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アデリーナ様の犯人捜し

 ルッカ姉さんの転移魔法で私達は神殿へと戻ってきました。今は豪華な部屋、アデリーナ様の執務室とかいう場所のソファに座っております。ふかふかです。


 アデリーナ様は上機嫌です。誰も嗅がない中、聖竜様がアデリーナ様の足に顔を近付け、『うん。大丈夫。消えたよ』と言われ、その後、胡座をかいて自分の足を顔に持っていくという、はしたない格好で自分の足の臭気を確認していました。

 それ以来、彼女はご機嫌なのです。



「ハッピーそうね、アデリーナさん」


「えぇ。一年ほど堪え忍んでいた、(おぞ)ましい呪いから解き放たれました」


 呪い……。今まで履いていた靴をゴミ箱へ激しく投げ捨てた様子を見るに、あの靴を脱げない呪いでも掛けられたのでしょうか。現に何とも表現しにくい甘ったるいような、鋭いような悪臭をアデリーナ様が靴を脱いだ時に感じました。


 アデリーナ様は確かに人に恨まれ易い性格をしています。今まで私も色々と……色々と……えっ、急にお酒を飲ませてくれなかった想い出が記憶が蘇ります。


 淑女たる私が夜の森で艶やかにお酒を飲もうとしているのに、私だけお水だったのです。皆、琥珀色の液体だったのに、私だけ、凄く透明な澄んだ水だったのです。魔物駆除殲滅部の先輩だったアシュリンさんだけでなくへっぽこ剣士のグレッグさんでさえ、お酒を何杯も飲んでいたのに、私は誰かのグラスから溢れた一滴だけを舌で舐めて終わったのです。

 あの宴会の仕切りがアデリーナ様だったことを完全に思い出しました。


 腹立たしい。うさを晴らすために、お酒が飲みたい! ……いいえ、違う。私は淑女。私は淑女。私は心優しくて気弱な淑女。ちゃんと感情を圧し殺して、いつも笑顔でいられるプロ淑女。


 

「メリナさん、どうされましたか?」


「何もありません。後ろの棚のお酒様が気になっただけです」


 そう! 座るアデリーナ様の背後に棚があって、そこに高級そうなガラス瓶に入ったお酒様がたくさんいるのが見えたのです!


「あはは、巫女さんは変わらないわねぇ。クレイジーだけど好きよ。でも、まだ真面目な話が終わってないからね」


 ルッカ姉さんは私に優しい人です。だから、言うことを聞いてやりましょう。


「話なんてありましたか?」


 私は尋ねます。それから、アデリーナ様が淹れてくれたお茶をズズッと(すす)りました。



「ルッカの指摘通りで御座いますよ。私の人間としての尊厳は取り戻されましたが、メリナさんに関することは何も解決しておりません」


「私ですか?」


 今日は聖竜様と再会に至り、大変におめでたい日となりました。できることならば、永遠の記念日として今日の日付を毎年の祝日として、皆で祝いたいくらいなのですがねぇ。


「メリナさんの記憶を奪ったのは聖竜ではない。それはハッキリしました」


「そうねぇ。聖竜様、この半年ちょい、全然コミュニケーションなかったし、私のコンタクトも断っていたし。怪しいと思ったんだけどなぁ」


「まさか雄化魔法の習得に全力を捧げていたとは夢にも思いませんでした。愚かでは御座いますが、それだけメリナさんに恩を感じていた訳なのでしょう」


 言いたい放題のアデリーナ様ですが、私は許します。むふふ、そっかぁ、第三者の目から見ても聖竜様は私に感謝していたのかぁ。過去の私、本当にグッジョブ。



「さて、最有力候補が外れた今、次の容疑者を考えましょう」


「そうね。アデリーナさんのスマートさに期待するわ。ねぇ、巫女さん?」


「はい」


 短く答えました。犯人捜しなんてどうでも良いとは思っておりますが、場の流れに身を任せます。早く宿に帰ってベッドでゴロゴロしたいです。



「容疑者を絞りきれていませんが、挙げていきます。まずはルッカ。貴女です」


「えっ!? 私!? 何でよ!」


「事件の際、最も近くにいたからで御座いますよ」


 柔らかく笑うアデリーナ様の眼は鋭くて、ルッカ姉さんの反応を観察する目的が現れていました。かなり露骨です。


「えー、アンビリーバボー! 巫女さんの記憶を奪っても何も得しないじゃない、私!」


「そうで御座いますよね。他を挙げましょうか。魔力的な要因だとそれだけの魔法を使える者となりまして、候補者はフローレンス巫女長、マイア、消えたはずの邪神、ヤナンカ、フロンくらいでしょうか。薬物が原因ならば、メリナさんを恨む多くの方々や私の弱体化を狙う少数の方々の可能性があって分からないと言うのが実情です。薬師から疑っていくのが良いのでしょうけども。いっそのこと、本当の転倒事故ならば幸いなのですが」


 チクッと私を貶しませんでしたか、今?

 私は今も昔も他人に恨まれる生き方をしたことなんてありません。記憶がなくても断言できます。

 でも、早く帰りたいので、私はニコニコです。


「で、アデリーナさん、今の最有力は?」


「……メリナさん自身」


 っ!? また私を責める気ですか!?


 口にしていたお茶を顔面にぶちまけて差し上げようかと私が悩んでいる中、アデリーナ様は続けます。


「記憶を失くす日まで、メリナさんは神殿の新人寮の部屋を明け渡すように圧迫されていました。それから逃れようと自らの記憶を封印し、混乱のどさくさに紛れて住み続けようとした可能性があります」


「えっ? 今は住んでないですよ? 自分で出ていきましたもん。ねぇ、ルッカ姉さん」


「その展開まで予想していなかったとも考えられます。メリナさんは浅知恵ですから」


 ひどっ! 被害者に対して何てセリフなんでしょうか。デビル! デビルアデリーナと名付けてやりたいです。


「ふーん、まあ、巫女さんはクレイジーだからねぇ」


 否定してください!


「犯人がメリナさんなら問題はないのですが、そうでなければ、私の手駒に危害を加えたのです。犯人にはそれなりの罰を与えないといけません。ルッカ、命令です。私が挙げた容疑者を見張って頂きます」


「巫女さんの為だから良いけどラボリアスだなぁ」


「ラボリアス?」


「骨が折れるってこと」


 なら、そう言えば良いのにと思いましたが、口には出しませんでした。だって、賢さか個性をアピールしている人にそんなことを言ったら赤面させてしまいますもん。ルッカ姉さんは良い人なので、優しく見守ってあげるのです。どんなに痛々しくても。

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