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日記を読みつつ反省会

 多少のトラブルはありましたが、無事にお料理対決が終わりました。

 結果発表は明日ということで、今は宿の自室に戻り、アデリーナ様と反省会です。私との間にあるテーブルには、余った卵料理が2皿ほど置かれています。


「メリナさん、あれはどういった事情での行動で御座いますか?」


 ギルド職員を襲った件でしょう。半殺しにしてやりましたが、死ぬ寸前に回復魔法で完治させてますから安心です。見廻り兵さん達は……まぁ、勢いですから大丈夫です。

 お祭りですから、少しくらいは喧嘩の花が咲いた方が盛り上がると考えてもらえないでしょうか。

 お母さんも満足していました。ノノン村に手を出したら、正規兵の1部隊以上の戦力が必要って周知する結果になりましたからね。


 しかし、私は賢い。

 そんな無理筋な言い訳をアデリーナ様に申したところで怒られるに決まっています。正直に説明するのが一番です。


「いやー、何て言うかなぁ、アレですよ、アレ。マイアさんとヤナンカに唆されたって言うか……」


 2人の名前を出すとアデリーナ様の目が鋭くなる。いやー、怖いなぁ。


「続けなさい」


「はい……。私の本能を刺激するような言葉を頂いたんですよね」


「戦闘本能で御座いますか? 凶暴化する魔法でも掛けられた?」


「いえ、ちゃっと違うかなぁ。もっと、なんだろ、子孫に繋がる崇高な感じの本能?」


「ん? あぁ、聖竜との仲を云々とか?」


 おぉ、よく分かりましたね。私が驚いた様子を見て、アデリーナ様が呟く。


「性欲で御座いましたか……」


「キャッ! 恥ずかしい!」


 私は手で覆って、赤くなった顔を隠します。



「メリナさん、反省なさい。貴女の愚行のせいで私どもは最下位になったでしょう」


「あはは、あれで失格にならないとか、冒険者ギルドも意外に度量が深いですよね」


「全くで御座います」


「大体ですよ、品位なんて主観的ですよね。そんなので評価するとかおかしいと思いませんか?」


「自らの行いを省みる事が出来ない者は、決して成長致しません。メリナさん、私は貴女の為に言っているのですよ」


 うわっ。見習いの頃のアデリーナ様みたい。


「と言うことで、日記を読ませなさい」


「えー」


「そして、悔い改める点を述べるのですよ」


「そんな点、無いですよ」



◯メリナ観察日記39(ベセリン爺)

 お嬢様はショーメ様と和気藹々とレポートを作成されております。お2人は本当の姉妹のようです。この平穏で幸せな生活が末長く続くように、爺は聖竜様にお祈り申し上げます。


「続きませんでした。ごめんなさい」


「どうされました、メリナさん?」


「平穏で幸せな生活は続きませんでした。私、ショーメの野郎に毒を盛られました」


「可愛い悪戯でしょうに」


「悔しさとお腹とお尻のお穴の痛みで、私はトイレで涙を流していたんですよ! それに、背後から刃物で刺そうともされました! あれ、本気でした!!」


「真剣勝負の中での出来事です。水に流しなさい。あと、穴は普通に言って良いでしょ。いや、失言でした。普通はお尻の痛みなんて他人に説明しませんよ」


「許しを乞うくらいの可愛らしさがショーメ先生には必要だと思うんですよね。まぁ、私のシャールの湖くらいに広い心で、許してやりますけど」



◯メリナ観察日記40(デンジャラス・クリスラ)

 メリナさんに頼まれて彼女の日記を付けます。

 数日前に出会ったばかりだと言うのに、彼女の奥底に潜む魔力が高まっていることに気付きました。

 最早、私には到底届かない領域だと恐れを抱くものの、武を愛する者同士として挑戦したいのも事実。

 叶うならば、聖女決定戦の時のように肉や骨を削り合う戦いがしてみたいものです。私にリンシャル様の加護がありますように。



「クリスラも血の気が多いで御座いますね」


「はい。武を愛する者とか聖女の対極だと思うんですよ」


「王都と潜在的な緊張状態にあったデュランですから、そこの聖女は強くなければならなかったので御座いますよ」


「そういや、イルゼさんの次の聖女ってどうなります? 色々と努力しましたが、もうイルゼさんの心は壊れてますよね。取り換えた方が良いのでは」


「メリナ正教会が崩壊して、まだ日が浅いでしょ。その内、また何かを崇め始めて心のバランスを保つようになると思っております。心配は要りませんよ」


「アデリーナ正教会にすれば良いのに」


「それは既に存在します」


「え?」


「聖竜教の分派として作ってみたので御座います。ほら、オズワルドがたまに私を崇めておられたのを覚えておりません?」


「覚えてる! ぶつぶつ呟いてた!」


「まだ実験段階で御座いますが、改善を繰り返して、後々には王国統治の道具にしようかと考えております」


「うわぁ、政治の汚い部分を唐突に教えられました……」


「アデリーナ正教会のモットーは清く正しく慎ましやかに、で御座います」


「1つもアデリーナ様に当て填まらないじゃないですか……」


「こらこら、メリナさん。失敬なことを言わない。で、この日記で悔い改める点は?」


「えーと……えーと……何かあります……?」


「無いことは無いでしょう? ご自分の胸に手を当てて考えてご覧なさい」


「あんまり美味しくないと思ってごめんなさい、アデリーナ様の卵料理を」


「メリナさん?」


「民衆からの人気もあんまり無かったですね。あっ、味の話ですよ」


「メリナさん!」


「でも、人柄も人気なかったのかもしれませんね。生き様を反省しましょう」


「メリナっ!!」



◯メリナ観察日記41(ナタリア)

 メリナさんが家に来ました。

 メリナさんはいつも明るくて良い人です。

 なので、ファル姉さんを虐めないでください。

 ショーメ先生って言う人も来ました。

 メリナさんをいじってる姿は頼もしかったです。

 皆のために、メリナさんをもっと教育した方が良いと私は思いました。

 私もいつかレオン君と冒険者になって、2人でメリナさんに勝ってみたいです。



「心を乱されましたが、落ち着きました。これが王者の品格で御座います」


「すみません。一方的に私だけ反省するのはどうかと思いまして。反省すべきはアデリーナ様の方ではないかと」


「今のも私を試したのでしょうが、そんな安い挑発には乗りませんよ。さて、ナタリアもだいぶ文字を覚えたようで御座いますね」


「はい。元から賢いんでしょうね」


「しかも、メリナさんへの悪感情を所々表す度胸」


「ちょっ! 私、傷付きますよ。うっすら感じているんですから、はっきり言わないで下さい」


「フロンの影響でしょうね」


「それは間違いないです。このままでは、ナタリアが淫乱売女になってしまいます」


「フロンを慕っているといっても、同じく淫乱になるとは限りませんよ」


「いやー、そこは分かりませんから。最悪、純朴なレオン君が夜這いされるとかありそうですよね」


「それはそれで男女の仲としては許容範囲で御座いましょ。奥手同士で先に進まないよりマシだと思いますが?」


「ふむぅ、そうかもしれませんね。私と聖竜様みたいになってしまうか……。清純なのも過ぎるとあれですね。うーん、難しいなぁ。……ところで、アデリーナ様?」


「何で御座いますか?」


「アデリーナ様は恋人がいたことないのに、男女の機微を自信満々に話しましたね。それって説得力ないですよ。本からの知識ですか?」


「メリナっ!!」


「反省しましょうね」



◯メリナ観察日記42(フェリス・ショーメ)

 クリスラ様に誘われたので、世界最強決定戦とかに参加します。メリナ様が一番の障害ですので、朝食に毒を混ぜておきますね。

 大丈夫です。死にはしなくて、お昼くらいにお腹がギュルギュル鳴る程度ですから。

 ここに書いたから、いくらメリナ様であっても食べはしないと思いますが、食べても私を恨んじゃダメですよ。自己責任ですよ。



「無礼者の首を刎ねたいのを我慢して、平静を保てました。私の慈悲と度量に感謝なさいませ」


「ありがとうございます」


「ふむ。しかし、フェリスはメリナさんをよく分かっている。ここまで書いているのにメリナさんは普通に朝食を取るなんて……」


「わざわざ書くから、気になったんです。そしたら、凄く美味しそうで……。うぅ、食べずに出掛けることもできたのに」


「フェリスの作戦勝ちだった訳で御座いますね」


「うぅ、酷い……。お腹がギュルギュル鳴るくらいじゃなかった」


「ところで、メリナさん、このフェリスが書いている毒を盛った理由ですが、関連して憂慮すべき点があることに気付きました」


「私のお尻の件ですか……? ご心配、感謝します。未だにヒリヒリ――」


「それはどうでもよろしい。詳しく説明する必要もないので黙りなさい」


「私だって言いたくなかったのに」


「マイアとヤナンカから唆された件です。メリナさんの力を恐れ、蹴落とすための策略だとしたら?」


「へ? 2人はギルド職員に完敗して、だから、代わりに私に倒して欲しいって言ってきたんですよ」


「屋台対決に、結局あの2人は参加しており、悔しいながらも、私の屋台『女王と卵』よりも人気で御座いました」


「っ!? そうですね……。マイアさん、『もう降りる』って言ってたのに料理は作り終えていた……。えっ、まさか……」


「効率主義者の2人がそんな真似をすると思いますか? 諦めたなら無言で帰宅して終わりで御座いますよ」


「明日、本当のところを尋ねてみます。私としては聖竜様との仲を取り持ってくれたら満足ですし」


「メリナさん、私からアドバイスです。聖竜は神であるフォビを深く信頼している。仲を取り持ってもらうならフォビを説得すべきです。そして、恐らく神が関与しているこの大会で優勝することで、神への繋がりを掴むのがよろしいと存じ上げますが?」


「クッ。そうかもしれません……」


「勝つべきでしょう。貴女は聖竜の為に、私は神を目指す為に」


「心を入れ替えて頑張ります……」



○メリナ観察日記43

 めりなおねえちゃんはつよい

 みーなをなぐってみーなのふうとうをやぶりすてた

 わらってた

 しょうりのえがお

 みーなもあんなにつよくなりたい



「ミーナの心が歪んでおりますね」


「ですよね。このままではクズな大人になりますよ」


「彼女が目指しているのがメリナさんだから無理も御座いません」


「ん? それって、私がクズってことですか?」


「理解が早くて助かります」


「酷い誤解です。でも、そうですね。ミーナちゃんに悪影響がないようにお手本とならないといけませんでした」


「真っ当な意見だけに、却って不安になるのは流石メリナさんで御座います」


「意味分かんないです。明日からはミーナちゃんに優しく接しますよ」


「と言いながら、鼻っ柱に膝を入れて吹き飛ばしたりするので御座いましょうねぇ」


「どんなシチュエーションでそうなるんですか……。アデリーナ様の妄想こそ、不安になるレベルですよ」


「だと良いのですが。それでは帰ります。本日はお疲れ様でした」


「あっ、日記を書いてから帰って下さい」


「面倒ですので、ご自分でお付けなさい。あっ、明日以降もご自分で書いてよろしいですので」


「自分が面倒だと感じるものを他人に書かせるんですか? なんて傲慢。傲慢にして拷問」


「はい。それではごきげんよう」

◯メリナ新日記 1日目


 アデリーナ様が料理を覚えていた。

 あんまり美味しくなかったけど、偉い人なのに驕らず学ぶ姿勢は見習いたい。

 いや、驕ってはいたな。卵を割ってるだけなのに調子に乗っていた。今、思えば笑えます。

 反省してくださいね。

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