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メリナの考え

 あー、やられてる。

 あの賢いモードのエルバ部長、強引なんだよねぇ。るんるん日記の時の非道な仕打ちを思い出してきましたよ。


 マイアさんが固まっている。でも、ヤナンカが心配して近寄った時には、その硬直は収まっていて、私の時よりも短いのがずるいと思いました。


「最後の誰の視点?」


 マイアさんがエルバ部長に尋ねる。その声はいつもより低い。これは怒ってるね。


「あの後、私を取り込んだ魔法使いだね。彼も優秀だったよ」


「その記憶が改竄されている可能性は?」


「ないよ。私は精霊だから分かるもん。それに、昔の記憶は違う空間で保管してるんだよ」


「シルフォに関しては消されていたようだけど?」


「あはは。異空間に通じる魔力ルートに仕掛けがあったの。ちゃんと直したし、他の精霊にも確認してもらったから大丈夫。さっきの完全な記録だから安心して、マイアちゃん」


 賢いモードの言っている意味が分からないけど、マイアさんは納得していた。


「そう。ありがとう。ヤナンカ、殴りたいヤツが変わったわ」


「誰ー? シルフォ?」


「当たり。シルフォを殴る。新しい玩具がフォビで、古い玩具が私って訳よね。許せない」


 シルフォは7人目の英雄の名でしたね。玩具はちょっと分かんない。エルバ部長に見せられた記憶の中の話かな。


「あいつの魔力の質も覚えた。今から探すわ」


「ヤナンカもきょーりょくするよー。どーせ、大会は敗退したしー。……メリナの件はどーしよーもないしー……」


 うん? 私?

 ヤナンカが申し訳なさそうな目で私を見てきたのが非常に気になる。



「そっか、メリナさんの件か。うー、そうね。あー、もぉ、そっちも問題だったか」


 マイアさんが珍しく苦悩する様子です。


「んー、もう良いや」


 あっ、考えるのが面倒になって投げ出したね。マイアさんは賢いのに、諦めが早い傾向があります。


「はい、皆さん、聴いて。私に与えられていた未来予知の結果だと、大会の後にメリナさんが殺されます。勝っても負けても棄権させても、どうやっても。彼女が死んだ結果、その魔力で大魔王が復活するので、皆で協力して大魔王を倒しましょう。だから、午後からの戦いでは本気を出さずに戦力温存でお願い。分かった? 手の内は大魔王戦でよろしく。それから、メリナさん、難しいかもしれないけど、可能な限り死なないで。ヤナンカ、行くわよ」


「あー、言っちゃったんだなー。メリナー、気を落とさずー頑張ってー」


 呆気に取られる私達を残し、2人は転移魔法で消える。



 えーと……私が死ぬの?


「メリナさん、マイア様のお言葉ですので真実でしょう」


 すぐにクリスラさんがそんな事を言いました。


「困りましたね。まだオズワルドさんから盗ん――」


「あー! あー、あー!!」


 ショーメめ、ここにはお母さんがいるんですよ。本当に殺されるでしょ!


「メリナっ! ご愁傷様である! が、お前なら何とかするだろう!」


「あぁ、こいつが殺されるなんざ、あり得ねーだろ」


「ゾルの言う通りだ。ルーさん、心配しなくて良いからな」


「えぇ。メリナは強いから不安はないわ。強いて言うなら、拾った物は食べちゃダメよ」


「うん。食べないよ……」


 心配して欲しくはないけど、信頼され過ぎるのも戸惑うなぁ。

 皆、すごく楽観的でして、私は逆に不安になりました。しかし、この雰囲気をアデリーナ様が机をバンっと叩くことで一変させます。


「由々しき事態で御座います。マイアが嘘を吐く必要がない。つまり、真実で御座います。メリナさんが死ぬという現実を見据えての対策が必要で御座います」


 全員が注目する。ザリガニのミーナちゃんでさえ、触覚の動きを止めて緊張したのが分かります。

 ベッドの上で飛び跳ね続けていたギョームさんもナトンさんに怒られて、バツが悪そうです。

 そして、アデリーナ様の中では既に私が死ぬことが確定事実となっていて、ビビります。



「うふふ、聞いて。私に名案があるわよ」


 巫女長がゆったりとアデリーナ様の前に進みます。静かな威厳を感じるのは、私が巫女長に救いを求めているからでしょうか。


「聞きましょう」


「聖竜様に祈るの。ほら、メリナさんは聖竜様とお会いしたことがあるくらいにお気に入りなんでしょう? きっと助けてくれるわ」


 っ!?

 巫女長! 私は貴女様を誤解しておりました! あぁ、何て素晴らしいアイディア! 竜の巫女の頂点にお立ちになられるお方に相応しい!

 想像するのは、私の命を守るために凛々しく重い腰を上げる聖竜様! 是非見てみたい!


「却下で御座います」


「どうしてですかっ!? 聖竜様以上に強い者はおりません!」


 残念な顔をする巫女長以上に私は抗議します。


「聖竜の実力は認めましょう。しかし、マイアもその可能性は考えたでしょう」


 グッ……。それはそうですが……。

 あっ、そうか。万が一の可能性ですが、聖竜様が私を守りきれなかった時、聖竜様は深く嘆き悲しむことが予想されます。その涙は洪水となり、呻きは暴風となって地上を破壊する。そして、何より最愛の私を失くした聖竜様は闇落ちして、世界を破壊してしまうかもしれない。

 そういうことですね、アデリーナ様? 万が一にもない可能性ですが、そういうことです。


 オロ元部長が手を挙げる。

 そして、メモをアデリーナ様に手渡します。


「カトリーヌさんの案を発表します。大会の決着を付けなければ良い、とのことで御座います」


 なるほど、大会後に私が殺されるのですから、大会を終わらせなければ良いというトンチですね。


「残念ながら、足りません。その程度で解決できるなら、マイアが提案していたでしょう」


 ふむぅ、まぁ、そうでしょうねぇ。



「はい、私からも良いですか?」


 皆が黙り込むので、私が挙手して許可を求めます。


「マイアさんが恐れているのは大魔王の復活ですよね? 私が死んだら大魔王の復活するとかの理由で、私に死なないように言ったんだと思います。それっておかしくないですか?」


 私の質問に誰も答えませんでした。アデリーナ様を見ると、発言を続けて良いみたいなので続けます。


「私自身の事だってのもあるけど、1番大切なのは私が死なないことで、大魔王の復活じゃないです。だから、大魔王を先に復活させて、私も一緒に戦いますよ。ってか、私を殺しに来るヤツを殺します」


「メリナが頼もしくなってるわ……」


 お母さんの感嘆が気持ち良い。


「なるほど。メリナさんは自分の未来を切り開くという訳で御座いますね」


「ちょっと大袈裟ですね。マイアさんの未来予知なんて当たるかどうかも分からないじゃないですか。そんなもん信じませんよ、私は」


 パチパチと剣王が拍手する。それに遅れて、パウスさんも続く。


「流石は拳王だぜ。己の死さえも恐れない強さはスゲーぜ。ミミなんか、本当にヤバイから帝国とか遠いところにお前を移せとか言ってたんだぜ」


 邪神め……。お前、私の守護精霊のクセになんて提案をしてやがる。守る気なしか?


「あぁ、本物の戦士だな。ルーさんの娘らしい。マイアってヤツの言葉は俺も信じないぜ」


 褒められても嬉しくないのが凄い。



「メリナちゃん、それで良いの? 死ぬかもだよ?」


 未だ賢いモードのエルバ部長が私に問い掛ける。


「一昨日もショーメ先生に毒殺されそうになったけど無事でした。今回も大丈夫です」


「メリナさん、人聞きが悪いですよ」


「はぁ? 先生のせいで私のお腹とお尻がどれだけ痛んだか知らないから言える言葉です」


「毒が入ってるって書いたのに、あんなに食べるからですよ。改めておバカ具合に驚きました」


「グハハ! メリナは昔から毒に弱いからなっ!」


 お母さん、お願いだから、人でなしのこいつらをこてんぱんにしばいてやってくれないかな。


「メリナさんが覚悟していないことを理解しましたが、決意も理解しました。メリナさんらしい。了解で御座います。このまま優勝を目指しましょう」


「はいな!」


 まだ少しだけ暗い雰囲気を吹き飛ばすように、私は努めて明るく返事をしました。

 お料理は楽しく食べないといけませんからね。

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― 新着の感想 ―
[一言] いいぞ大魔王なんか聖母竜様がぶっ〇してくれるぞ
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