちしております。

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