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中間発表

「ちょっ――」

「それでは、次のチャレンジに進むことのできる方々を紹介していきます。下から順に発表していきますね。でも、下位とは言っても、皆さんもご存じの、あの酷く難解で体力も必要な依頼を達成した猛者達です。侮るなかれです」


 私の抗議は拡声魔法を使用しているであろうローリィさんの声に掻き消されてしまいました。



「メリナさん、一位でなかったのは残念で御座います。しかし、まだ中間発表。巻き返すチャンスは御座いましょう」


 隣に立つアデリーナ様がそう私を諭してくれました。


「恐らくは突破した組を紹介するに当たって、評価基準が見え隠れするでしょう。それを鋭く感じるのです」


「分かりました……」


 アデリーナ様は冷静でした。私もそれで平静を取り戻します。私達のやり取りを横目で見ていたお母さんも満足そうにしていました。


 

 多くの冒険者が最も古い祠とかを探しに行ったはずです。それが昨日のことですから、未だ探索を続けている人も多いでしょう。

 つまり、ここにいる冒険者達は諦めて戻った者達の集団。どちらかと言えば、あまり真面目じゃない人達で、お祭りが好きなんだと思います。だから騒ぐのも大好きでして、やんややんやと集まって雰囲気を楽しんでいました。壇上のローリィさんを囲む者は数百人は居るのかと思います。



「それでは、まず、第8位! チーム名は『蘇生魔法』です!」


 手にしている紙をローリィさんが読み上げます。


「「ワーー!!」」


 歓声が凄い。騒ぎ過ぎです。

 そんなに盛り上がる要素はないと思うのに。皆、お酒で酔ってるのかな。

 ローリィさんが手招きしているのは太古の賢者二人。彼女らが寄って行かないので、困ったローリィさんが壇上から下りて近付きました。


「魔法による高速移動により行き帰りとも目標地点への到着は最速。フィジカルの強さが判断できなかったのは残念です。そんな彼女らは競う相手でない無抵抗のギルド職員を突然襲うという狂暴性を見せまして、品性の点で大幅減点されてます」


 あー、4つくらいあった項目を同時に評価しているのか。


「戦闘力、魔力、品位、知性でしたっけ?」


「似たようなものですが、正確には肉体、魔力、品性、知性で御座いましたよ」


 アデリーナ様は賢いなぁ。よく覚えておられます。


「はい、皆さん、もう一度祝福を」


 ローリィさんの言葉を受けて、一斉に歓声と拍手が巻き起こりました。



「続きまして、第7位。敏感ボイーズです!」


 変な名前。


「親父、行くぞ」

「待て、ナトン。人が多くて恥ずかしい」


 息子に引っ張られて、親子が壇上に戻ったローリィさんの所へ向かう。彼らが敏感ボーイズだったのですね。どっちもボーイと呼ぶには年を取り過ぎていると思います。


「おっさんの方が腰骨を折った人を身を挺して守るという行動を取りましたね。品性で加点されてます」


 2つの組の結果説明で、加点と減点のシステムがあるのは分かった。


「ところで、変なチーム名ですね。由来は?」


「あー、家宝の本の名前です。知人に貰ったんですけど、僕らはこの本に救われたんです」


 ギョームさんが答えますが、きっと家宝にしてはいけない本でしょ、それ。大勢の冒険者の人達もザワザワしてますよ……。この人は良識のある方だと思っていたのに。


「ノノン村にナトン有り。覚えておいてくれよな。剣では大概のヤツには負けないつもりだ」


 おぉ、ノノン村の名前を轟かせるっていう目的をナトンさんは覚えていたのか。私、ちょこちょこ忘れてましたよ。



「第6位。らぶらぶ夫婦」


 っ!? その名に当て填まる組み合わせのは1組しかないぞ!


「パッ、パウスッ!」

「良いじゃないか。本当の事だし隠すことでもないからな」

「隠すもんだっ!」

「ハハハ。アシュリン、らぶらぶ夫婦は認めるんだな?」

「くっ! 認めておらん!」


 背の高い2人が言い合っているのが見えました。あー、アシュリンさんの赤面はイメージが壊れるので止めて欲しいなぁ。お前はもっと冷徹暴力軍人キャラで行くべきです。


 ローリィさんの評価では、フィジカルの強さを褒めていました。


「第5位。聖文神武」


 壇上へクリスラさんとショーメ先生が登ります。鶏冠頭に戻っているクリスラさんは名前と姿が知れ渡った冒険者ですので、大きな声援が起こりました。


「関係のないギルド職員を襲ったり、毒での暗殺を試みたりと品性での減点要素がなければ、更に上位に行けたと評価されてます」


 ククク、ショーメ先生がクリスラさんの足を引っ張った訳ですね。良かれと思ってやったことが裏目に出る。ショーメ先生、ザマーミロです。ご本人も大変に悔しいことでしょう。



「第4位。剣智のジーニアス」


 わっ、格好いい。


「行くぞ、ミーナ」

「倒れてただけなのに偉そう……」


 ちびっこコンビか。

 なるほど、剣のミーナちゃんに、知恵のエルバ部長。恐らくは部長のネーミングセンスですね。格好いいとか思って損した。


「特筆すべきはリタイア寸前の参加者を運搬して助けた、断トツに高い品性ですね。肉体的な耐久性も優れていました」


 品性もどうかと思いますが、耐久性?

 あっ、そうか。私が抜けてからの乱戦で、あの場に残った者の中で意識を保っていたのはミーナちゃんだけでした。そこを評価されたのかもしれない。


「次も頑張るぞ」

「偉そう……」


 ミーナちゃんの感想はその通りですよ。エルバ部長は何もしてないもん。



「さて、いよいよ、第3位! チームぬるるんです」


 私達の番ですね。


「行きますよ、アデリーナ様」

「仕方御座いませんね」


 壇上は意外に広くて、ローリィさんと並んでもあと2人くらいは乗れそうでした。


「今も空を飛ぶ黒い竜を召喚して使役する魔力、依頼書を守り的確なタイミングで開封する知性、とても優秀な成績でした。鎖骨を折られた肉体、ギルド職員を襲った品性での大幅な減点がなければ、1位だったかもしれません」


 うわ、アデリーナ様が足手まといって言ったも同然。何て言うか、事実なんですが、それはそれで大変に居心地が悪い。


「あのメリナとアデリーナ……?」

「あれをゾルが上回ったのか……」

「スゲーな、ゾル」


 壇上を降りる時に近くの会話が聞こえてきて、私達を噛ませ犬にして剣王の評価が上がっていくのが聞こえました。屈辱です。



「メリナさん、ルールを理解しました。次は心配なさらず」


「恥じ入るかと思ったら強気の言葉で良かったです」


「メリナさん、貴女もアシュリンに吹き飛ばされた減点、ミーナさんを奇襲した減点があったはずで御座いますよ。調子にお乗りなさらないように」


「アデリーナ様は負けず嫌いで凄いです」


「よく回る舌ですこと」


 さて、私と入れ替りで2位チームがやって来ます。



「チームおばさんです。身体にも影響する精神魔法での先制攻撃、それに続いての確実に意識を刈り取るパワフルな打撃を見せてくれました。とぼけているのは名前だけ、極めて戦闘能力に特化したチームです」


 改めて考えてもヤバいチームです。

 ショーメ先生でさえ転移する前にお母さんに捕らえられて、高速の顔面張り手からの背負い投げで地面に叩き付けられていました。

 曲者のショーメ先生は実力の底を見せないですが、お母さんが一瞬で目の前に来た時は面食らった様な表情をしていました。


「ごほん。私もノノン村出身です。さっきのメリナも私の娘でノノン村出身です。こんなにノノン村の人が活躍してくれて嬉しい気持ちでいっぱいです」


「あらあら、私もまた訪問したいわ」


 ノノン村について触れるお母さん。私が壇上で言い忘れたことを後から咎められなかったらいいなぁ。


「ノノン村?」

「知らないぞ」

「異常に強い奴らばかりなのか……」

「今度、探してみるか」

「死ぬぞ。あのメリナの故郷なんだろ……。魔界なんじゃないか……」

「確かに……」


 おぉ、お父さんの意図通りに村が恐れられて行く。凄い。お父さんが役に立ってる。



「さて、最後。皆さん、結果を既にご存じですが、オズワルズです! パチパチパチー」


 オロ元部長が地中から派手に飛び出てきて、周りの人が土煙に咳き込みます。

 そして、剣王を頭近くの背に乗せて、ローリィさんの立つ壇の前でとぐろを巻きました。


「強烈な打撃にも倒れないタフさと、尋常でない精神魔法を弾き飛ばす魔力防御を併せ持つ蛇型獣人。半殺しにされそうだった子供を命掛けで助けに行く慈悲の心に、悪知恵を先読みする知恵を持つ剣士。2人の長所が重なり合っての1位です。おめでとうございます。引き続き頑張ってくださいね」


「「ゾル、ザック! ゾル、ザック!」」

「「へーび、がみ! へーび、がみ!」」


 観衆が2人を称えます。オロ元部長の通称が蛇神と決定された瞬間でもありそうです。

 嬉しそうに手を振っていた剣王が、しばらくすると落ち着くようにジェスチャーをします。

 徐々に騒ぎが収まり、皆が注目する中、辺りが静寂に包まれてから彼は語りだしました。


「皆、聞いてくれ。俺たちはオズワルズ。オズワルドさんっていう慈善家が作った村を代表して参加してるからオズワルズだ。んで、そのオズワルド村な、食えないヤツは移住を歓迎するぜ。でも、貧しい村だから冒険者の方がマシな暮らしかもしれねー。今は芋を分け合って食べるくれーだ。だから、お前らは来なくていい。来ても後悔するだけだからさ。冒険者にもなれねーような獣化のひでー獣人を見つけたら、それこそ、こんな全身が蛇みてーなヤツでも構わねー。そういう奴らにオズワルド村の存在を教えてやって欲しいんだ。宜しく頼むぜ。あー、もう一度言っとくぜ。今のお前らにタダ飯は食わせねーからな。とは言え、もしもお前らの手足や両方の目玉が失くなったら、その時は歓迎するぜ。おめーらの消えそうな命を俺らに預けな。助けてやるからさ。だから、安心して冒険者を続けやがれってんだ。んで、冒険者なら俺が今言った依頼を受けてくれよな。金は出せねーが、将来のおめーらの為にも働いてやるからさ」


 言い終えても静寂が続くのかと思いましたが、その後にまた、歓声が爆発したかのように響くのでした。冒険者達の心には剣王の言葉が刺さったようです。

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